22
次の朝、眠れずにベッドを一人先に出る。Ramonの眠る横顔が名残惜しく、ぬくもりがもう恋しい。
朝早い地面は、草から立ち上がった水蒸気で僅かに白く曇っている。家の前で花の手入れをしているYvonneが、私をみつけて手を振っている。魔女の手招きに引き寄せられて彼女のもとに歩いた。
「おはよう。早起きね。」
「おはよう。なんだか眠れなくて。こんな早くから花の手入れ?」
「年取ると長く寝られなくなるのよ。ははは。」
Yvonneの笑い声が、太く優しく頼りになった。心細く、簡単に吹き飛んでしまいそうな私は必死で捕まった。
「愛しなさい。」
寒くなり始めた朝の中を暖かい風に乗ったYvonneの言葉が、儚くも確かな力を持って私に届いた。
「えっ?」
聞き間違えだったかもしれない。風に揺れる髪の間に消えた言葉を、私はYvonneに確かめた。
「何のこと?」
「愛しなさい・・・愛しているんでしょ?」
私が戸惑って返す言葉を見つけられずにいると、
「お茶でもいかが?毎朝、庭で取れたハーブのお茶を飲むのよ。付き合ってくれる?」と、Yvonneは私を家の中に招き入れてくれた。
暖かいミントとレモングラスのお茶を私の前に差し出して、彼女は優しく悲しく話し始めた。
「夫が死んだ後、一度きり恋したことがあるのよ。こんなおばあさんでもね。その時もう私は50過ぎていたけど、彼は40で・・どうしようもないくらいお互い惹かれ合って、楽しかった。彼は私と一緒にいたいって言ってくれたけど、私は彼の人生を邪魔したくなかった。だから、去ったのよ。本当に愛していたし、彼もすごく愛してくれた。それでもそれが最善の決断だと信じた。彼が結婚して子供や家族が欲しいって言ったことが一度あってね。その言葉が忘れられなくて・・・それから私は苦しみとずっと一緒に暮らしている。心の片隅が真っ黒でね。そこを突っつくといつでも闇に包まれてしまう。・・・愛が溢れてくるのを止めることはできないのよ。ただ愛すればいい。自分で決めることじゃないのよ。愛しなさい。」
頬を伝っていく涙を拭くことも忘れ、Yvonneを抱きしめた。私は私を抱きしめて泣いた。体が震えるほど泣いた。
出会った人は必ず去って行く。始まったことは、必ず終わる。どんなにしがみついても無駄なこと。苦しみを増すだけ。私が決断することではないのだと信じて、終わりを感じながら、流れて行く。




