白うさぎの指輪
有栖川「まぁ、まずは三人ともお掛けになって」
私「はい」
私たちは椅子に座った。
有栖川「さっきの話の続きなんだけど…」
有栖川「あなたの持っている絵本、実は『白うさぎのぺぺ』に作ってもらったものなの」
私「白うさぎのぺぺ…?」
有栖川「ええ」
有栖川「私もあなたと一緒」
有栖川「若い頃、絵本の世界を旅したの」
有栖川「あなたとは別の世界だけどね…」
私「えっ…本当なんですか!」
有栖川「ええ…」
有栖川「ねぇ、話してもいい?」
有栖川さんが身につけているウサギの指輪を見つめて言った。
すると、指輪のウサギの絵の表情が変わったように見えた。
私「えっ…」
有栖川「いいようね...」
有栖川「驚いた?」
有栖川「紹介するわね」
有栖川「私のお友達…」
有栖川「白うさぎのぺぺ」
有栖川「ここでは、こんな姿になってもらっているんだけど...」
私「白うさぎって…」
私「もしかして、不思議の国の...」
有栖川「あなた...知っているのね...」
有栖川「そう。私は『不思議の国のアリス』の世界を旅したの...」
私 「やっぱり...」
有栖川「ええ...」
有栖川「とても懐かしいわ...」
有栖川「あなたが持っているその本もこの子に作ってもらったのよ...」
有栖川「世界に一冊しかない」
有栖川「ペペの魔法がかけられた本...」
有栖川「この本は、ジャックに頼まれてペペが作ったの...」
有栖川「ある日、ジャックは私たちの元へ来た」
有栖川「どこで得たのかわからないけど、彼は私たちついて知っていた」
私「ジャックが...」
有栖川「ええ」
私「でも、なんでジャックがあなたの元に...」
有栖川「あれ、この本についてあまり詳しくは知らないのかしら?」
私「はい...ジャックは何も...」
有栖川「あらそう...知っているものかと...」
有栖川「この本に干渉した者はね『時空』を越えることができるの」
有栖川「特別な条件を満たした場合のみ、絵本の世界に入ることができる」
有栖川「その条件はね。二つあるの...」
有栖川「一つ目は、あちらの世界の者と一緒に入る時...」
私 (最初はジャックと一緒に入ったから入れたんだ...)
有栖川「二つ目は、あちらの世界の人から呼ばれた時...」
私 (二回目はバーバラさんに呼ばれたからだ...)
有栖川「どう?心当たりある?」
私「はい...」
私 (そうなんだ...)
私 (私はてっきり、妹さんから引き継いだ能力でジャックは行き来できたんだと思っていた...)
私 (もうあの時、すでにジャックは妹さんの能力を使えなかったってこと...)
有栖川「そして、ジャックはあなたを選んだのね...」
私「え...?」
有栖川「ん?さっきも話したのだけれど、ジャックだけではあちらの世界には行けないのよ...」
有栖川「今私たちのいる世界の誰かを連れて行かなければ絵本の世界には入れないの...」
私「だから、ジャックは私を...」
私 (ようやく、辻褄が合った...)
私 (そこはずっと疑問に思っていた...)
私 (なんで私を一緒に連れて行ったのか...)
私 (私を連れていく理由がわからなかった...)
私 (ジャックだけでは、絵本の世界に行けなかったんだ...)
有栖川「実はね。私やあなた以外にも絵本の世界に入った人はいるのよ」
有栖川「その度、ジャックのようなあちらの世界の迷い人に絵本を作って渡した」
有栖川「そして、絵本の世界から戻って来た人はあなたのように私を訪ねて来るの...」
有栖川「奥付けを見てね...」
有栖川「私はその人たちと交流し、みんなで『迷える少女の会』を立ち上げた」
有栖川「みんな女の子だったからその名前にしたの...」
有栖川「私たちはお互いの旅を語り合った」
有栖川「夜通ししてね…」
有栖川「みんなそれぞれ異なる世界を旅していたわ...」
有栖川「語り合ううちに私たちのある共通点を見つけたの...」
有栖川「それは、旅した内容が一般に知られている童話の話ではなかったこと」
有栖川「そして、必ず残酷な運命を迎えるということ...」
有栖川「あなたも...そうだった?」
私「...はい...」
有栖川「やっぱり...そうなのね...」
有栖川「とても辛い思いをしたでしょうに...」
私「...はい...」
有栖川「そうだ...」
有栖川「戻って来てから、絵本の中を開いたかしら?」
私「いいえ...」
私「奥付けだけ...」
有栖川「そう。じゃあ、中を開いてみて...」
私はジャックの絵本を開いた。
私「あれ...」
私「なんで...」
ジャックの絵本の中は、奥付けのページ以外すべて白紙に変わっていた。
私「この前まで、絵が描かれていたのに...」
有栖川「やっぱりね...」
有栖川「そちらでも世界が滅んだのね」
有栖川「これ私のだけど...」
有栖川さんは、『不思議の国のアリス』と書かれた絵本をカバンから出した。
そして、絵本を開いて私に中を見せた。
絵本の中は白紙だった。
有栖川「そう。この世界は滅んだの...」
有栖川「もうこの絵本はね二度と彩られることはない...」
私「え...」
私「じゃあ、みんなを助けることは...できないってことですか...」
私「他に方法は...ないんですか...」
有栖川「...」
有栖川「...ごめんなさい...」
私 「そんな...」
私の僅かな望みは打ち砕かれた。