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翌日、Ramonはいつもより少し早く現れた。ブランチを取っていた私は彼にも勧めた。


「大したものはないけど一緒にどう?お腹空いてない?」

「ありがとうございます。じゃあ、少しいただきます。」


私はただ微笑んで彼に椅子を引いて座るように促した。


「朝は珈琲しか飲まなくて・・・こんな時間に朝食なの。」


話ながら、彼のためにパンや卵を用意した。


「珈琲でいい?紅茶にする?」

「珈琲を・・お願いします。」


簡素なコンチネンタルブレックファストを彼の前に置いて、食事を続けた。彼の食べっぷりはどう見ても空腹だったように見えた。後から食事を始めた彼のほうが、私より早く食べ終わる。ナイフとフォークを器用に操る手には、火傷なのか切り傷なのか傷跡がいくつか残っている。


「火傷したの?それとも喧嘩?」


私はふざけて聞いてみた。


「いや、火傷です。まだ半人前だから火傷するんです。」


Ramonは恥ずかしそうに苦笑いを作って私を見た。


「喧嘩って言っておけばカッコいいのに。」と私は笑い飛ばしてみた。


二人で囲む食卓は瑞々しく温かく、時を躍らせた。Ramonのはにかむ笑顔は幼く、長く濃い栗色の睫毛は純粋で、優しさしか知らないように見えた。


「喧嘩はもうしないです。若い時は気が短くて、すぐに手が出て喧嘩になったけど。」


若い時って、32歳の若い時って十代のことだろうと、老女は想像する。


「エゴを捕まえられたから・・っていうかエゴを眺めていられるから。Annaはどうやってますか?」


呆気にとられた。内心とても驚いていた。それを支配人として表には出さずに平然を装う。年上として格好をつける。


驚いたのは私の考えていることを彼も同じように理解していたからだ。私は自分のエゴを見て暮らしている。エゴと戦った時もあったが、エゴは絶対にいなくならない。人間という体を使っている限り、消えることはない。だからエゴを見ながら仲良く暮らすしかない。人生という川を私は彼岸から眺めて生きている。


Giorgioが先に死んだことも、このレストランを任されたことも、すべて私の目の前で起こることをただ眺めて生きている。これまでの経験で、自分の計画では人生は動いていないことを実感していた。すべて手放すしかない。


その考えを突然私の人生に現れたRamonに持ち出されて驚いたのだ。こんな考え方をしている人がいるとは思っていなかった。私はかなりの世捨て人の部類に入ると思っていたから、若いスペイン人と共有できる考えだとは想像だにしなかった。


「・・・そうね、エゴはなくならないから、一緒に仲良く暮らしているわ。人生は楽しむだけよ。」

「じゃあ、人生を見る側に立っているんですね。」


彼はこのありきたりでない会話を、たわいもない日常の世間話のように話す。


「そういうことね。」


この若い彼にこれまで何があったのだろう、何を経験して、何を考えて、今に到達したのだろう。私より16も若い彼が、私がやっと辿り着いた平和な心を既に持っている。私の彼に対する興味は急激に深くなった。


「もうそろそろ行かないと。」


Ramonのほうから催促されて、私たちは食卓を後にして、家を見に行くことにした。私はもう少し話を続けてみたかった。


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