歩いてもええやない
始業式は昼過ぎに終わり、俺は家路についた。
............なんで俺と走ろうなんて思ったんだろう。
俺の頭の中は今日の休み時間にあったことでいっぱいだった。
なんだかよく分からん気持ちが心を埋めつくしてるような感じがする。
好きではないってのは分かるんだけどな。
俺が頭を悩ませていると背中を思いっきり叩かれた。
「よぉ勝己!なんか浮かねぇ顔してんじゃん。」
「痛ってっ!兄ちゃんやめてや...」
振り返るとそこには二つ上の兄、拓己がいた。俺と違ってツンツンした頭に特別高い身長。そして溢れ出る陽の雰囲気。つくづく本当に兄弟か疑いたくなる。
「もおうざったるいなぁ...」
「まあまあそう言わずにさぁ。なんかあったん?」
「別になんもないケド......」
「......もしかして、コレ?」
そういうと拓己は笑いながら小指を立ててくる。
小指.....って、はあ!?
「なんやいきなり大声出して」
思わず声が出ていたようだ。ってか別にそんなんやないし。
俺が色々言っていると拓己がニヤリと笑う。
「ちょっと面貸してや。まだ昼飯食ってへんやろ?」
俺たちはすぐ近くにあった南海そばに行った。
「何がいい?奢ったるわ。」
「んじゃあ、カレーうどんで...」
俺たちは横並びで立ち、食券を台の上に出した。
案外立ち食いそばの雰囲気もいいな。カレーうどんが楽しみだ。こればっかりはいつもうざい兄ちゃんにも感謝だな。
「んで、お前に好きな人が出来た話やけど」
前言撤回。しっかりうざかった。
「好きな人じゃないし。ただちょっと...」
「お?なんだなんだ?」
俺が今日あったことを話すと拓己は不気味に口角を上げた。
「お前それ、......いや、なんでもない」
「なんやねん」
「ま、お前にクラスで話せる人が出来たんやったら良かった。もっとガンガン発言しろよお。Talkや」
あれは一方的なSpeakだったような。
俺が苦笑いをしていると、店員さんが『はいお待ちい』と元気よくいい、俺と拓己の前にでかい皿がドンと置かれた。
拓己は月見うどんを頼んだようだ。
「お前も思春期だ。ようわからん感情の変化に置いてかれそうになるもんや」
「............そういうもんなんかな」
「までも、その感情に身を任せて一緒に流れていってしまうのも、ひとつやな」
この兄ちゃんは毎度ふざけると思ったら急に兄らしいことを言うから困る。
「ま、気にせんと食お」
俺らは声を合わせて『いただきます。』と言うと、一緒に食べ始めた。
うん。うまい。カレーうどんがやっぱうまいが、その日兄ちゃんと食べたうどんは、いつもよりカレーがうどんに染み込んでより美味しかった。
うどんを食べ終わると、ピロリンという柔らかい音がスマホから鳴った。
どうやらそれは錦戸さんからのメッセージだ。
──三時に近鉄八尾ね ──
「お、早速ですか」
うわびっくりした。そこには気持ち悪い笑みを浮かべた拓己がこちらを見ていた。
やっぱどこまでいってもこいつはうざい。
俺たちは言い合いをしながら家に帰った。