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最後の客を見送り、手際よく店が片付けられていく。毎日の流れがまた繰り返される。この後、どう返答することが正解なのか、流れを引き止めるように私は考え続けていた。


「お疲れ様。また明日。」


意図的に最後まで店に残ったRamonが、待ちきれないように堰を切った。


「明日、デザート行くでしょ?」


無垢な瞳で真っ直ぐに見つめられ、私は微笑みながら頷いていた。


「でも、偵察よ。」


私は崖の淵で僅かな抵抗をしてみた。そのままRamonと落ちていきたい心を、これまで築き上げてきた価値観や常識が踏みとどまらせる。


「わかってる、Annaには同じ年代で、金持ちで、Annaの面倒を見てくれる人が相応しい。経済的にね。そう思う。だから若くて金のない俺は相応しくない。」


彼がそんな風に考えているとは知らなかった。


「私に相応しいかどうかなんて。私があなたに相応しくないのよ。あなたはこれから結婚して子供を作って家庭を築いていかなくちゃいけないんだから。私はあなたが真剣に付き合うような相手じゃないわ。」

「先のことなんて考えてないよ。将来なんて。今、楽しく生きたいんだ。いつか子供を持って家族を作りたいけど、今じゃない。今は何も計画してないよ。」

「私こそ、将来なんて、家庭なんて考えていないから、今楽しいだけでいいけど。あなたは違うでしょ。」

「僕の言っていることが信じられないんでしょ。」


お互いが今を楽しみたいと感じていて、一緒にいたいのなら、そうすればいいと私の中からも聞こえてくる。私をこの世界に引き止める常識と彼に惹かれる心が鬩ぎ合う。私は何に抵抗しているのだろう。


「信じてないとかじゃなくて、あなたのためにならないから・・・」

「君が年取った金持ちを見つけるまで傍にいるよ。」


僅かに残されていた足の力は尽きて、私は簡単に心地よく崖を落ちて行った。


「わかった・・・あなたが若くて美しい女の人を見つけるまで傍にいるわ。」


私たちは大切な何かを取り違えたような、不可思議な契約を結んだ。私はこの契約の下に、好きなだけ彼を愛することが許された。


Ramonの大きな掌が私の顔を包み込み、彼は零れ落ちそうな水を掬いあげるように私の唇に彼の唇を触れさせる。髭の感触が私の頬の細胞に、それがGiorgioでもなく、他の男でもなく、Ramonであることを伝える。彼の息が首から私の心臓に入ってくる。二人の境がなくなる。自分がこれ程彼を求めていたことに気づかされる。私の体は彼を飲み込んでいく。私の愛で彼を包むと、彼は私の中に消えていく。


私たちは、ただ静かな暖かい塊になる。何処までも続く、何処までも広く深い塊に。



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