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「Anna、お客さんが会いたいって言ってるんだけど。」

「え?私に?」

「そう、3番のお客さん。」

「了解。」


くぬぎの太い幹の向こうにカップルが見える。3番のテーブルには黒髪のショートボブにジーンズに真紅のジャケット、この辺りでは見かけない服装の女性が座っている。二十代後半か三十前後だろうか、向かいの金髪の若い男性と談笑している。


「いらっしゃいませ。お料理はいかがですか?」


クレームかもしれないので、私は丁重に笑顔で話しかける。


「素晴らしいわ。」


彼女は私の言葉に振り返ると、即座に返事をして右手を差し出した。私が喜んで握手に応えると、女性は話し出した。


「Jacqueline Walterといいます。ニューヨークから来ました。雑誌記者です。今、ヨーロッパのレストラン特集を組んでいて、是非こちらのお店を取材させていただきたいんですけど。」


名刺を私に手渡しながら、アメリカ人らしい単刀直入で率直な依頼をしてくる。名刺には『Style』という雑誌の名前と彼女の名前が書かれてある。


「・・・こんな小さな町の小さなレストランでいいんですか?」


店の味には自信があるが、雑誌に掲載されるほどなのだろうかと、突然の訪問者に戸惑った。


「もちろん!こんなにいい雰囲気で、こんなに美味しい料理がいただけるんですから、紹介しなくちゃ。」


今でも観光客に常連客に、毎日盛況なのだから宣伝する必要もなく、かえってもっと観光客に来られたら対応しきれなくなってしまうと私は瞬時に判断して躊躇したが、一方で何か残るような記録が欲しい気もした。Angelaも喜んでくれるかもしれない。


「フランスの港町で日本の方が支配人というのも珍しいでしょ。是非、取材させてください。お店とお料理の写真を撮らせていただいて・・・」


Marieは何処まで私のことを話したのだろうと、取材の段取りを淀みなく話す記者を見て、訝しく感じた。


「お店だけなら・・私のことはいいので・・・」


女性記者は私が口を挟んだので、少し驚いたような面持ちで挽回しようと試みる。


「いいんですよ、お店だけで。個人的な話を載せるような記事じゃないんで。」


私は承諾する流れに自分の体が押し出されて行くのを感じていた。


「・・・わかりました。それなら喜んで。」

「ありがとう!早速、今夜お店の写真を撮らせていただけないかしら。お料理は後日、お薦めの品を作っていただいて、解説と一緒に載せるので、別日で取材させていただきます。」


彼女の顔は一瞬で明るくなり、次々に段取りを説明してくる。私は押し寄せる波に溺れないようにうまくかわす。カメラマンだった金髪の男性は、手際よくバックからカメラを取り出して写真を撮り始めた。


「お客さんは撮らないから大丈夫ですよ。お店の雰囲気がわかるような写真にしますから。彼は結構いい腕をしているから安心してください。」


私はぎこちなく笑顔を作って返す。


「数日滞在する予定なので、二、三日のうちに料理の写真と取材をお願いしたいんですけど、いいかしら。」

「ええ、シェフに相談してみますけど、開店前に来ていただければ結構です。」

「じゃあ、お電話いただけます?名刺に番号があるので。」

「わかりました。」



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