白雪姫⑦
しばらく歩き続けた。
ヴィクター「ここから先は枯れた森の一帯だ」
ヴィクター「一旦ここらで休憩しようと思うが...」
イライアス「エコー...どこか休めそうな場所はあるかい?」
エコー「うーん...」
エコー「この先に洞窟があるよ」
ヴィクター「そこでいいかの?」
私「うん」
私たちは洞窟へ向かった。
エコーが洞窟前に立つ。
エコー「誰もいないみたい...」
ヴィクター「では、中に入ろう」
フリスキー「僕、みんなが食べられる木の実を集めてくるね」
私「ありがとう。気をつけてね」
フリスキー「うん」
フリスキーは木をよじ登っていく。
テオが燭台付きキャンドルを鞄から取り出し、マッチで火を付けた。
そして、薪を組み、キャンドルの火を移して、その上に鍋を置いた。
私「何か作るの?」
テオ「まぁ、簡単に。フリスキーが木の実を集めて来てくれるそうだから」
テオ「持って来た米を使って、木の実がゆでも作ろうかと...」
私「木の実がゆっ!美味しそう!」
テオ「そんなに美味いものではないぞ」
私「そうなの...?」
私「あったかい...」
焚き火に手をあてた。
暖をとっている間にフリスキーが帰って来た。
フリスキー「おーい。みんなー」
フリスキー「木の実を沢山集めたんだけど、誰か運ぶのを手伝ってくれない?」
私「分かったー。今行くー」
私「ねぇ。ハンも」
ハン「えっ…俺も?…」
私「早く行くよ!」
ハン「あぁん…わかったよ…お嬢...」
ハンと一緒に表へ向かった。
表へ出ると山のように木の実が積み上げられていた。
私「え...これ全部!?」
フリスキー「うん。この辺、木の実が沢山なっていたんだ」
私「すごいっ!」
フリスキー「へへっ...そんなことないよ...」
私とハンは両手で木の実を抱えながら、フリスキーを連れて洞窟の中へ戻った。
私とハンはテオの指示の元、木の実の殻をとって中の実を水で洗った。
ハン「なんだけあったのに意外とこれだけなんだな...」
私「本当に...殻を剥くと意外と食べられる部分て小さいんだね...」
テオは木の実をおかゆに入れ、少量の塩をまぶして蓋をした。
テオ「少し煮たせばすぐできる」
テオ「できた…」
テオがお椀を鞄から出して人数分お椀に移した。
ヴィクター「テオ...いつもありがとう」
テオ「なぁに、大したことではない」
ヴィクター「それでは、作ってくれたテオと自然に感謝をして頂こう!」
みんな「いただきます!」
私「ほのかな木の実のいい香り...」
私「いただきます!」
私はスプーンですくって口に入れた。
私(味は塩だけで素朴だけど、なんだか奥深い...)
私「美味しいっ!」
私「うん!すっごく美味しいっ!」
私(この木の実...何に近いかな...)
私(胡桃だ...)
テオ「よかった」
テオ「そんなに喜んでくれるとは思わんだよ」
みんな「美味しい」って言いながら頬張って食べていた。
ハン「うん。これ美味いなっ」
食べ終えて少しお腹を休めた。
私(すっかり忘れてた…)
私(私がこの世界に来た目的…)
私(マリーさんから髪をもらわないと…)
私(鈴香さんの命も残りわずか…今回で必ず手に入れないといけない)
私(この世界は記憶の世界…つまりは、偽りの世界…)
私(だから、感情移入しないよう割り切ることも必要になってくるはず…)
私(わかってはいるんだけどさ…ずるいよみんな…)
私(優しいんだもん…)
ヴィクター「さぁ、そろそろ行こうか」
再び歩き出した。
ヴィクターが足を止めた。
ヴィクター「さぁ、ここから先は枯れた森...つまりは女王のテリトリーだ...」
ヴィクター「注意するように...」
ヴィクターより向こう側の木の幹にはひび割れが刻まれており、木の根は地表にむき出しになっていた。
ルン「ひどいね。女王は…」
ルン「ようやく僕の番だね...」
子鹿のルンがヴィクターの前に出る。
ルンは枯れた木の根にキスをした。
すると、その根は本来の色を取り戻し、うごめきながら土の中へ潜っていった。
ルン「僕より先に歩くと木たちに襲われる。だから、必ず僕の真後ろを歩くように...」
ルン「本当はこの木たちすべてを治してあげたいんだけどね...」
ルン「今は...」
ルンに続いて枯れた森を歩いた。
辺りは不気味な雰囲気に包まれていた。
ルン「さぁ、見えてきたよ。あれが女王の城だ」
私たちは木陰に隠れながら城の入り口を観察した。
入り口には銀の甲冑をつけた傭兵が二人待ち構えていた。
ルン「すんなり入れてくれそうにはないね…」
イライアス「モス…この薬をあの傭兵に吸わせられるかい?」
モス「まかせろ」
モスは周囲の色に擬態して見えなくなった。
私「本当に消えた…」
傭兵は突然、力が抜けたように床に倒れた。
イライアス「うまく行ったようだね」
ヴィクター「さぁ、先を急ごう!」
門をくぐり抜けて、城内へ入った。
城内は薄暗く、中の警備は意外と薄いように見えた。
ヴィクター「誰もいないのか?…チャンスだ」
ヴィクター「マリーはどこだ」
ヴィクター「城内は広い。二人一組、もしくは三人一組になって、手分けして探すぞ」
ヴィクター「何かみつけたら、大声を上げるように」
私はヒューゴと一緒に地下を探すことになった。
ヒューゴ「スノウ…なんだか不気味だね…ここ…」
私「うん…」
城内左にある地下へと続く階段を降りた。
階段を降りると、その先には祭壇のようなものがあった。
祭壇への道は一本橋になっており、石橋の両脇は底が見えないほどの奈落だった。
私「行く?」
ヒューゴ「うん…」
私とヒューゴはゆっくりと石橋を渡った。
私たちが通り過ぎるたび左右の松明に青い炎が灯る。
祭壇には石の棺が置かれていた。
とても嫌な予感がした。
ヒューゴ「開ける?」
私「うん…」
ヒューゴと力を合わせながらゆっくりと棺の蓋を横にずらした。
するとそこには、女の子の姿が…
ヒューゴ「マリーだっ!」
ヒューゴ「そんな…マリーっ!だめだよ。そんな…」
ヒューゴは落ち込み、その場で崩れるように膝をついた。
私「みんなーっ!」
私は大声で叫んだ。
しばらくして、みんなが集まった。
ヴィクター「そんな…マリー…マリー…」
ヴィクター「ワシじゃよ。マリー…」
ヴィクターが声をかけるもマリーの返事はなかった。
テオ「ヴィクター。僕がみるよ」
テオはマリーの心音と呼吸を確認した。
テオ「…すでに死んでいる…」
テオ「僕らは間に合わなかった…」
ハン「そんな…」
ヴィクター「そんなのダメじゃよ。そんなの…」
フェリックス「マリー…応えてくれよ…マリー…」
イライアス「何でなんだい…優しいキミが…キミがなぜ」
ヒューゴ「マリー…マリー…っうぅっ….」
レオン「マリー…息をしてくれよぅ…マリー」
コンラッド「マリー…お主はまだ終わってはならん…」
テオ「マリー…キミに何があったんだい…僕らがもっとキミの話を聞いてあげていれば…」
小人たちはマリーの死を悲しんだ…
私(ひどい…酷すぎる)
私(何の罪もない女の子の命を自分の美のために…)
私(許せない…許せないよ…)
私「みんな…ごめん」
私「今こんなこと言うのは悪いと思うけど、このままここで悲しんでいても仕方がないと思うの…」
私「マリーはまだ助かるかもしれない。まだ諦めちゃダメだよ…」
ヴィクター「お主は黙っておれ!」
私「ごめん…」
ヴィクター「すまん…。スノウ…こんなこと言うつもりは…」
ヴィクター「だが今は…今は…」
私「…ごめん。ごめんね…ヴィクター…」
テオ「ヴィクター…それは違うよ…。スノウの言う通りだ」
テオ「このまま、ここにいてはマリーの身体の腐食は進むだけだ…」
テオ「僕もスノウと同じでまだ諦めたわけじゃないっ」
テオ「一旦、スノウの身体を持ち帰って、ウチにあるガラスの棺に入れて腐食が進まないようにしたい」
テオ「ヴィクター…」
ヴィクター「…すまん。あまりのことで感情をコントロール出来んくなっておった…」
ヴィクター「…分かった…ウチヘ運ぼう…」
私「ハン…頼める?」
ハン「あぁ…」
ハンはそう言って、冷たくなったマリーの身体を背に背負った。
ハン「…キミに悪いことをした…」
ハン「すまなかった…」
私たちは来た道を引き返し、地上に出た。
?「隠れてお城の探索?一声かけてくれればいいのに…」
黒い衣装を着た女性が待ち構えていた。
ヴィクター「女王!お主は決してっ…決してっ…」
ヴィクター「決してっ許さんっ!」