いつもと違う朝
その日の朝は7時15分くらいに家を出て、学校の最寄りについたのが7時50分だった。
駅から学校の道のりを歩いている間に、ふと昨日のことを思い出した。
昨日の走りは気持ちよかった。........死ぬぐらい暑かったけど。
今日から新学期が本格的にスタートする。
二学期最初の授業は確か数学だ....
...........ちなみに一番面倒だった数学の宿題は結局出していない。
朝から気分が落ち込んでいたが気がつけば俺はいつもの食堂に来ていた。
最近の夏は暑さが10月ぐらいまで続くからここのアイスは俺の生命線だ。
サイダー味のシャーベットを選んだ俺は多く広い机のなかで一番端に行き、一番端の椅子に座った。
朝のうちにアイスを食べながら数学を終わらせてしまおうと課題を開こうとする。
ガチャリ。
しかし次の瞬間開いたのは食堂のドアだった。
入ってきたのは...はいそうです。錦戸さんです。
「今日はいるじゃん」
大きくため息をつく俺に近づく錦戸さん。
「なんでここにいるって知ってるの?」
「前にお兄さんに聞いた!」
あいついらん事しやがった。
この学校は中高一貫で、兄はいま高校1年だ。
「菊池って珍しい苗字でしょ?この学校に菊池二人しかいないからもしかしたら兄弟かなって」
そう思ったとしても話しかけれるとはさすが陽と陽ってとこだな。
「なんで毎朝ここにいるの?」
「ほら.......俺ってクラスで話す人がいないから。一人の方が落ち着くって言うか」
自分で言ってて悲しい。でも、無理に話してミスるより一人の方が気持ちが楽なのは事実だ。出来ればほっといて欲しい。
.....?....錦戸さんがさっきから黙ったままだ。
「あの......錦戸さん?」
「...........あたしが話したげんのに......」
「え?」
「菊池、明日から直で教室来てね!ね!」
「え..................あ、はい。」
勢いに押されてついYesしてしまった。
「何話そっか。」
何と言われても。特に話したいことなんて..........あ。
「え、えっと.....陸上部のメニューとか.....教えて欲しい......」
「おお!いいねそれ!」
これは現役に聞いておきたい。
今まで何となく走っていたのが、昨日で何か変わったような気がした。俺自身にもよく分からんが、何か大切なことのような気がする。
.........受け答えは相変わらずカタコトだケド.......。
「えっとね、まず──────」
同級生とじっくり話をするって懐かしいな。いつぶりだろう。..............ほんとにいつぶりだろう..............。
「おーい。聞いてるー?」
「え、ああ。聞いてるよ。」
そこから30分ぐらいは話しただろうか。
と言ってもほぼ錦戸さんのスピーチだったけどな。
「ふぅー。ま、こんぐらいだね」
「ありがと。いい勉強になったよ。でも、やっぱトラックがあってこその練習内容って感じのが多いね。」
家で出来るのは筋トレや外で走るぐらいだ。タイムを測ったり、適切なアドバイスを受けるなら環境が足りない。
俺の考えている顔を見ていた錦戸さんが、なにか思いついたように手をポンっと叩いた。
「ならさ........菊池も陸上入れば?うん。それがいいよ!」
「...............あそっか。」
家に帰っても走りに行く以外特に何もしないし、部活に入ってもいいだろう。
案外あっさり決まった。
「ありがと錦戸さん!今日家族に話してみる」
「え、あーうん。そうだね。」
「?....まぁ、うん。」
ふと横に目をやると出しただけで開かれていない数学の課題があった。結局出来なかったな。まあでもいっか───
「あ!」
びっくりした!錦戸さんが急に大声を上げて上を見ている。この人やっぱ声がでかい。
「どうしたの?」
そう言いながら錦戸さんの視線の先に頭をあげていく。.........え、まって。
「8時24分......」
それはだいたいあと1分でホームルームが始まる時間帯だ。俺たちは数秒間時計を凝視した後、直ぐに荷物を持って教室へ向かった。
俺たちの教室、J2ー2は一階下に降りて一番奥の場所にある。ここからだとだいたい全力で40秒のとこを30秒で走る。
なんでこんなに必死なのかって?だってそれは.....
「なんでよりによって担任が数学の先生なんだ!....」
新学期早々宿題が遅れた上に一度遅刻している。
ほんで聞いてほしい。数学の先生は国語の先生の次ぐらいには怖い。これは全国共通だろ。
焦って走った甲斐があったのか、もう教室が見えてきた。
「はーいじゃ、ホームルームはじめま─── 」
間に合え!
『おはようございますっ!』
二人してドアから勢いよく入ったので、みんなの目線がこっちに向く。
「おお。大丈夫か!」
「は、はい.....はぁ」
やばい。教室内がザワついてきた。
すると先生がにっこり笑顔で肩に手を置いてきた。
なんと。心配してくれてるのか。
「あ、ありが───」
「遅刻だ。」
おっと。やらかした。
「後で職員室来い。」
泣きたい。