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朝目覚める狭間で、現実がたちどころに押し寄せてくる。私はCassisにいて、今日からAngelaの店をGiorgioに代わって動かしていかなければいけないのだ、と一瞬で思い出し、その設定の中に自分が組み込まれていく。一日の予定が絨毯を広げるように現れる。


店には何度か訪れたことがあり、スタッフとも会っていたので、初対面の緊張はないが、これからは立場が違う。Giorgioの友達で立ち寄った観光客ではない。同僚として付き合っていかなければならない。私が構えすぎなのかもしれない。周りは優しく受け入れてくれる。肩に力が入っているのは自分でもわかる。Angelaの期待に応えたくて緊張している。そのうち慣れるだろうと深く息をする。


食欲もなく珈琲だけ体に入れて、着替える。黒のパンツスーツにした。髪をきつく束ねて、化粧も薄く、気配を消すように仕上げた。料理が主役なのだから、私は黒子に徹する。店は夕方に開けるが、Jean-Lucは朝から今夜の仕込みをしに来る。私も散らかった頭を整理して仕事を始める。昼過ぎになるとRaphaelとMarieが出勤して来た。


「Marie、今日からよろしくね。」


最初にやって来たのはMarieだった。18歳学生。長身に長い手足を持て余すように歩く。ブロンドの髪と青い瞳は、この世のすべてを自分の物にできる自信に溢れている。整った顔立ちは彫刻のように冷たくも感じる。白い肌に黄金の産毛が光を放つ。男たちは平伏して彼女の後を追うだろう。長い髪の香りを嗅ぐために貢物はどれくらい必要だろう。


「Anna!また会えるのを楽しみにしていたの。嬉しい!」


天真爛漫に作り出される笑顔を私は暖かく受け取った。


「ありがとう。いろいろ教えてね。」

「何を言っているの。あなたはAngelaなんだからドンと構えてなくちゃ。」

「はは、そうね。頑張るわ。」

「こちらこそよろしく。」


自分の子供ほどの年齢のMarieに励まされる。彼女が輝いて見える。きっと思い通りの人生を作っていくのだろう。微笑んで彼女を見る。羨ましくはない。私はもう若い時には戻りたくはない。もう十分生きてきたような気がしている。何をしたわけではないけれど、もう一度若さをやり直したいとは思わない。疲れているのかもしれない。Marieと高校生のように話しているとRaphaelが厨房に入ってきた。


「Anna、大変だったね。僕にできることがあったら言って。」

「ありがとう、Raphael、レストランの経営なんて初めてだからわからないことだらけなの。いろいろ教えてね。よろしく。」


Raphaelは物静かな佇まいをしている。40歳前後だったと思う。消極的に、やるべきことを難なくこなしていく。栗色の少し長めの髪とわずかに蓄えた髭は、彼をより柔らかく感じさせる。無口で伏し目がちだが、暗い印象ではなく、優しい物腰に映る。実際、男性にしてはとても優しい気遣いができる。安心してなんでも相談できるような気になってしまう。


「すぐに慣れるさ。大丈夫だよ。」

「ありがとう。」


 根拠なく私は安心できた。頼りになるのはJean-Lucだけでなく、みんなに支えられていると実感していた。何とかなるだろう。


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