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忘却のグレーテ  作者: だい
第三章其の二
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白雪姫⑨

鈴香「おかえりなさい…」

私「ただいま…」


鈴香「どうだった?」

私「無事...なんとか」

鈴香「そう...それはよかったわね…」


鈴香「…っうう…ゴホッゴホッ…」

彩「お母さんっ!」

鈴香「大丈夫。大丈夫だから…」


彩さんが鈴香さんの背中をさする。


鈴香「彩…」


彩「何…お母さん」


鈴香「…あのね…」

鈴香「あなたにとって大切なものを見つけてほしいの…」


鈴香「ゴホッゴホッ…」

鈴香「彩...あなたならきっと見つけられるわ...」


彩「…わかった。わかったよ。お母さん...」

鈴香「私はずっと彩の側にいるからね…」

鈴香「彩を思い出せてよかった…」

鈴香「彩に逢えてよかった…」


鈴香「ゴホッゴホッ…」

鈴香「篠崎さん…ありがとう...」

鈴香「あなたのおかげで思い出すことができた」

私「いいえ…。私は…」


鈴香「ゴホッゴホッ…」

彩「お母さんっ!お医者さん呼ぶね」

鈴香「ううん... もういいの…」

鈴香「少しでも長くあなたの顔を見ていたい…」

彩「…お母さん…」

彩「…そんなの...そんなの嫌だよ...」


鈴香さんは彩さんの頬に手をあてた。


鈴香「彩…愛している…」


機械音「ピーーーー…」


機械音とともにモニターに映る緑色の線は、小さな震えを最後に水平な線へと変わった。


彩「…っううっう…お母さん…」


彩さんは静かに涙を堪えながら泣いていた。


彩さんはナースコールボタンを押し、医者が部屋に入ってきた。


医者は鈴香さんの手首にそっと指を当て、鼓動を探る。

鈴香さんの瞼を上げ、ペンライトで瞳孔を確認した。


そして、小さく息をついた。


お医者さん「午後十四時二十三分…お亡くなりになりました...」


彩「…っううっう...」


彩さんにかける言葉が思いつかず、私はその場に立ち尽くした。


鈴香さんが亡くなってから数分が経った。


彩さんは頭を上げて私の方を向いた。


彩「篠崎さん…ありがとう…」

私「いいえ...。私は何も…」

私「それよりも...ごめんねさい...」

私「残りわずかな時間を...私は...」


彩「ううん…なんであなたが謝るのよ...」

彩「あなたに感謝しているのよ私...」


彩「とても嬉しかったの…」

彩「また、お母さんに思い出してもらったこと…」


彩「そして、感じたの…」

彩「お母さんに愛されていたんだなって…」

彩「愛されていたんだな...私...」


彩「だから...」


彩「だから、探してみせる...」

彩「私だけの大切なものを…」

彩「私、お母さんと約束…したから...」


私「はい...」

私「とっても...とても素敵だと思います」


彩「ありがとう…」


彩「見て...お母さん...」

彩「とっても安らかな顔...」

彩「もっと、元気な時に色々と聞いてあげればよかった...」

私「いいえ...ずっとこれからも鈴香さんは彩さんの側で見守り続けてくれますよ」

私「きっと...」

彩「そうかな...」


彩「後は私がなんとかする」

彩「お友だちを待たせているのでしょう...」

彩「もう帰ったほうがいいわ...」


私「はい...」


私は床の新聞紙と絵本を片付けた。


彩「あっ...そのままにしておいて...」

彩「私が片付けるから...」


私「いいんですか」

彩「うん」


彩「それにしてもビックリしたわ。だって、本の中にあなた入っていくんだもの...」

私「それは...」


彩「その本...持って帰って...」

私「でもこれは...」


彩「ううん...その方が母も喜ぶと思うの...」

私「はい。それではありがたく頂戴します...」


彩「それじゃあ、元気でね...」

私「はい...失礼します」


彩さんにお辞儀をして病室を出た。


そして、二人のいるホテルへ向かった。


私「ごめん!遅くなった...」

私「ネムさんどう?」


メアリ「落ち着いたよ…」

メアリ「今は熱が下がって寝ているよ」

メアリ「それよりもどうだった?」


私「無事なんとか白雪姫の髪を手に入れた...」

メアリ「あっちの世界に行ったのかい!?」

私「うん」

メアリ「そう...まぁ無事だったらなによりだ...」


私「でもね。鈴香さんが息を引き取った…」

メアリ「えっ…」

私「うん…」

私「最後にね。鈴香さん...彩さんのこと思い出せたんだ...」

私「それでね。彩さん...頑張るって...」

私「前向きに言ってた...」

メアリ「そうかい。そんなことが...」

私「うん...」


その晩はスーパーで買ったお惣菜で軽く夕食を済ませた。


メアリさんに絵本の中の世界で起きたことを色々と話した。


私「あっちの世界ではね...」

メアリ「ふーん...そんなことがあったんだね...」


私「あっちの世界にいられる時間は、本当にギリギリで...」

私「少し遅ければ...私はあの世界と一緒に消えてしまっていたかもしれない...」

メアリ「それは危ないよ...ギリギリで抜け出すのは今回だけにしなよ...」

メアリ「砂時計さえあれば何回でも入り直すことはできるんだからね...」

私「そうだね...そうする...」

私「結局、あの世界がどのように滅んだのかはわからずじまいだった」

メアリ「そうなのかい...」


メアリ「もう夜の十二時だよ」

私「そうだね...」

メアリ「寝ようか...」

私「うん...」


メアリ「おやすみ...」

私「おやすみ...」


私たちは寝静まった。


?「グレーテ...」

?「...グレーテ...」


私「この...声...」

私「とても安心する...」

私「この声...知っている...」

私「ジャック...」

私「ねぇ...ジャック...ジャックなの...」

私「ジャックっ!」

私「ねぇ...ジャック...私これからどうすればいいの...」

私「このままでいいのかな...」

私「間違ってないかな...」

私「私...わからないよ...」

私「ねぇ...ジャック...応えてっ!」


私は目を覚ました。


目を覚ますと美人さんが目の前に...


?「大丈夫ですか?」

私「あっ...女神っ?!」

ネム「ん?...」


私「あっ!ネムさん?!」

ネム「はいっ!」

ネム「なんだか...うなされていたので心配になって...」

ネム「フフッ...やっぱり、ジャックさんのこと...好きなんですね...」


私「えぇっ!私がぁっ?違う違う」

私「なんでっ!!あんなデリカシーのないやつのことー!」


メアリ「なぁ。ネム...何度も何度もジャックっ...ジャックって...なぁ...」

ネム「はいっ!朱音さんにとってジャックさんは王子様なんですねっ!」

ネム「いいですね。恋...」


私「だーからー。違うってー!!」


メアリ「ほっぺ真っ赤だっ!ハッハッ」

ネム「フフッ...」


私「もー!違うー!見ないでー!」


私はかけ布団で顔を隠した。


私(違うんだもん...)


私たちは支度を済ませ、ホテルで朝食をとることにした。


スマホを確認すると有栖川さんから昨日の十八時頃に着信が入っていた。


私「有栖川さんから電話だ」

私「私、後で向かうから先に行ってご飯食べてて...」

メアリ「わかったよ」

ネム「はい!」


私は有栖川さんに電話をかけた。


私「あの篠崎です」

有栖川「あぁ。篠崎さん…」

有栖川「どう?そっちは?」

有栖川「楽しくしてる?」

私「はいっ!」

有栖川「そう。それはよかった」

有栖川「それでどうだった?...」


私「無事、白雪姫の髪を手に入れることができました」

有栖川「そう。よかった…」


有栖川「鈴香はどう?元気だった?」

私「それが…」

私「私が元の世界に戻った後、すぐ彼女は息を引き取られました…」

有栖川「…そんな…」

私「はい...。でも、鈴香さん『エリによろしくね』って…」

有栖川「…鈴香が…フフッ…」

有栖川「私たちとても仲がよかったの…」

有栖川「そう...とても残念だわ…」

有栖川「でも、間に合ってよかった...」

私「はい...」


有栖川「あっそうだ。あなたに伝えないといけないことがあったの…」

有栖川「私、メンバーのみんなに手紙を送るって言ったでしょう...」

有栖川「あれから一人連絡があったの...」


有栖川「北海道の空野陽葵さんから」

私「空野さんって...確か『オズの魔法使い』でしたっけ?」

有栖川「そう...」

有栖川「あなたたちに是非会いたいって言ってくれているの...」

私「本当ですか!?」

有栖川「えぇ...」


私「今、青森にいるのでこの後直接向かいます!」

有栖川「そう...わかったわ。そう伝えておくね」

有栖川「住所も変わってなかったみたいだわ...」


有栖川「それじゃあ、がんばってね...」

私「はい!ご連絡ありがとうございます」


私は二人に合流して有栖川さんからあった電話の内容を伝えた。

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