語り
朱音「美味しかったな…あの日のカツ丼…」
朱音「おじさんが私のこと覚えてくれて嬉しかった…」
作者「その後は?」
「チリンッ」
どこからか鈴の音が鳴った。
朱音「ごめんなさい。もう時間がないみたい…」
朱音「ここからは、簡潔に話すね…」
作者「うん」
朱音「翌日から私たちは一つの目標に向かってそれぞれ動き出した」
朱音「私は施設に、そしてメアリさんとネムさんは小さなアパートを借りて暮らし始めた…」
朱音「私は慣れない施設での生活に戸惑ったわ」
朱音「そして、毎日毎日いじめられた…」
朱音「でも、私にとってはそんなことどうでもよくて」
朱音「私は時間を見つけては記憶を文字に起こした」
朱音「まぁ、でも書いたところでルームメイトにビリビリに破かれて捨てられちゃうんだけど…」
朱音「でも、私はそれでよかった」
朱音「私にとって文字に起こすということが大切だったから」
作者「抵抗はしなかったの?キミらしくはない…」
朱音「そんなことして、時間を無駄にするぐらいならって考えたの…」
朱音「私は一分でも…一秒早く、みんなに逢いたい」
朱音「だから、時間を無駄にはしたくなかった」
朱音「あとね。どんなに辛いことがあっても、目を瞑れば、みんなの笑顔が太陽のように私を照らしてくれる」
朱音「だから、大丈夫だった」
朱音「でもね。ある日からおかしなことが起きたの」
朱音「毎朝、私はゴミ箱を見ては破り捨てられた紙を眺めていた」
朱音「でも、ある日を境にそれが消えたの…」
朱音「それほど気にはしてなかったんだけれど」
朱音「ある日、それは起きた」
朱音「私はトイレを出た時、一人の女の子が廊下に立っていた」
朱音「同じルームメイトの子だったけれど、話したことはなかったわ」
朱音「またいじめられるのかと思って、私はそっと横を通り過ぎた」
朱音「でも、その子は再び私の前に立ちはだかった」
朱音「いつもの面倒くさいやつだと思った…」
朱音「そして、その子は言った」
朱音「これあなたが書いたの?って…」
朱音「その子の手にはセロハンテープでつぎはぎされている紙の束があった」
朱音「それは、私の書いたものだったの」
朱音「私はとても驚いたけど、小さくその子に向かって頷いた」
朱音「何を言われるのかビクビクしてた…」
朱音「でも、その子は私にこう言った」
朱音「続きは?って…」
朱音「とても驚いたわ」
朱音「まさかと思った」
朱音「私はとっさに返答できなかった」
朱音「だから、またこう言われた…」
朱音「このお話の続きはあるの?って」
朱音「そして、私は、うん。って言った」
朱音「そして、その子はこう言ったの」
朱音「また、書いたら読ませて…って…」
朱音「私はとっても嬉しかった…」
朱音「すっごく…すっごく嬉しかった…」
朱音「思わず私はそこで泣いちゃった…」
朱音「嬉しくって、嬉しくって…」
朱音「その子はね。心配するようにかがみながら私を見つめた」
朱音「その日から私たちは友だちになった」
朱音「そう。須川未来ちゃん」
朱音「未来ちゃんはね。文字だけでなく私の話を直接聞いてくれた」
朱音「私たちはみんなから嫌われていたけど、そんなのどうでもよかった」
朱音「相変わらず、ゴミ箱に捨てられても翌日には未来ちゃんがつぎはぎしてくれた…」
朱音「私は未来ちゃんのおかげで施設で小さな幸せを見つけたの」
朱音「でもね。それを気に食わないと思う人もいた…」
朱音「ある日、未来ちゃんがとっておいてくれた束が消えたことがあった」
朱音「嫌な予感がした…」
朱音「ある日私が部屋に戻ると、道具箱の中に墨汁がいっぱい貯められていた」
朱音「その中には、私の書いた紙の束が浸けられていた…」
朱音「そして、それを見た私の驚く様子を見て女子がケタケタと笑った…」
朱音「私はいつものことだって思ったわ…」
朱音「でもね。私の後に未来ちゃんが部屋に入って来たの」
朱音「いつも大人しい未来ちゃんがそれを見てね」
朱音「道具箱の墨汁を笑っている女子の頭にぶちまけたの」
朱音「私、びっくりしたわ!」
朱音「その女子たちは悲鳴を上げた」
朱音「そして、未来ちゃんは彼女たちにこう叫んだ」
朱音「美しいものを穢すな!って…」
朱音「こんなことをしたお前らに必ず復讐してやる!って…」
朱音「とても怖い形相で彼女たちを睨みつけた」
朱音「未来ちゃんがあんなに怒るなんて私も思いもしなかった…」
朱音「その後、私たちは取っ組み合いになったんだけど、何とか施設の人に間に入ってもらって丸く収まったの」
朱音「そんなことがあったから、私たちの部屋は変えられた」
朱音「その日からは私はいじめられなくなった」
朱音「また、一から私たちは小説を書き始めた」
朱音「そして、暫くしてメアリさんが施設に訪ねて来た」
朱音「メアリさんはとある出版社に就職してくれていた」
朱音「それでね…」