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夢中に話す彼の、お洒落な無精髭に浸食されていない頬を、私は凝視してしまう。
「そうね、料理がお酒によって、もっと美味しくなったり、逆もあるし、相乗効果もあるわね。」
慌てて返事をし、私たちは料理の話から彼の旅の話に移っていった。
「ヨーロッパの国はほぼ回ったけど、アジアには一度も行ったことがないんだ。日本はどんなところ?日本料理を食べてみたいんだよなぁ。フランスで日本食レストランに行ってみたけど、本物なのかわからないし。」
「ヨーロッパで本物の日本料理が食べられるお店は、本当に少ないわよ。」
「そうだよなぁ、やっぱり、いつか日本に行ってみたいよ。」
「行けるわよ、いつか。まだまだ若いんだから、いろんなところに行って、いろんな経験しなきゃ。」
経験豊かな老女は、すべてを知っているかのように若い男に助言する。
運ばれてきた大きな平皿には、ムール貝、ミル貝、ホタテ、何種類かの貝がトマト、セロリ、イタリアンパセリと混じり合って、盛られている。Ramonの言う通り、格別の美味しさだ。芳醇な貝の風味が、スパイスか何かでより一層深みを増している。
「なんだろう、このスパイス。」
Ramonも私と同じことを考えていた。
「そう、私も考えていたの。なんだろう、貝とすごく合っているわよね。」
「何度食べてもわからないんだ。」
「シェフに聞けばいいんじゃない?」
「レシピは教えてくれないよ。それに自分で見つけたいんだ。」
負けず嫌いの子供に私は微笑む。ふと、ある味を思い出した。
「紹興酒じゃない?」
「何それ?お酒?」
「えぇ、中国のお酒で、長年寝かせて熟成させると、味がどんどん変わるのよ。きっと紹興酒だと思う。」
「すごいな、よくわかったね。でも正解かはわからないけどね。」
「ははは、絶対正解よ!」
負けず嫌いの私はそう言い切って、笑った。楽しい。彼といることが心地よく、ここにいたいと思う。私が私でいる。
「よくある貝料理とちょっと違うでしょ?」
自分で作ったかのように得意げにRamonが言う。
「ほんと、美味しいわ。」
私の手は次々に貝を口に運んでいた。
「Annaは何でフランスに来たの?何でこんなところでレストランを?」
「う~んと、長い話よ。長~く生きているからね。」
「話したくないことなら、聞かないよ。過去なんてどうでもいいことだから。」
「話したくないわけじゃないわ。・・・日本で付き合っていた人が、イタリアに帰る時に一緒に来たの。彼は父親のレストランを継ぐためにフランスに引っ越して、その時に別れたんだけど、病気で死んじゃった。私は彼のお母さんにずっとお世話になっていて、そのお母さんの頼みでレストランを手伝うことになったの。」
「・・・その人のこと、まだ想っているの?」
「えっ、・・・もう死んじゃった人よ。」
不意の質問に、私は頭の中で自問自答していた。Giorgioは今でも私の中のどこかで生きている。愛している。触れることはできないけれど、心を温めてくれる。
「あっもう行かないと開店の時間に間に合わないわ。」
残りの白ワインを一口で飲み干して、私はグラスを空にした。Ramonは、ウェイターを呼んで会計を済ませようとする。
「私が払うわ。これも仕事の一環だからね。」
「いや、今日は仕事にしないで、僕が払うから。」
彼は手際よくカードを出して、あっという間に支払いを済ませてしまった。
「ありがとう。ご馳走様。今度は私が驕るから。」
今度があるのか、口をついて出た言葉を信じたかった。
Ramonは静かに微笑んで立ち上がり、私の腰に手を当てて私を出口に促す。彼はヘルメットを手渡してくれると、私たちはそれから一言も話さずに仕事に戻った。
昨日までのように、体を動かす。私もRamonも昨日と同じように働く。そして私は昨日までとは違う二人の視線の交差に気づいていた。おそらく彼も。お互いの意識の変化が、私に彼との距離を繋ぐ同調に気づかせる。
もう昨日には戻れない。目が合う度に作られる微笑みは意味を持つ。彼のレールに私が乗ったのか、私の狭い空間に彼が滑り込んだのか、大きな破壊が起こらなければ、分かたれる時がこないような予感がする。私は受け入れもせず、拒みもせず、流れを見ているだけにした。