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侍女に恋を知り、国に挑む。末っ子王子の夜と昼  作者: 沢鴨ゆうま


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05 Fabula 鋼の心、柔らかな微笑

 二人の刺客を捕らえた翌日、拘禁室という名の普通の部屋へと食事を運ぶ……はずだった。

 俺は、調理場から直接運ぶつもりだったが、女中たちに阻まれてしまった。

 このシルヴァーヴィスタ離宮の主であるがゆえに、女中たちの言うことを聞かなければならないとは。

 まあ、食事を運ぶことに慣れていない俺のことだ。足がつまずいて、計画を台無しにする可能性は否定できない。

 そもそも、三人分の食事を一人で運ぶなど、俺では片道で一日掛かってしまいかねない。

 三人の女中は、食事を拘禁室の前まで運んだあと、扉の前で一人分ずつ渡してくれた。

 護衛として付いてくれたリリアナは、後ろへ振り返って剣に手をやり、廊下の真ん中に立つ。

 扉のすぐそばにはエリスが張り付き、周囲の様子に集中している。

 俺にとって一番慣れ親しんだ防御態勢で、とても安心できる。

 ダルクヴァルトの探索時間を作るために、日が昇る少し前での顔出しとなったが、拘禁室の中のゼフィラとベリスはすでに起きていた。


「おはよう、朝早くからごめんよ。朝食を持ってきたから、よければどうぞ」


 欠伸をこらえているゼフィラを横目に、ベリスから質問が飛んできた。


「おはようございます……閣下自ら食事を!? 食事を運ぶのは使用人ではないのですか?」

「もちろんそうだよ」

「でも……」

「君の言う通り、使用人ではなく僕が持ってきているね」


 気持ちがいいくらいに驚いたな。

 拘禁室に閉じ込めた本人から世話をされたら、ベリスのように困惑して当然だろう。

 少しでも早く話を進めるには、その戸惑いを使ってこちらが先導すればいい。

 なんてことを考えて動いてはいるが、実のところそこまでする必要もなく、こちら主導で話を進められる状況ではある。

 ただ単に処遇を決めるだけなら、王家のしきたりにのっとって伝えるだけでいい。

 だが俺は、暗殺未遂事件を片付けるだけで終わらせたいわけじゃない。

 では、俺の狙いは何か――。


「起きて間もないだろうから、目を覚ますにはちょうどよかったかな。君たちと話がしたいから、食事をしながら話そうよ」

「はあ……」


 納得できない、理解できないといった、不満気な表情のベリスだが、食事は気になるみたいだ。

 じっと見ているから、素材についてや味などを想像しているんだろう。


「僕たちが食べているものと一緒だよ。同じものを使用人たちも食べている」

「同じものを、ですか?」

「そうだよ。わざわざ分けていたら料理人が大変だろ? 城には選ばれた食材が仕入れられているから、メニューを少々変えたからって、口に入れるものは一緒。それならみんなが同じものを食べることで料理人の仕事がはかどるし、食材も無駄にしなくていい」


 前回の尋問と同じように、二人は並んで座り、俺と対面している。

 一口サイズにスライスされたライ麦パンの山と新鮮なリンゴ、それにフルーツエールを前にして、ベリスは不思議そうな顔のまま俺の話を聞いている。

 ゼフィラは、相変わらずこの状況について理解しているのか否かがわからない笑顔で、俺を見つめていた。


「どうぞ、しっかり食べな。まだこの部屋から出すわけにはいかないけれど、お腹は減るからね」


 ゼフィラの奔放さからすると、てっきりガツガツとした食べ方をするのではないかと想像していた。

 けれどそこは貴族の娘らしく、きれいな指先でパンをつまんで口元を軽く隠して頬張った。


「硬いけど……噛んでいるうちにどんどんおいしくなる! 今まで食べたライ麦パンの中では一番おいしいかも」

「それはよかった。あとで料理人に伝えておくよ」


 おいしそうに食べるゼフィラを見て、ベリスも食べ始めた。


「食べながらでかまわないから、話の続きをしようか。君たちがこの離宮に入ることができたのは、第二王妃殿下によるものだというのはわかった。そして、王家に仕えたい気持ちがあるけれど、入城の条件だった第二王妃殿下の指示に背くことはできなかったと」

「はい、そうです」

「僕の暗殺を指示したということは、第二王妃殿下は君たちの能力について知っているの?」


 ゼフィラの言う通りおいしかったのか、ベリスは、パンをひと目見てから答える。


「私たちから能力があると伝えたことはありません」

「君たちから伝えていなくても、第二王妃殿下が知らないとは言い切れないな。家族はどうなの?」


 食べるのに夢中なゼフィラは、答える気がなさそうだ。というより、詳しく答えられないのかもしれない。

 暗黙の了解として、この手の質問にはお友達が答えることになっているらしい。

 さらに一口食べたベリスが、フルーツエールを飲んで口の中を空にしてから答えた。


「私が能力者であることは、姉だけが知っています。姉は能力を持っていないのですが、持っていると危険な目に遭うかもしれないから、絶対誰にも言ってはいけないときつく言われていました」


 ゼフィラが、もぐもぐと動く口を手で隠しながら、ウンウンとうなずいている。


「ですので、恐らく両親は知らないままのはずです。これまで一度も私の能力について話したことはありませんので、父から第二王妃殿下へ伝わったとは考え難いです。自分の子供が能力者だったらと嘆くことはありましたが」

「そうか、両親にも伝えないほど徹底するのはなかなかできることじゃない。ベリス、それにお姉さんもずいぶん賢いようだね。ゼフィラはどうなの?」


 話を振られたゼフィラは、ベリスと同じくフルーツエールで口の中を空にしてから答えた。


「私、怒っちゃうとすぐに風を吹かせちゃうから、隠すのが大変だったんですよー。でもでも、家族には教えていません! 教育は母から受けていたんですけど、アストレヴィア連邦には能力者がとても少ないことを教わった程度でした。『あなたは持っていないから心配はないけれど』と言われていたので、家族は誰も知らないはずです」


 気になる言葉遣いではあるものの、ゼフィアも頭が切れる子だと感じる。

 そうでなければ、いくら親同士の仲が良くても、周囲に隠しながらお互いが能力者であることは隠さず、一緒にいることに重きをおくほどの関係にまでなれやしない。

 風を使うゼフィラと光を操るベリス。この二人は、できれば仲間にしたいところだ。


「起きて間もないのに、いろいろと聞いてすまなかったね。食事はゆっくり食べてかまわない。残ったら扉の横にでも置いておいてくれればいいから。ではまた来るよ」


 朝の尋問に区切りを付けた途端、ダルクヴァルトへ行きたい衝動に駆られた。

 拘禁室を出ると、待っている間は何事もなかったとエリスが目で伝える。

 たとえ目を見なくても、彼女が緊張をしていなければ、平穏だったとわかる。

 それでも、目を合わせることでお互いに安心できるから、エリスと目で会話をすることは必要で、結構気に入っている。

 ――最近妙に感じるようになったことがある。

 エリスは、控えめなようで積極的な性格をしているように思う。

 諜報の能力を持っていて、状況分析が優れている彼女。

 表では控えめにしている分、裏では積極的になる、ということなのだろうか。

 そんなエリスとは対照的に、緊張感を漂わせている子が隣にいた。


「リリアナ、ご苦労様。話は終わったからいったん戻ろう」

「わかりました」


 拘禁室に入る前に見た立ち姿と寸分違わぬリリアナは、少しだけかすれた声で答えた。

 待っている間に喉が渇いてしまったようだ。ひと言も発することなく、集中していたのだろう。

 俺が声を掛けると、肩の力をゆっくりと抜きながら深く息を吐いた。


「早朝の用事は済んだから、次はダルクヴァルトの探索に行くよ。その前にリリアナ、水を飲んで喉を潤すように。声が出せないと、僕がリリアナと話せなくなるだろ?」

「そんな……アール様ったら。いっぱいお話しができるように、いーっぱい飲んでおきますね!」

「お腹を鳴らすほど飲まないでね。警戒監視の邪魔になるから」


 エリスが冷めた突っ込みをすると、リリアナは軽く頬をふくらませた。


 ◇  ◇   ◇


 日が昇っても、薄暗いことぐらいしか知ることができなかったダルクヴァルト。

 探索初日に城外へ出て早々、刺客が現れるなんてことを経験した侍女たちは、俺の四方を囲むようにして歩いている。


「それにしても、まさか隠し通路があるなんてね。ヴォルフガングが教えてくれなければ知らないままだったかもしれないわ」

「これもアール様が公爵になられて、お仕事が始まったからこそですね」


 ルヴェリナとリリアナが、後ろを振り返って崖の上に立つ城壁を見ながら言った。

 叙爵前まで城壁の外へ出ることをあきらめていた俺たち。

 だからこそ、彼女らは感慨深げに言うのだ。


「どうにか出る手段はないかと、毎日のように考えていたね。叙爵されればとは思っていたけど、その望みがかなうかどうかはわからなかったし」


 本来なら、城外へ出るには城門を通らねばならない。

 それだけで、俺が城外へ出たと大々的に知られることになる。

 ライサリア第二王妃とその派閥が、俺の動きに目を光らせているのは明白だ。

 刺客を寄越した後、何の音沙汰もない今、城門を出入りすれば、次は第二王妃直属の兵が動く可能性もある。


「……まったく、ヴォルフガングという人は」


 彼が教えてくれた、城壁から直接ダルクヴァルトへ出られる隠し通路。

 慎重に考えれば、今は離宮で大人しくしているべきだ。

 だが――。

 木々の隙間から覗く森の奥は、そんな理屈を簡単に忘れさせるだけの力を持っていた。

 それでも、くれぐれも気を付けろ、と。

 早めに戻るよう、ヴォルフガングは念を押していた。

 侍女たちにも真剣な表情で頼む姿を見せられては、今回の探索もあまりできなさそうだ。


「この子も……ここには樹齢が百年どころではない古木が多いですね」


 ティアラが、巨木にそっと手を当てて見上げている。

 その視線には、長い年月を生き抜いてきた木への感動と尊敬が浮かんでいるようで、ティアラの純粋さを物語っていると感じた。


「大きな木があちこちにあるけど、枯れてはいないのか」

「おそらく、ほとんど枯れていないと思います……今まで感じたことがない大きさの魔力を感じるので」

「魔力?」

「はい。アストレヴィア連邦では『能力』と言われていますが、ほとんどの国では『魔法』と呼ばれています。魔法を使うにはこの『魔力』が必要なのです」


 セルヴィンが能力について語るとき、なんだか濁して話していたんだよな。

 俺は、なんとなく知っているという状態が好きではないから、いつも詳しく教えるように頼んでいるのに、だ。

 倫理学や政治哲学、歴史だとか他のことは教えてくれるのに、こと能力の話になると歯切れが悪くなる。

 そこまでわかりやすく動きが変わってしまうと、アストレヴィアが能力について閉鎖的か、何かを隠していると勘ぐるのは当然だ。

 城外の侍女が来てくれたということは、城内では知り得ないことを教えてもらえる機会が増えるということ。

 セルヴィンが教えないのなら、侍女たちから教えてもらうだけさ。


「ここにいるみんなは能力を持っているけれど、この木からその魔力をもらえたりするの?」


 俺は、ティアラが触っている古木に指を差して聞いた。


「はい、もらえます。木だけでなく、石などでも魔力を吸収できます。それらに近づくか触ると補充されるそうです。今、魔力を宿している森――ダルクヴァルトにいる私たちは、あちこちから魔力を吸収しています。この森の中にいる間なら、呼吸をしているだけでも吸収できているはずです」

「それって、能力には限りがあるってことだよね。でも今までルヴェリナたちは、一度も能力が使えなくなったことがないよ」


 ティアラは、まだ振り返れば見える俺たちの居城、サヴェルノワール城の城壁を見て答えた。


「シルヴァーヴィスタ離宮は、ダルクヴァルトから目と鼻の先にあります。離宮に届く風が魔力を運んできているはずですし、ここで採取した食材からも摂取できます」

「食材か……離宮の女中たちが、僕においしいものを提供してくれようとして、ダルクヴァルトの野草やキノコを採取していたっけ。ルヴェリナたちは、知らない間に魔力を吸収していたってわけだ」

「魔力って、空気みたいですね。吸えば満ちて、吐けば消える……そんな感じ」


 ティアラは少し照れたように微笑んだ。

 森の中では、小柄な身体ながら、頼もしさを感じさせる。

 だが、ふとした瞬間に見せる柔らかさが、小顔も相まって堪らなく愛らしい。

 頬が緩みそうになるのを、意識して引き締めた、そのとき――。

 ティアラと共に城を眺めていた視界の端に、リーニアの姿が映り込んだ。

 森の中を通っている川の様子見から戻ってきたようだ。


「魔力は水からも得ることができます。離宮で使われている水が、ダルクヴァルトで汲まれたものならば、触れているだけでも能力者は魔力を吸収することができますよ」

「森を形成している植物は、水がなければ育たない。そこから考えると、むしろ植物より水の方が魔力をより含んでいそうだね」

「人も、水がなければ生きられません。その水に魔力があるのならば、能力者は簡単に、しっかりと吸収することができます。シルヴァーヴィスタ離宮は、ダルクヴァルトからの恩恵を多く受けられるすてきな場所です」


 能力者にとって離宮で過ごすことは、とても大きな意味があったんだな。

 といっても、離宮に仕える者たちの中に能力者がいるとは聞いていない。

 恩恵を受けていたのは、ルヴェリナたちだけってことになるのか。

 関係があるのかはわからないけれど、増える侍女たちがみんな能力者なのは、魔力に呼び寄せられているからかもしれないな。


「アール、ちょっと早いけれど、そろそろ戻らない? 第二王妃派の人が来るかもしれないんでしょ? 見つかったら大変だわ」

「確かにそうだね。残念だけど、今回はここまでにしておこう」


 離宮に戻ったら、離宮の使用人たちに能力者がいるのかどうか、ヴォルフガングに聞いてみるとしよう。

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