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胸のしこりを見つけてから数か月、それはいつも片隅に縮こまり、私の注意を引く。気づかないようにしている時は、気にしている。そろそろ片隅の暗闇に光を当てなければならない。表面に浮かんでくれば暗闇を気にすることはなくなる。
私は治療法ではなく、余命を聞くために医者の予約をした。治療をするつもりはなかった。私は鏡のように波立たず静かだった。音もなくどこまでも広がる静寂にあった。これでいい。
小さな町では、根も葉もないことが実しやかに噂になる。私は人間の同情を怖れて、少し離れた町の病院で診察を受けることにした。大きな病院の受付で婦人科の場所を聞き、三階の窓口に辿り着く。病院は白く、硝子窓から日差しが非現実的に差し込む。窓のない場所は光の代わりに壁に絵が描かれたり、花が飾られたりしている。ここはもう一つの世界への繫ぎ目なのかもしれない。
待合室で順番を待ち、エコー検査や血液検査、検体採取を行う。私にはこの検査技師よりも自分の体のことがよくわかっている。彼女は不運で可哀想な私に気づかれないように、事務的にことを進めようとしている。笑顔が不自然にならないように気を付けて私に微笑みかけてくれる。このしこりの意味はお互いよくわかっている。
再び待合室で医師に呼ばれるのを待つ。死刑宣告を待つのか、最終章の台本を渡されるのか、最終巻の発売されていない書籍を手渡されるのか、いずれにせよ私は静かだった。静かでありたいと思っていた。
医師の部屋に通される。普段着の女性が、ラップトップのむこうで明るい笑顔を振る舞ってくれる。
「こちらにかけて。」
私は医師の机の前の真っ赤な心地良さそうな一人掛けソファに腰かける。柔らかく沈んでいく。
「検査の結果から判断すると、悪性の腫瘍のようね。」
パソコンの画面に向けられていた彼女の顔は、私の方に向きを変え、笑顔を捨てて真剣に判決を読み上げた。結末のわからない台本であることを、私は望んでいたのだろう。彼女の言葉と同時に、重い緞帳が真っ黒く舞台に下ろされた衝撃を感じる。体内が漆黒の筒になり、動揺する力もない。絞首刑なのか、斬首なのか。大きな息で肺を満たし、悟った侍のように微笑みすら浮かべて、私は暗闇から言葉を発してみる。
「えぇ、私の母も乳癌で亡くなっているので、わかっていました。」
「・・・そうなの・・」
「あとどれくらいですか?」
私は科学的なデータだけが欲しかった。
「そんな質問は適当ではないわ。まだ49歳じゃない。今すぐに治療を開始すれば、まだわからないわよ。」
医師は私を窘めるように語尾を荒げた。
「いえ、治療はいいんです。母が死ぬまで苦しむ姿を見ていますから、私は初めから受け入れたいんです。」
彼女の医師としての毅然とした態度にも、私の信念が揺らぐことはなかった。
「・・・よく考えて・・今決めなくてもいいから・・・」
言葉を継ぐことのできない医師に、私は静かにお願いした。
「治療をしない場合、あとどれくらいですか?それを教えてください。」




