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「どうしたの?Marie?」


幾分高揚した面持ちでホールに入って来たMarieの様子が不自然で、私は尋ねた。


「やっぱりそうだった。」

「何が?」

「Raphaelのこと。Annaも気づいていたでしょう?」

「何のこと?」


私には彼女が何を言っているのかさっぱり見当もつかない。


「彼、ゲイなのよ。」

「知らなかったし、どうでもいいわ。Raphaelの好みに興味ないもの。」


Cassisは古い田舎の港町で、カトリックが根付いている。表立っていなくてもゲイを好まない保守的な人は多いだろう。それでも内心、驚きというより、若いMarieが他人の性癖に言及することに抵抗を感じた。


「職場内の恋愛には注意したほうがいいんじゃない?」

「どういうこと?」


経営者として管理すべきことなのか戸惑ったが、Marieは話したくて仕方ないように見えた。


「RaphaelとJean-Lucがキスしているの見ちゃったの。」

「えっ?!」

「私が厨房に入って行ったら、Jean-Lucが・・・私が急に現れるとは思ってなかったのかしら・・・Raphaelと・・・」


Marieの話が完全に耳に入ってこない。Jean-LucにはEdithがいるし、そんな雰囲気を感じたことがなかった。それに彼がゲイであっても、浮気していても、干渉するつもりはない。しかしEdithを思う。今夜はEdithが食事に来ている。友達と連れ立って、テーブルで夫の作る料理を楽しんでいる。


「Marie、それはここだけの話にしてね。誰が誰を好きだろうとあなたには関係ないでしょ。ここは仕事場なんだから、あなたもプロに徹してね。」


Marieは取り合わない私の態度に、不服そうな身振りをして離れて行った。


MarieがRaphaelに好意を抱いているのには気付いていた。RaphaelがMarieに関心を示さない様子にも気づいていた。老女の目は節穴ではない。彼女は自分に振り向かないRaphaelに、怒りに近いもどかしさを感じていたのだろう。自分に平伏さない理由を見つけ、得意気に見えた。これで彼女の王冠に傷はつかない。


このことが、軽口のMarieからEdithに伝わらなければいいがと心配がよぎる。これまで潤滑に動いていた店の空気も変わらないことを願った。経営者として私がすべきことは何だろうなどと瞬時に頭の中を考えが錯綜する。



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