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Ramonが厨房で働き始めてから、店中の回転が滑らかになったように感じられた。Jean-LucはRamonに教えるという作業が増えているにも拘らず、今までより仕事をこなせている。静かなRaphaelも暖かく新人を受け入れてくれる。その落ち着いた空気の中をMarieが明るく飛び跳ねている。


私は店の新しい均衡と秩序に安堵し満足していた。どんなに忙しくても、みなで補い合って、毎日が楽しく笑いに溢れるようになった。


「お疲れ様。今日の売り上げは今年一番じゃないか?」


Jean-Lucが片づけを終えて帰り支度をしながら私に声をかける。


「そうかもね。すごく忙しかったもの。」私も同意する。

「また明日!」Marieが手を振って蝶のように去って行く。

「お疲れ様、また明日。」


私は蝶を見送り、Jean-LucもRaphaelも疲れた満足気な背中で帰って行った。


「どう?慣れた?」


一人残って帰り支度をするRamonに微笑みかけてみる。


「ええ、毎日楽しいし、勉強になります。Jean-Lucの技術は今まで見たことがなくて。」

「そう、良かった。」


私は疲れた頬を押し上げて笑顔を作って見せた。


「あの・・・一人なんですか?」


Ramonが思い切ったように言葉を放つ。


「え?・・・家族がいるかってこと?」

「いや、あぁ、プライベートなことだから・・別に・・」

「いいのよ、この歳でプライベートも何もないから・・ははは」

「歳って、そんなこと・・」

「ははは、いいのよ、事実だもん。・・そうね、一人かな、もう誰かと生きるのは面倒だから、いいの。」

「なぜですか?Annaは綺麗だし、若いし、パートナーがいたほうが・・」

「ありがとう。もちろん、デートはしているわよ。まだまだモテるんだから。」


私は笑いながら言葉を繋いだ。


「そうですよね。」


少し諦めたような寂しい横顔でRamonは荷物を肩に担ぎあげた。そして話題を変えるように新しい顔で私を真っ直ぐに見て、

「海岸沿いをずっと行ったところに、美味しい貝料理の店があるんですよ。今度偵察に行きませんか?」と言う。


「そうね、他の店の料理を研究するのもいいかもね。」


突然の誘いに、表面上はビジネスを装いながら、私は密かに浮き立つ心を抑えて返事をした。


「明日、午前中に迎えに来ます。早めのランチをして帰ってくれば、間に合うでしょう。」


急で強引な予定に面食らいながら、私は波立つ空気を楽しんだ。


「わかった、じゃあ、明日。」

「お疲れ様でした。明日。」


Ramonは消えるように帰って行った。厨房に一人残されたまま、この数分のやり取りを反芻してみる。私に何が起こっているのだろう。


16歳も年下の男からデートに誘われたのか?仕事の延長なだけだろう。16歳も年上の老女に恋する男がいるはずもない。いや、私がパートナーを作らずにデートだけを楽しんでいると言ったからかもしれない。老女ですら男の欲求を満たすと想像しているのだ。


一方で、彼ともっと深い話の続きがしてみたかった。Ramonとは人間の根底のところで繋がっている気がする。不確かな錯覚だろうか。厨房の灯りを消して、真っ暗になった空間は昨日と違う意味を持っていた。


シャワーを浴びて、ベッドに入る。昨夜と同じ時間をなぞるのに、私の想いはどこかで一人遊びをしている。寝付かれずにRamonの頬を思い出す。仕事を求めに部屋に入ってきたときの彼の頬。私の目の前を通り過ぎた頬は、瑞々しく張りがあった。自分の手の甲に浮かぶ太く青い血管を眺める。


明日は何を着ていこうか。ワンピースかジーンズか。シャツ?Tシャツ?色は白?ブルー?ピンク?ワードローブを頭の中で開けてみる。あまりにいつもと違ったら、私が浮足立っていることがあからさまだ。五十近い自分が急に恥ずかしくなって、ワードローブを閉じる。


何を期待しているのか、彼の頬を思い出しながら、ただ楽しめばいいと思ってみる。



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