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忘却のグレーテ  作者: だい
第一章
9/113

ジャックの告白

-----エイジスに向かう途中-----


私「結構歩いたけどどう?」

ジャック「そうだね。今で五分の一ぐらいかな」

私「まだそれだけ?」

ジャック「エイジスは遠いからね」


ジャック「申し訳ないけど」

ジャック「この近くに少し寄りたいところがあるんだ」

ジャック「寄り道してもいいかい」

私「うん」


私「どこに向かっているの?」

ジャック「あそこだよ…」


ジャックが山の上の崖を指差した。


私たちは森を抜け、山の崖に向かった。


ジャック「ごめんね。実はキミにずっと黙っていたことがあるんだ」

ジャック「そろそろ話しておかないとって思ってね」

私「ん?」


ジャック「この前、僕には家族がいないってキミに言ったことを覚えているかい?」

私「うん」

ジャック「あれ嘘なんだ」

ジャック「僕には妹がいたんだ」

私「えっ」


ジャック「うん」

ジャック「でも、数年前にある事故で亡くなってね…」


私「そ…そんな...」


ジャック「だから、僕はあの崖先にお墓を作ったんだ...」

ジャック「妹がずっといい景色を見られるようにさ」


ジャック「あの時もっと自分が慎重に行動していればって、今でも思うんだ...」

ジャック「でも、一度失ったものはもう戻らない」

ジャック「戻らないんだ…」

私「…」


ジャック「ついたよ」


崖の先には石で作られた石碑があった。


私「でも、なんで隠していたの?」

ジャック「言おうとは思っていたんだけどね」

ジャック「なかなか自分の中で踏ん切りがつかなくて...」

ジャック「ごめんね...嘘ついて」


私「私こそ、そんなこととも知らずに家族のことを聞いて、ごめん」

ジャック「いや、いいんだ…」


ジャックがその辺に咲いていたピンク色の花を摘み、石碑に手向けた。


ジャック「来たよ…」

ジャック「キミがいなくなってからかなりの年月が流れたね…」

ジャック「すべてが済めば...僕も…」

ジャック「どうか安らかに...」


私も手を合わせて妹さんが安らかに眠るように祈った。

私 ( 「すべてが済めば…僕も…」って...)


ジャック「グレーテ…ハンスを大切にするんだよ。キミがたとえ何も覚えていなくても…」

ジャック「キミの唯一の兄なんだから」

私「うん...」


ジャックの言葉にはとても重みを感じた。


ふと気になりクローバーを確認した。

私( 五分の三ぐらいまで…)

私「急がないと…」


ジャック「あっそうだ。ちょうどお腹すいたしここで休憩しようか」

私「待ってました!」


私はマジックバッグからシートとマリナちゃんのお弁当を取り出した。


私「どんなお弁当か気になるね」

ジャック「うん」

私「開けるよ」


私「カワイイっ!」

私「うさぎさんのキャラ弁っ」


私 ( マリナちゃんがんばったわね。 これは本気弁当だ)

私 ( ジャックの胃袋を掴めーっ)


ジャック「すごいねー」

ジャック「こんなの始めて見たよ」

ジャック 「このハートのハムはキミにあげるよ」

私「ダーメ。あなたが食べなさいっ」

ジャック「なんで?いいのかい?」

私「うん。そういうもんなのよ」

ジャック「そうゆうもの…ふーん」

ジャック「まぁいいや。じゃあ、ありがたく」


ジャック「じゃあ、いただきまーす」

私「いただきまーす!」


ジャックがお弁当に手をつけた。


ジャック「うっまーい!絶品だね」

ジャック「あの子料理上手なんだね」


私 ( よかったね。マリナちゃん)


私も愛情弁当を分けていただいた。

私「美味しいっ!この卵焼きとっても上手」

私 ( これが恋の味…)


私 ( じゃあ、少しこっち側も押してみるかっ)

私( へへっ)


私「ジャック。アナタ気づいてないでしょ」

ジャック「ん?なにが?」

私「やっぱりね」


私「マリナちゃんはアナタのこと男性として好きなのよ」

ジャック「へっへっー。またそうして僕をからかうのかい?」


私「違うっ!これ本当だからっ!」

ジャック「なんでキミにわかるんだい?」


私「同じ女子だからわかるよっ!」

私「あの子アナタに惚れているわっ」


ジャック「ふーん。そうなのかい」


私「好きじゃないとこんなステキなお弁当作らないもの」

私「しかも、あの短時間でよ」

私「きっとアナタのために頑張って作ったんだと思うわ」


ジャック「へー。そうなんだね...」

私「なんだか興味なさそうだけれど…」

私「アナタはどう思っているの?」

ジャック「うーん...僕は今まで人に好きになられたことも好きになったこともないからさ…」

ジャック「わからないよ...」


私「…そう」

私「でも、次また会った時、『お弁当美味しかったよ』って

だけは言ってあげてよ」

私「きっと喜ぶよ」


ジャック「うん。わかった」


ジャック「こんな僕をねー...ふーん...」

ジャック「物好きもいるものだね」


ガンバレーマリナちゃんっ

私( 後押ししておきましたよー)

私( へへっー)


ジャック「だからあの時キミはあんな顔をしていたんだね」


私「えっ!」

ジャック「ようやくわかったよ」

ジャック「キミは悪い子だっ」


私「へへっ」


ジャック「またね。泣き虫さん…」

私「行ってきます!」


ジャックの妹さんの石碑に別れを告げ、再び歩み出した。


私「今どれぐらい?」

ジャック「そうだね。今五分の三ぐらいかな」

ジャック「もう少しで国境の渓谷が見えてくるよ。そこには綺麗な川があるんだ」

ジャック「だいぶ暗くなって来たし今日はその辺りでキャンプをしようか」

私「うん」


「ガサガサッ」


私「ん?」

ジャック「あぶないっっ!」


草むらから三メートルぐらいの巨大な蜂が現れた。


ジャックが私の体を押し除けた。

ジャック「大丈夫?グレーテ…」


私は急いでカバンから虫除け液を辺りにまいた。

巨大な蜂は飛び去って行った。


ジャック「痛ててて…」


私「ジャックっ!」

私「あなた刺されているじゃないっ!」

ジャック「うん。そうだね。それにしてもキラビーの針は太いね」

ジャック「へへへっ…参ったよ…」


ジャックの腹部には腕ぐらいの大きさの太い針が突き刺さっていた。


ジャック「ごめんよ。虫嫌いなキミに頼みがあるんだけど、痺れていて動けないんだ...」


ジャック「この毒針を抜いてくれないかい...」

私「うん。わっわかった!」


私は意を決してジャックの腹に刺さっている大きな毒針を引っこ抜いた。


ジャック「ありがとう...」

私「仰向けになって!」

ジャック「グレーテ…キミが無事よかっ…」


ジャックが気を失った。


私「ジャックっ!ジャックっ!しっかりしてっ!」


シェイド「主っ!」

私「シェイドっ!」

シェイド「すまねー。俺の探知が甘かったせいだ」

私「ジャック!駄目っ!しっかりして!」


刺されたところを口で吸引して、血混じりの毒液を外に吐き出した。


私「ッペッ!」

私「ジャックっ!私、あなたがいないと本当に何にもできないのっ!」

私「お願いだから…お願いだから一人にしないでっ!お願いっ!」

私「ジャックっ!」

私「どっ…どうしよう...」



私「そうだ!この先に川のある渓谷があるって…ジャックがっ!」

私「川の水で患部を洗えば少しは楽になるかもしれない…」

私「でも、私一人ではジャックを運べない...」

私「シェイド!私どうすればいい?」


シェイド「そうだな。とりあえず、兄貴をテントで寝かせよう」

シェイド「俺が魔物が近づかないよう結界を張る」

シェイド「その間に主が川の水を汲んで来るか?)

私「わかったっ!」


私「魔力を送る。これで足りる?」

シェイド「あぁ十分だ」


私「ジャックをお願いっ!」

シェイド「あぁ任せな。兄貴は俺が見ておく」

私「行ってくる」


私は急いで渓谷へ向かった。


私 「お願い!間に合って…」

私「見えてきた…」


川に着き、急いでバケツに水を汲み上げた。

私「お願い神様っ!ジャックを助けて!」

私「一人にしないでっ!」

私「お願い…」


急いでテントまで戻った。


私「ジャックっ!」

テントの中に入った。


ジャックの顔は血の気が引き、青白くなっていた。


私( 息はある。でもひどい熱…)


ひとまず汲んだ水で患部を洗い流した。


シェイド「このままじゃあまずいぜ主!解毒薬があればいいんだが...」

私「ごめん。ないの...」


私 ( なんであの時、買わなかったの!)


私 ( ど…どうすれば...)


私「そうだ。念の為、買っておいた薬草の本」


解毒に効く薬草を調べた。


私「これだ!」

私「シェイドごめん。ジャックをお願い。この薬草取ってくるっ!」

シェイド「でも、一人じゃ危ねえぞっ!

シェイド「もうすぐ日も沈む…」


私「そんなこと言っていられないっ!」


私「頼むよっ!」


シェイド「あぁ」


薬草を森に探しに出かけた。


私「ない」

私「これ…これでもない...」

私 ( 虫がいっぱい飛んでる…口にも入った。でもそんなのどうでもいい…)

私 ( ジャックを助けられるなら…)

私( そんなのどうだって…)


私 ( どうしよう。ない...)

私「どうしたらいいの…」


焦るあまり木の根に躓いて倒れ込み、枝でドレスの右肩を破いてしまった。


私「もう…もうどうしたらいいっていうの…」


上を眺めると向こう側に一瞬…誰かがいたように見えた。


私( …見間違い?)


目を擦ってもう一度見開いた。


私( いや、違う…誰かいる…)


私は起き上がった。


頭にバンダナをつけ、緑の服の動物のように耳が尖った男性がいた。


私 ( 話しかけられる?できるの?私に...私…)

私 ( 違う。そうじゃないよ…このままだとジャックがっ!)


私 ( 勇気を出さなきゃっ)


私「たっ…助けてください!」


私はその人の前に土下座をして頼み込んだ。


?「ん?」

?「キミは人間か?」


私「お願いです!助けてくださいっ!」


?「どうした?」

私「仲間が大きな蜂に刺されて...」

私「熱があって、意識がなくて、私どうしていいかわからなくて...」

私「お願いです!どうかどうか助けて下さいっ!」


?「わかった。早く案内してくれっ」

?「もし刺したのがキラービーだったらマズいことになる」


私はその人をテントまで案内した。


?「不吉な予感が当たった」

?「キラービーに刺されたんだね…」

?「じゃあ、もう…」

?「ん?」

?「キミ…まさか毒液をすぐに抜いた?」

私「はい」

?「正しい判断だ」

?まだ間に合うかもしれない」


?「少し待っていて。薬草を取ってくる」

?「その間、キミは患部を水で洗い流し続けて」

私「はい!」


患部を洗い流し続けた。


私「ごめんねジャック…私を庇ったから…」

私「戻って来て...ジャック…」

私「お願い…私を一人にしないで...」


ジャックの呼吸が止まった。


私「そっ…そんな!」

?「ごめん。遅くなった」


私「ジャッ…ジャックの呼吸が!」

?「まずいね。心臓が止まっている」

?「僕が心臓を動かすから、キミが息を吹き込んでっ!」

私「はい!」


「ドンッドンッドンッ」


?「さぁ、顎を上に上げて息を吹き込むんだ!」


ジャックの口に息を吹き込んだ。


「ドンッドンッドンッ」

?「はいっ!」


「シューッ」


「ドンッドンッドンッ」

「シューッ」


ジャック「ウォッウォッ…フェッ…」


?「なんとか息を吹き返したようだね」

?「すぐ薬を作るから様子を見てて」


私「はい!」


ジャックの手を両手で握りしめた。

私「ジャック。お願いっ!」

私「戻って来てっ!」


?「できたよ」

?「さぁ、これを飲ませて…」


私「ジャック…さぁ、これを飲んで」


ジャックは意識を失っている様子だったので、薬を口移した。


私「ジャックっ!飲んでっ!」


「ゴクッン」と音がした。


私「よかった…」


?「あと、この葉をその患部にあてるんだ」


私 ( これは私が本で探していた薬草の葉…)

私 「はい!」


?「うん。なんとかなりそうだ」

?「熱はまだあるけど呼吸は落ち着いてきたね」

私「本当に…本当にありがとうございますっ!」


私は彼に頭を下げた。


?「いや、いいんだよ」

?「すまない。急なことだったから自己紹介がまだだったね」

?「俺はエルフ族のマーシ」


私「マーシさん…本当にありがとうございました」

マーシ「フフッ…」

マーシ「マーシでいいよ」

マーシ「キミは?」

私「私はグレーテです。こっちがジャック、そして精霊のシェイドです」

マーシ「へー。キミって珍しい精霊を連れているんだね」

私「よく言われます」

シェイド「まぁ、俺様は特別だからな」

私「この度は、ジャックを助けてくださり本当にありがとうございました」

マーシ「いいんだよ。こんなにカワイイお嬢さんにお礼されると照れちゃうよ」


私「あの...お礼はなにを?」

マーシ「そんなっ!お礼なんていいよ。へへっ 」

マーシ「お嬢さんそれより衣服が...」


私「キャーーーーーっ!」

マーシ「ごめん。見るつもりはなかったんだ…」

私「すみません。私こそはしたないものを」


マーシ「いや、そんなことないよ」

私「キャー。恥ずかしい…」

マーシ「いや、僕は何も見ていない」

マーシ「見ていないですから…」


マーシ「じゃじゃあ、俺は戻るね」

私「本当に…本当にありがとうございました!」

マーシ「うん。またね!」


マーシ「俺はやましいことなんて考えていないっ」

マーシ「でも、あの子可愛かったなー」

マーシ「グレーテさん。ジャックさんとはきっとそうゆう関係なのかな...」


マーシの妄想は膨らみ続けた。


マーシ「でも、兄妹の可能性も...」

マーシ「じゃあ、ワンチャンいけるのか」

マーシ「また会えたらいいなぁー」

マーシ「なーんちゃって」



私「呼吸がだいぶ落ち着いてきた」

私「よかったー」


全身の力が抜けた気がした。


シェイド「主ごめんよ。俺の探知があまかったせいで」

私「ううん。」

私「あなたは悪くない」

私「大丈夫だから」

私「それより、シェイドありがとうね」

私「色々ととっても助かった...」


シェイド「主に感謝されるなんて...初めて...」

シェイド「これが俗に言う飴と鞭か。うん。悪くないなぁ」

私「何っ、その発言すごくキモいっ!」

シェイド「すぐ鞭だ」

シェイド「まぁ、鞭が大半か」


私「はぁ」

私「まぁ、何よりなんとかなってよかったわ」


翌日の朝まで、私は川で水を汲みに行ってはジャックの看病をし続けた。


私「早く元気になってね。ジャック…」

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