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侍女に恋を知り、国に挑む。末っ子王子の夜と昼  作者: 沢鴨ゆうま


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12/12

12 Fabula 断崖に佇む黙示の聖堂

 ザルク講師の案内で、ダルクヴァルトの一角にあるリルヴァナク修道院を訪れる。

 石碑から修道院までの道中は、俺たちがまだ足をのばしていない場所で、とても新鮮だった。

 植物の種類や石や岩などの種類が変わったわけではない。

 地形によって配置は換わるから、目に映る光景が初見のものになることが楽しい。

 侍女たちも、遮域への対応とザルク講師への警戒による緊張が解けてきたようで、浮かべる表情は明るくなっている。

 彼女たちが微笑み、軽く談笑する声が聞こえてくると、俺の頬も自然と緩む。

 知らないことを教えてくれるであろうザルク講師との出会い。

 加えて、普段から俺が欲してやまない、侍女たちが楽しんでいる姿。

 時折、エリスが俺に寄り添おうとするのをリリアナが止めたり、ベリスが俺に近づくと、ゼフィラが警戒するそぶりを見せたりと、みんな俺と共に歩きたいらしい。

 別に一緒に歩いてはいるのだから、とは思うのだが。

 そして、俺の手をしっかりと握り、温かい癒しを流し込んでくれているのがルヴェリナだ。

 何気ない楽しみも、心を癒してくれるルヴェリナの能力によって倍増されている気がする。

 ただ……最近、握る力が強くなっているように思うが、気のせいだろうか。

 俺を離さないという、気迫にも似た圧を感じる。


「アールヴェリス閣下、あれがリルヴァナク修道院です」


 ザルク講師が手を差し向けた先には、石碑と同じく、苔むした石造りの建物が大自然の中で異様な存在感を放っていた。

 初めて見る建造物は、数本の大木を抜けた先、徐々に木々の背丈が低くなる場所にあった。

 断崖を背にそびえ立つ修道院の周囲には、農園といくつかの家屋が点在している。

 遠方から微かに滝水の音が届き、近場からの渓声が混ざり込んで聞き及ぶ。

 音のみしか認識できないのは、修道院を隠すかのように霧が漂っていて、近場しか見渡すことができないからだ。

 そう、俺たちは、いつの間にかダルクヴァルトと山岳地帯との境界地まで来たようだ。


「思ったより山岳地帯は近かったのですね」

フィルタリオン(首都)からはダルクヴァルトと傾斜の妙により、ちょうど死角になっているのです。訪れたことがなければ一生気付かないでしょう」

「そうなんですね。僕は、城壁からダルクヴァルトを眺めていました。小さいころからずっと。でも、遠方の霞がかった山脈は目に入っていたけれど、この山岳はまったく見えていなかったな」


 目に安らぎを感じるダルクヴァルトの緑と、吸うことが楽しくなるほど清々しい空気。

 それらで十分に満足していた俺にとって、ちらりと見える山脈は空の一部と変わらぬ扱いだった。

 ザルク講師の言う通り、ダルクヴァルトの、それもリルヴァナク修道院を目指しでもしない限り、今目の前に広がる山岳地帯を拝むことはなかっただろう。

 初めて見るリルヴァナク修道院は、そんな俺の心を躍らせるだけの驚きと楽しみを感じさせてくれた。


「お帰りなさいませ、ザルク先生。突然出て行かれたので心配していました」

「おや、ひと言も伝えずに出ていましたか。これは申し訳ない。少々気配を感じたのでね、見回りに行っていました」

「おそらく何かを感じられたのでしょうと、皆で話していました。けれど、気がかりなまま作業をすることになりますので、どうか、外出の際はお申し出を――」

「はいはい、以後気を付けますね。それより、とても素敵な方々をお連れしましたよ」


 ザルク講師は、頭をポリポリと掻きながら、農園で作業中の修道女と思われる少女たちから注意を受けた。

 講師と修道女の良好な関係がひと目でわかるやり取りは、初対面でも好印象を持てて気分がいい。

 修道院の印象といえば、ゼシアノール修道院に通っていた姉のエレスによる話から抱くものしかなかった。

 エレスから聞いていた話は、彼女の精神系治癒能力にまつわることが中心であったため、修道院は治癒を施す者の育成場であり、秘匿性の高い事柄を守る場でもあるというものだった。

 また、エレスは、母である第三王妃リリスヴェーア、加えて俺とルヴェリナたち以外には、心を閉ざしている。

 その印象から見るザルク講師と修道女のやり取り。修道院への思い込みを覆すほどに楽しくなりそうで、俺の心は弾まずにはいられなかった。


「王家の方々!? し、失礼いたしました。お足元の悪い中で、このような場所まで来られるだなんて」


 農園で作業をしていた数名の修道女たちは、王家と聞こえた途端に振り返り、全員が同時にカーテシーをして迎えてくれた。

 ザルク講師が手先を俺のブローチに向けて差したことで、王家だと気づいたようだ。

 修道女たちは、濃い紫色に金の刺繍が映える、ふくらはぎ丈の上質なローブを羽織り、黒のスカートを着用している。

 この服装も、俺の想像を打ち消す立派なものだ。


「お連れの方々は、専属侍女のお嬢様でいらっしゃいますね。すぐに支度しますので、中へお入りくださいませ」


 一人の修道女が、ふくらはぎ丈のローブからのぞかせるスカートを翻し、修道院へと案内する動きに移る。

 農園内にいる他の修道女たちも作業を止め、何やら出迎えの準備を始めた。


「いや、作業中の手を止めさせてしまうのは申し訳ない。突然こちらがお邪魔したのですから、そのまま作業を続けてください」

「王家の方が、深い森の奥地にまで足を延ばしていただいたというのに、何もしないわけにはいきません。どうかお気になさらず」


 俺は、自分の立場が邪魔だと感じる瞬間がある。

 アストレヴィア連邦の王家、アルステッド家の子というだけで身構えられるところだ。

 加えて今では、爵位という衣を着て、領土を統括するなんて役職についているのだから、今後はもっと意識されてしまうだろう。

 事をうまく動かすには、必要なことだとわかってはいるが……。


「アールヴェリス閣下、私がお連れしたお客様なのですから、この場は私たちに任せていただけませんか?」


 ふむ、修道院の人たちからしてみれば、断られる方が困る、と……やはり俺は、立場なりに動かなければ迷惑をかけてしまうのだな。

 もっと王家の者らしく振る舞わなければいけない……宿命を黙殺するなど幼稚な振る舞いでしかないってことか。


「では、そうさせていただきます」


 少し困った表情をしていた修道女が、俺とザルク講師のやり取りを見届けると、表情を明るい笑顔に戻し、修道院に向けていた足を再び進めた。

 彼女と同じく、俺たちもザルク講師に続いて再び歩きだす。


「このリルヴァナク修道院には、六人の修道女と、三人の修道士がいます」

「……修道女は五人のようでしたが」

「ええ。もう一人は、修道院長と共にヴァリゼンク村へ出かけています」

「ヴァリゼンク村?」

「はい。リルヴァナク修道院と連携している村です。ダルクヴァルトの北東端にあるのですが、街道に近いこともあって、様々な物資や技術を得ている頼もしい里なんですよ」


 所属している人数は少ないが、立派なリルヴァナク修道院が支え合う相手は村なのか。集落の大きさで物事をはかるつもりはないが、詳しく知らずに聞くと、つい疑問に感じてしまう。

 結局のところ、村と聞いただけで疑問に感じたのだから、俺は改めて考えを正さなければならないな。


「ダルクヴァルトの北東端となると、随分遠いですね。ダルクヴァルトをお二人だけで抜けるのは、危険なのではありませんか?」


 ザルク講師に会うまでに俺たちは、少ない回数ながらもダルクヴァルトを訪れている。

 少し探索するだけでも様々な出来事があっただけに、院長の身を案じてしまう。


「おっしゃる通りです、閣下。猛獣や賊に狙われる可能性は十分あり得ます。そこで、修道女を院長の付き添いとして行かせました」

「付き添いに修道女ですか。まるで私の専属侍女のようですね」


 俺は、専属侍女たちならば、連れて行くのが一人でも安心できる。

 だが修道女一人となると、どうにも安心につながらない。

 それは単に、修道女がどれほどの能力を持っているのか知らない、というだけ。


「確かに、言われてみればそうですね。院長に付き添わせた子は、お嬢様たちと同じくフォルシエールなのです。そして修道女の中でも、群を抜いて能力の高い子ですので、道中の院長の支援は軽くこなせます。院長ならば、たいていのことはお一人で解決できます。しかし私たちとしては、少しでも安全な状況を維持していただくため、付き添わせました」


 ここにも侍女たちと同じ能力者……修道院なのだから、フォルシエールがいてもおかしくない。

 なぜなら、フォルシエールの育成と保護の場だからだ。

 俺は一国の王子であるものの、迫害も同然の扱いを受けている立場。

 だが、フォルシエールたちに囲まれているおかげで、窮屈な状況にもかかわらず、むしろ楽しみさえ感じられている。

 そして、さらに修道院長の護衛を一人でできるほど、強力なフォルシエールに会える。

 この恵まれた状況……ふんだんに活用するためにも、すべて掌握したい。

 護衛の修道女は、ザルク講師の表情からすると、随分と信頼に足る能力の持ち主のようだ。

 そんな話を聞いたら、弥が上にも期待が高まる。

 頭の中で想像を巡らせていると、ルヴェリナに優しく肩を撫でられた。

 俺の悪い癖に気づき、さりげなく気付かせてくれたルヴェリナは、いたずらっぽい目で見つめたあとにクスクスと笑った。

 その笑みはとても澄んでいて、いくらでも見ていたいと思わせる。

 心を無防備にできるルヴェリナ、リリアナ、エリスの三人がいなければ、俺は発狂してとっくにこの世からいなくなっていたかもしれない。

 彼女に上げてもらった気分を、さらに高めるであろう場所を改めて眺める。

 リルヴァナク修道院は、山岳地帯と森林地帯の境界に建てられており、岩壁が削られた階段状の地形をうまく利用している。

 講師の家や農園のある下層、その一段上からは、各段ごとに城壁のような囲いが幾重にも設置されている。

 背後の断崖も合わさって、まるで城塞のような威厳を感じさせる。

 階段を上る間、ザルク講師と話しているおかげで、あっという間に最上段まで上り切った。

 聖堂の玄関前で振り返ると、対面の断崖が霞の隙間から見え、山岳地帯を目の前にしていることを実感する。


「すーっ、はあ。とてもおいしい空気ね……ちょっと寒いけど」


 ゼフィラは、気持ちよさそうに深呼吸をしたあと、両肩を抱いて寒そうにした。

 確かに空気は澄んでいるし、適度に湿度も感じられて、清々しさはある。

 けれど、さすがに万年雪を被った山岳地帯を望む場所なだけあって、気温は低い。

 作業用の服であることはすっかり忘れてここまで来てしまったから、侍女たちには申し訳ないことになってしまった。


「こちらをお使いください。私たちと同じローブです。ヴァリゼンク村の方々が、リルヴァナクの気候に合わせて特別に仕立てくれたものなんですよ」

「わあ、すてきね。ひと目見ただけでも上質なのはわかったけれど、手に取るとより上等品であることを実感するわ」


 ルヴェリナがうれしそうにローブを撫で、素材の感触を楽しんでいる。

 侍女たちも、普段馴染みのあるものと違う生地には興味津々の様子だ。

 ローブを見ながら、ああだこうだと会話を弾ませている。彼女らが、貴族の娘であることを改めて実感する光景だ。

 侍女らが楽しんでいる姿を見ていた俺に、二人の修道女が緊張した面持ちでローブを掛けてくれた。

 ローブは、修道士用にとヴァリゼンク村から届けられたものだとか。


「院長用のローブをお貸しできたらよかったのですが……ヴァリゼンク村で一夜を明かすかもしれないからと、持参されていまして。ザルク先生のは少し傷んだままなので論外ですし」

「あ、ははは。そういえば修繕していませんでしたね」


 ザルク講師は頭に手をやり苦笑いをし、修道女たちは、なんだか楽しそうに彼を弄っていた。


「いえいえ。こんな上質なものに出会えてうれしいです。ありがとう」


 修道女たちは、頬を赤らめてから踵を返して持ち場に戻った。

 いくらローブが暖かくても、寒さで顔までは暖かくできないのか、はたまた赤くなるほど暖かいのか……。

 着させてもらったローブを自分がしっくりくる位置にもぞもぞと調整していると、俺の腕にルヴェリナが肘を押し付けてきた。


「別に慣れてるからいいけど」

「どういうこと?」


 俺は、横目でルヴェリナを見る。


「ふふふ、アールはそのままでいてね」


 ルヴェリナの目線は、去っていく修道女たちの後ろ姿に向けられていた。

 何が言いたいのかわからないが、ルヴェリナの機嫌は良さそうだから、そのままにしておこう。


「図書室にご案内します。お話しをする場としてはもちろん、階段の疲れも癒してくれますよ」


 ザルク講師の言う通り、図書室に足を踏み入れた瞬間、疲れが一瞬で吹き飛ぶような癒しの空間が広がっていた。

 壁一面に並ぶ古びた革装丁の書物の棚が、長い歴史を誇示し、中央には、これまで長きに渡って修道院を見つめてきたであろう重厚な木製の机と椅子が鎮座している。

 棚のない場所には暖炉があって室内を暖かく保ち、薪がパチパチと音を立て、かすかに木の香りが漂っていた。

 窓からは断崖の美しい景色が広がり、修道院を守っているかのように感じさせる。

 図書室からの癒しを満喫していると、俺にローブを着させてくれた修道女たちが、椅子を用意してくれていた。


「城へのお帰りが遅くなってはいけませんので、早速お話しを始めましょうか」


 そうだった。すっかりリルヴァナク修道院に魅了されてしまって、離宮へ帰ることを忘れていた。

 横からエリスが俺の前に顔だけ出し、無言のまま上目遣いでニコリとして席についた。

『離宮のことを忘れていたでしょ?』と言わんばかりの仕種だ。

 指でおでこを突くぐらいしたいところだが、フラフラだったエリスが元気を取り戻したことに安堵したので、俺はそのまま黙って椅子にかけた。


「さて、フォルシエールのことでしたね」


 フォルシエール――能力者のことをそう呼ぶらしいが、名称の違いよりも能力者が魔法使いだと知って驚きはした。

 しかし、驚くのは一瞬のことだった。アストレヴィアに根付いている呼び方が能力者というだけの話だからだ。


「フォルシエールの使う能力、いわゆる魔法になりますが、こちらはエレヴァニスと呼ばれています。フォルシエールと同様に名称の違いというだけなので、世間ではそう呼んでいるという程度でよいかと」

「世間知らずの私からすれば、とても有用な情報です。むしろザルク講師が、あまりに無知だと呆れはしないか心配しています」


 ザルク講師は、跳ねるように背筋を伸ばして目を見開き、片手を振って否定した。


「とんでもございません。これまで閣下が過ごされてきた環境を思えば、得る情報量に限界があるのは仕方のないことです。ですが、お会いしてから私が感じているのは、離宮で生活されていたとは思えない知識と鋭い洞察力、そして魔力の持ち主であるということ。それも並外れているので、普段からエレヴァニスに触れている私でも、初見では測ることができずに困惑しています」


 俺は、ザルク講師の心紋を見て、本音を語っていることは確認済みだ。

 それでも、はっきりと伝えられた言葉を信じることができなかった。


「僕が、魔力の持ち主?」

「はい……そのご様子ですと閣下は、ご自身がフォルシエールであると認識されていなかったようですね」

「……」

「アールヴェリス閣下、もしもあなたに能力がないとしたら、フォルシエールであるお嬢様方を束ねるのは至難の業。お嬢様方は、本来ならばエレヴァニスの加減に苦労し、閣下にお仕えすることも困難なはず。ですが、お会いしたときに驚いたのは、ひと目で、とても統率の取れた集まりだとわかったことです。それは、能力なくして成せることではございません」

「……となると、専属侍女がフォルシエールなのは、私が無意識に呼び寄せていたりするのでしょうか」

「その可能性は大いにあると思われます」


 俺が、能力者……大国と呼ばれる中で、アストレヴィア連邦にいる能力者は、とても少ないと教わった。

 理由の一つとして、領土が拡大するにつれて、能力者について疎くなってしまったからだという。

 能力に頼らずとも、ほぼ争いをせず領土拡大ができてしまったために、能力者の扱いが手薄になったらしい。

 それなのに、俺の下には能力者ばかりが集まってくる。

 ルヴェリナたちか、ダルクヴァルトか、もしくはどちらもが呼び寄せているのだと思っていたけれど、実は俺自身もその一人だっただなんて、今更笑えない。


「……まだ実感は薄いですが、色々と腑に落ちた気がします。自分自身を知らずして、彼女らの指揮を執っていたとは、お恥ずかしいばかりだ」

「閣下、そのようなことはありません。私は能力を持つ者かどうかはわかりますが、どのような能力なのかは予想の域を出ない。そんな不確かな情報でもよろしければ、私の見解をお伝えしますが……できれば、不要な出来事が起こるのは避けたいので、耳をお貸し願えますか?」


 ザルク講師は、口角を囲むように片手を当て、俺だけに話したいという仕種をする。

 おそらく、まだ侍女たちには知らせるときではない能力、ということなのだろう。

 どんな形であれ、俺がどのような能力を持っているかは知りたいに決まっている。

 俺は頷いて、耳打ちの承諾をした。


「閣下の能力は、人の心を掌握するものだと思われます。私が閣下と対面して体験したのは、胸の奥を覗かれ、かき回されているような錯覚を起こすという不思議なもの。しかし、私の経験やこれまで文献から得た情報からすると、錯覚としてやり過ごすには無理がある。なぜなら、明らかに何かをつかまれたという、はっきりとした感覚があったからです」


 俺が胸の内の何かをつかんだ? 人の心を掌握するものという見解からすると、『心』をつかんだということだろうか。

 普段、会話相手が俺に敵意を持っているかどうか、心紋を見て判断しているだけだった。

 それが心をつかむという行為なのか……どうにも実感が湧いてこない。


「アール、大丈夫? もう、またいつもの悪い癖が出ているわ。ほら、ザルク講師が困っているじゃない」

「いえ、私が閣下に困惑するようなことを申し上げたのです。閣下、落ち着かれるまで、お嬢様方にどのような能力をお持ちなのか、お尋ねしてもよろしいですか?」


 俺は、意識を頭の中の整理に集中させてしまっていた。ルヴェリナの声で意識を戻し、ザルク講師からの問いで、リルヴァナク修道院の図書室にいることを再認する。

 問いを頭の中で復唱し、頷きだけで承諾をした。

 ザルク講師は、微笑を浮かべ、机を囲んで等間隔に座っている侍女らへの質問に移った。


「黙り込むほど衝撃的なことを教えられたの? 一人で抱えきれないときは、迷わず私に話してね。もちろん、リリアナやエリスでもかまわないから」


 ルヴェリナは、先ほどの冗談めいた表情とは違い、聞くだけで癒される彼女特有のささやき声を掛けてくれた。


「ありがとう。少し驚きはしたけれど、納得できるものだから大丈夫だよ。離宮に戻ったら教える」

「はい。そう言ってもらえるだけで私は安心よ。それに、何を聞いたのかは想像できているの。ただ、アールの口から聞きたいってだけ」

「……ルヴェリナは心が読めるもんな。能力者は、心に触れることができる人が多い。ならば俺は、心を閉ざす能力を習得してみるのも面白いかも」

「そんなの嫌よ。私は常にアールを見守っていたいのだから。それに、無防備でいられる人がいないと、あなたは疲れてしまうわ」

「もし心を閉ざす能力を持ったとしても、ルヴェリナに対して使いはしないよ。これから先、似たような能力者と対面した場合の話さ」


 なんだか、ルヴェリナとの関係性を確かめる話になってしまった。

 背中に刺さる、ゼフィラとベリスからの視線を感じながら――。


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