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Jacquelineはそう言い終わる頃には完食していた。私は会話する二人を見ながら、お似合いだと思った。目の前の言葉は通り抜け、JacquelineとRamonの映像を見ていた。彼女のような女の人が丁度いい。Jacquelineは三十前後だろう。まだ妊娠することができる。男に愛される価値がある。未来がある。Ramonの欲するものを与えてあげることができる。
「厨房に伺ってもいいかしら。料理について質問させていただける?」
JacquelineはRamonと私の顔を交互に見比べて、許可を求めてきた。
「ええ、もちろん。Ramon、案内して差し上げて。」
私は二人が厨房に行くのを促した。二人の後を歩いて続く。二人には未来に向かう絨毯が敷かれている。それは先に行くにつれ輝きを増している。私の足は泥土に埋まっていく。足首まで汚泥に浸かり、次の一歩が出なくなる。そのまま汚泥に沈んでいく。老いた体は腐敗して自然に帰れるだろうか。
「あのデザートのシロップには何が入っているの?甘味だけじゃないと思うんだけど。」
RamonはJacquelineの質問に喜んだ様子で、棚からハーブの瓶を幾つか取り出し、揚々と説明を始めた。Jacquelineの大きな黒い瞳が輝き、Ramonは幸せそうな眼差しで見つめる。私の足についた汚泥は乾き始め、異臭を放つ。私は拭うこともできず、若い二人の美しい光景を眺める。翳りのない希望だけの光景。眩しくて目を逸らす。
「ありがとうございました。記事ができたら出版前に見ていただくようにしますね。素晴らしいお料理、素晴らしいレストランでした。じゃあまた連絡します。飛行機の時間があるので。」
話しかけるJacquelineの言葉に目を覚まして、私は慌てて返事をした。
「ええ、こちらこそありがとうございました。ご連絡をお待ちしてます。気を付けてお帰り下さい。」
私は再び握手を交わそうとしたが、料理の興奮が冷めない様子のJacquelineは私を軽く抱きしめて感謝を表してくれた。彼女の純真さが可愛らしく思えた。その肌には茶色い斑点はなく、その肉は十分な水を保ち、その骨にしっかりと纏いついていた。
「ごめん、ごめん遅れちゃって。途中で車が動かなくなって、電話しようとしたら携帯を家に忘れていることに気づいて、もう大変だったよ。」
Jacqueline とカメラマンを見送ろうとしていると、慌てたJean-Lucが店に入って来た。
「大丈夫よ、Ramonが対応してくれたから。もう終わったわ。」
私はJean-Lucに微笑んで返し、私たちは二人を見送った。
「悪かったなあ、Ramonありがとう。」
Ramonは照れくさそうに首を振った。
「とにかく無事に終わったし、雑誌ができるのが楽しみね。さぁ、仕事、仕事。開店の時間よ。」
すべてが流れて行く。私の計画では何も進んでいない。すべては流れて行く。




