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厨房で仕込みをしているJean-Lucに声を掛けて、テストをしてもらうことにした。彼は急なお願いにも快く答えてくれて、即座にテストが始まった。食材を切ることから、ポワレ、ブレゼ、ロティール・・・などと指示された調理を行い、最後に好きなものを一皿完成させるように問題が出された。
Ramonが作った一皿は、ラム肉のソテーだった。ラムの上にはアスパラガス、クレソン、ロマネスコ、パプリカ、インゲン、ブロッコリーと様々な緑の野菜が添えられている。みな同じ緑色で、みな違う緑色。黒い楕円形の皿に盛りつけられた野菜は、それぞれに新鮮な美しい生命力を主張している。
まずJean-Lucがナイフを入れた。私は彼の表情の変化を注視した。見かけだけ良くても客には出せない。ラム肉はフランスではあまり食べないし、匂いを好まない人が多い。私も少し苦手だった。
「う~ん・・・」
Jean-Lucが溜息とも感嘆ともとれる息を漏らし、私に食べてみるように促した。ラム肉を小さくナイフで切り、皿に描かれたソースを付けて口に運んだ。
「ふふふ・・っははは・・・」
私は笑みを堪えられなかった。ラム肉独特の臭みは、様々なハーブと混じり合って新しい味を作り出している。香水を作る時に糞臭を混ぜるというのを聞いたことがある。まさにラム肉の臭みがなければ、この美味さは生まれない。一体どんなハーブを何種類入れたのだろう。どうやって焼いたのだろう。飾りつけの野菜と一緒に食べると、味の幅がどんどん広がっていく。
「すごい!美味しいわ。」
思わず絶賛してしまった。Jean-Lucも私の言葉に深く頷いている。
「うん、良くできているよ。」
Ramonは照れくさそうな嬉しそうな面持ちで私たちを見つめている。
「じゃあ、片付けをして、事務所に来てくれる?」
私はJean-Lucと二人になり、彼の採用について意見を聞いた。
「いいんじゃないかな。基本は出来ているし、それ以上かもな。」
ほっとした。私はRamonにここで働いて欲しかった。
「そう、じゃあ、採用でいい?」
「あぁ、合格点以上だと思うよ。」
「よかった。出来るだけ早く来てもらうことにするわ。」
Jean-Lucと入れ違いでRamonが事務所に入ってきた。
「Ramon、今日はお疲れ様でした。是非、うちで働いて欲しいんだけど、いつから来られる?」
Ramonの緊張気味の顔は、一瞬で解れ、明るくなった。
「えっ、本当ですか?ありがとうございます。いつでも大丈夫です。明日でも。ただ、家が見つかるまでは、ちょっと時間をいただければと思います。」
「今はどこにいるの?」
「Villa Cassisに泊っています。」
「ホテル暮らしなのね。家か・・私も知り合いに聞いてみるわ。きっとすぐに見つかるわよ。」
「ありがとうございます。」
「明日から来てくれる?家探しの時は時間をくれるようにJean-Lucに頼んでおくから。」
「助かります。」
安堵と喜びに満ちた顔をして、Ramonは帰って行った。明日も彼に会えることを、私は嬉しいと感じていた。求人が埋まったからだけではなかっただろう。




