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それから店が休みの毎週日曜と月曜は、必ず二人で過ごすようになった。彼の家か私の家で、着替えもせず終日ベッドで映画を見る。私が買った中古のシトロエンで、月に一度はスペインやイタリアに旅行に出掛ける。Ramonのバイクで海岸沿いをひたすらに走る。言葉のない空間も心地よい。二人でいることが当たり前の日常になっていった。
どこかでRamonも他の男と同じように、口からは一途な男の台詞を吐いて、体は他の女に向かって行くものと予想していた。そのほうが気楽でもあった。最初のひと月は私に夢中な素振りを見せていても、数か月はもたないだろう。
暑い夏を過ぎ、心地よい秋と肌寒い程度のCassisの冬がきた。Ramonのぬくもりを常に感じながら、終わりを目指して私は彼を愛し続けていた。二人の時間の蓄積は確かな重さを感じさせた。
12月半ばから店を閉めて、各々が家に帰って行った。Ramonは私に、私はRamonに帰った。二人で、クリスマスもいつもと同じ日常を過ごし、ただ食べて寝る日々を愛した。年が変わっても、私たちの日常は引き続き同じ章の中を進んでいく。
Ramonの誕生日が先にくる。私は、年の差が15になるひと月あまりを、いつもより若い気持ちで過ごす。そして私の49回目の誕生日。もうすぐ50だ。死の宣告のように丁重に受け入れる。Ramonとの愛しい日々の終わりに向かって進む。
花びらの先端がピンクに染まっていく白い薔薇の花束を、Ramonは私に押し付けるように差し出した。全く私の目を見ずに、視線も体もそっぽを向いたまま、腕だけを私のほうに無理矢理に伸ばして、花束を渡そうとする。
「誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
「こういうの苦手なんだ。」
Ramonの恥ずかし気な素振りが愛おしく、その時も彼も抱きしめた。愚かな私は最初の契約を忘れ、この時がいつまでも続いていくのではないかという不相応な錯覚を抱いてしまう。愛されている幻想は、口角の脇の微細な肌の凹凸が覚ましてくれる。茶色い斑点がいつの間にか浮かび上がって、私を自然と老女に変えていく。美しい幻想は脆く容易に崩れ去る。
それでも私は凝りもせず幻想の城を建て続け、そして壊す。城の土台は泥土でできているのを知りつつ、足が沈まぬように歩く。いつかは泥に埋まり汚泥となることを知りつつ、足元を見ないように歩く。
Ramonと愛し合うようになって二度目の夏が来た。一年も続くとは予想していなかった。私は一年前よりももっと彼を愛するようになっている。それがどれだけ危険なことなのか、自覚しないように過ごす。
最後の時を何とはなしに感じながら、怖れには目を向けず、彼への愛だけを栄養に生き永らえる。汚泥の底で息を封じ込められる苦しみがまだ現実の痛みとは思えない。