古い書物
私「え...」
私「じゃあ、みんなを助けることは...できないってことですか...」
私「他に方法は...ないんですか...」
有栖川「...」
有栖川「...ごめんなさい...」
私 「そんな...」
有栖川「私も色々と探してはみたんだけど...」
有栖川「これといって…」
私 (お母さんが伝えてくれた手がかり...)
私 (こんな形で終わるはずがない...)
私(絶対そうだ)
私「あの...」
私「他に探してみたと言っていましたが...」
私「何をどのように探したのか、どんな小さなことでもいいので教えてもらえないでしょうか」
有栖川「いいけれど、あまり期待しない方が…」
私「いいんです...」
有栖川「そう...」
有栖川「私個人で調べた物があるのだけれど...」
有栖川「もし、私の家に来てくれるのであれば...」
私「行かせてください!お願いします!」
有栖川「そう...」
有栖川「わかったわ...」
有栖川「じゃあ、一旦...ここを出ましょうか」
有栖川「あっ…」
有栖川「話に集中してしまって何も注文してなかったわ...」
有栖川「あなたたち...マドレーヌはお好き?」
私「あっ...はい」
メアリさんとネムさんも頷く。
「チリンッチリンッ...」
有栖川さんがテーブルのベルを鳴らす。
有栖川「じゃあ、マドレーヌを三つ...」
マドレーヌを注文し、有栖川さんの自宅に向かった。
カフェから歩いて徒歩15分程歩いた。
有栖川「ここ」
私「…ここですか」
そこには、とても立派なお屋敷だった。
有栖川「さぁ、中へ入って」
有栖川さんが扉を開ける。
玄関には、高級そうな絵画や壺などが飾られていた。
私「素敵ですねー」
有栖川「ありがとう…」
有栖川「さぁ、こっちへ...」
有栖川さんに案内され、たくさんの本が置かれている部屋に入った。
有栖川「ここは、私の書斎...」
有栖川「私はね...他にも色々な本を書いているの」
私「すごい...」
有栖川「さぁ、おかけになって...」
私たちは書斎にある丸テーブルの椅子に座った。
有栖川「今お茶を入れるから...待っててね...」
私「ありがとうございます...」
私「二人ともさっきから大人しいけど大丈夫?」
メアリ「なんだか初めてなことが多すぎてな...」
ネム「そうですよね...」
私「確かに...それも無理ないか...」
有栖川「さぁさぁ...」
有栖川さんはティーセットとマドレーヌをテーブルに並べた。
有栖川「さぁ、召し上がって...」
私「ありがとうございます」
メアリさんとネムさんは軽く会釈した。
有栖川「食べながらでいいから聞いてちょうだい...」
有栖川「正直言ってね...迷っているの...」
有栖川「あなたに伝えるべきかどうかを...」
私「えっ?...」
有栖川「あのね...変に期待させちゃうだけかなって...」
私「迷っているってことですか?」
有栖川「...ええ」
私「...教えてくだいさい...」
私「お願いします...」
私「どんな些細なことでもいいんです...」
私「私...また逢いたい...」
私「お父さん...お母さん...お兄ちゃん...そしてみんなに...」
私「逢いたい...」
私「あの世界が...私のすべてなんです...」
私は有栖川さんの目を見つめた。
しばらくの間沈黙が続いた。
有栖川「綺麗な目...」
有栖川「...フフッ...」
有栖川「まるで若い頃の私のよう...」
有栖川「私ももう一度あの世界を取り戻したいって何度も思った...」
有栖川「うん。わかったわ...」
有栖川「教えましょう...」
有栖川「でも、何度も言うけれど...あまり期待はしないでね...」
私「はいっ...」
有栖川「少し待ってね...」
有栖川さんは本棚から何かを探し始めた。
有栖川「確かこの辺に…」
有栖川「うーん...あっ...」
有栖川「あったわ」
有栖川さんはとても古い書物のようなものを手に取り、テーブルに置いた。
有栖川「私が探したものの中でこれが一番手がかりに近いかも...」
私「これは…?」
有栖川「竹取物語って知っている?」
私「かぐや姫が出てくる物語ですよね」
有栖川「ええ、そうよ...」
有栖川「これはとても大昔のことなんだけど、竹取物語の世界に行った人がいたそうなのよ」
有栖川「どうやって行ったかについては書かれていなかった」
有栖川「でも、この世界も私たちと同様に世界は滅んだそうなの」
有栖川「でもね、この話には続きがあって…」
有栖川「滅んだ世界の後に続くお話が書かれているの」
有栖川「もしかしたら、と思って、何年もかけてこの書物をすべて解読したの...」
私「すごい」
有栖川「いや、でもね...」
有栖川「この書物からは何も手掛かりを得られなかった...」
有栖川「どのようにして元の世界を取り戻したのか...肝心なところが記されていなかったの...」
私「そんな...」
有栖川「ごめんなさい...本当にこれだけなの...」
有栖川「何も...何も得られなかった...」
有栖川「無駄な時間だったわ...」
私「ううん...」
私「そんなことはないです!」
私「元の世界を取り戻したいから...」
私「その一心で...」
私「無駄なんかじゃない...」
私「私は、そう思います...」
有栖川「...ありがとう...」
私(そっか...でも何も…)
私(いや、違う...)
私(お母さんが私に伝えてくれた...)
私(諦めるわけにはいかないっ...)
私「あの...有栖川さん…」
有栖川「ん?」
私「お願いします...この書物に書かれている内容」
私「私に教えて下さい...」
私「いいんです...どんなことでも...」
私「結果的に何も得られないかもしれない...」
私「でも、私は...」
有栖川「わかった...」
有栖川「私もできる限りあなたの力になりましょう...」