思い出のカツ丼
私「これからについてだけど...」
私「この家を手放そうと思うの...」
私「お兄ちゃんがいない今ではローンが払えない...」
私「それに、今後お金が必要になってくると思うし...」
メアリ「え...いいのかい?」
メアリ「この家はアンタにとって大切なものなんじゃ...」
私「うん...いいの...」
私「思い出は過去のもの...未来にはつながらない」
私「私が描きたいものはここにはないから...」
私「それに、これは私へのケジメでもある」
私「ここを手放さないと、私はいつになっても過去に縋すがってしまう」
私「だから...」
私「...いいの...」
メアリ「...」
メアリ「そうかい...」
メアリ「じゃあ、私らはこれから?」
私「私はこれから施設に入る...」
私「あっちの世界でいう修道院のようなものかな...」
メアリ「そんなとこで大丈夫なのかい?!」
メアリ「過酷なんじゃないのかい?!」
私「そうだね...大変かもしれない...」
私「でも、今は消費を抑えることが大切...」
私「できるだけ多くのお金を未来の為に...」
私「あっ...そうだ」
私はタンスから通帳を出した。
私「これ...」
私「この世界ではね。通帳といってお金をここに入れるの」
私「あんまりないけど、これ使って...」
私「二人がこれから生活する上で必要だと思うし...」
メアリ「いいのかい...?」
私「うん...」
私「それに家を売ったお金と家財とかでもう少しは増えると思う...」
メアリ「ありがとう...」
メアリ「私らも働いてできるだけ使わないようにするよ...」
私「ううん...気にしないで」
メアリ「小説はどうするんだい?」
私「うん。そこでメアリさんにお願いがあるの」
私「メアリさんには出版会社で働いでほしい」
私「そこで、どうにか私の小説を取り上げてほしい」
私「ごめんね...大変だと思うけど...」
メアリ「ううん。あんたに比べたら私なんてマシさ」
メアリ「わかったよ」
私「ありがとう」
私「そして、ネムさん...」
ネム「はい...」
私「ネムさんにもお願いがあって...いい?」
ネム「もちろんです!」
私「ネムさんには、小説以外の方法があるかもしれないから色々と調べてみてほしい」
私「ごめんね」
ネム「なんで、グレーテさんが謝るんですか...」
ネム「私に任せてください。必ず探してみせます!」
私「ありがとう...」
私「じゃあ、すべて早いに越したことはないね!」
私「明日から動くよ!みんな!」
メアリ「あぁ。そうだね!」
ネム「はい!」
私「じゃあ、社会勉強ついでにみんなでご飯食べに行こっか!」
メアリ「うん。そうだね」
ネム「はい!」
私「みんな何が食べたい?」
メアリ「何と言ってもねぇ...」
メアリ「この世界の食べ物は...」
ネム「そうですねぇ...」
私「そっか」
私「そうだよね...」
私「昨日はカップ麺だったし...」
ネム「あれもなかなか美味しかったですよ」
私「そう?」
私「せっかくだし、カツ丼食べに行こう!」
ネム「カツ丼?」
私「うん!」
私「うーん。そうだなぁ」
私「オーク肉まで美味しくないけどお肉は似てて、それに卵をとじてご飯にかけたものかな?」
ネム「美味しそうです!」
メアリ「そうだね!」
私「とっても美味しいよ!」
私「前に家族でよく行った美味しいところがあるの」
私「それに、みんなの服とかもついでに買いに行こっか」
メアリ「うん!」
ネム「はい!」
私たちはお出かけの準備をして外に出た。
メアリ「...」
メアリ「ここは本当に異世界...なんだね...」
ネム「うわぁ...」
二人は初めて見る外の情景にとても驚いていた。
メアリ「あれはなんだい?」
メアリさんは自動車を指差した。
私「あれはね。自動車っていうの」
私「あっちの世界でいう...なんだろなぁ...」
私「馬車みたいなものかな...」
私「人を乗せて移動できるの」
メアリ「へー。そうなのかい...」
私「あっ...そうだ」
私「この世界ではね。魔法が使えないの...」
私「どうやら、魔素が少ないみたい...」
メアリ「そうなのかい?」
メアリ「メラ!」
メアリ「本当だ...」
私「そう」
メアリ「じゃあ、どうやって...」
私「この世界はね。魔法じゃなくって...」
私「どうやって説明したらいいかなぁ...」
私「機械とか化学とかが...」
私「あっそうだ。カラクリ!」
私「カラクリがすごく発達した世界なの」
メアリ「あのカラクリがかい!?」
私「うん。そうなの」
ネムさんは不思議そうに空に飛ぶ飛行機を眺めていた。
私「あれはね。飛行機っていうの」
ネム「飛行機?」
私「うん。この世界の人は、ほうきで空を飛べないからあれを使って飛ぶんだー」
私「ここからだと小さいけど、実際はとっても大きいんだよ」
ネム「そうなんですか」
私「うん!」
私「じゃあ、行こっか!」
ネム「はい!」
メアリ「うん!」
私たちは十五分ぐらいかけてカツ丼屋さんへ向かった。
私「ここ!」
ネム「ここなんですね...」
メアリ「ふーん...」
店の外観が瓦屋根の建物だったからか二人とも不思議そうに眺めていた。
私「入るよ」
暖簾をくぐり、店内へ入った。
店主「いらっしゃい!」
店主「おや...どこかで見たような...」
私「お久しぶりです。おじさん!」
私「私のこと...覚えていますか?」
おじさん「もしかして、朱音ちゃんかい?!」
私「はい!」
おじさん「大きくなったねー」
おじさん「心配してたんだよー」
おじさん「それで、今日はお友達と?」
私「はい」
おじさん「そうかい。そうかい」
おじさん「お兄さんは元気にしているかい?」
私「はい...元気です」
おじさん「そうかいそうかい。それはよかったよー」
おじさん「さぁさぁ。三人とも座って座って」
テーブル席に座った。
おじさん「カツ丼三つだね」
私「はい!」
おじさん「はーい。ちょっと待っててね...」
私は湯呑みに三人分のお茶を注いだ。
私「二人とも...そんなに緊張しなくても」
メアリ「はは...なんだかねぇ...」
ネム「フフッ...」
おじさん「はいお待ち!カツ丼三つね」
おじさんは湯気立つカツ丼をテーブルに並べた。
私 (この匂い...とっても懐かしい...)
おじさん「あと、これつかって...」
おじさんは子ども用の器をテーブルに置いた。
私 (懐かしい...このパンダの器...)
私 (私小さかったから、熱いのが早く冷めるように、よくお母さんがこれを...)
おじさん「あっ...いっけねー。もうこれは必要ないな...」
おじさん「朱音ちゃんが来たから...つい...」
私「ううん。ありがとう...おじさん」
私「それ置いてて...」
おじさん「あっ...そうかい...はいよ!」
お客さん「あのー...二名で...」
おじさん「はいよー」
おじさん「じゃあ、ゆっくりな。朱音ちゃん...」
私「うん!」
私「熱いうちに頂こう!」
メアリ「そうだね。美味しそうだ...」
ネム「はい!」
三人「いただきます...」
私はカツ丼をパンダの器に入れて、れんげですくって口に入れた。
メアリ「うーん。美味しい...何だい!これは!」
メアリ「なっ!ネム!こんなのあっちの世界では...」
ネム「グレーテさん...大丈夫ですか...」
私「えっ...」
私は気がつくと目から涙が流れていた。
私「あっ...大丈夫...」
私「へへっ...色々と昔の頃のこと思い出しちゃって...」
私「私、幸せだったんだなって...」
自分の涙を拭った。
私「大丈夫。美味しい...」
私「ネムさんも温かいうちに食べて」
ネム「はい...」
でも、カツ丼を口に運ぶたび目から涙がポロポロとこぼれ落ちた。
私「あれ...おかしいな...」
私「っううっ...うっ...」
私「美味しい...」
私「っううっ...うっ...」
そんな私を見て二人は心配そうな顔をしていた。
カツ丼を完食し、レジで向かった。
おじさん「朱音ちゃん...大丈夫かい...」
私「うん。大丈夫。おじさんのカツ丼に感動しちゃって...」
私「昔から変わらない味...やっぱり美味しいや。おじさんのカツ丼は...」
おじさん「そうかい。ありがとう...」
おじさんが優しく微笑んだ。
私「お会計は...」
おじさん「いいんだ...今日は俺の奢りだ」
私「えっ...いいの?」
おじさん「うん。朱音ちゃんの大きくなった姿を見れて俺は満足さ...」
おじさん「元気そうで安心したよ」
私「ありがとう...おじさん」
おじさん「あぁ...」
おじさん「また、いつでも来なよ」
私「うん!」
私「ごちそうさまでした」
メアリ「ごちそうさまでした」
ネム「ごちそうさまでした」
私たちはおじさんにお礼をして外に出た。
その後、ショッピングモールに行き、色々なお店を回りながらショッピングを楽しんだ。
そして、夕方ぐらいに家に着いた。
三人でカレーライスを作ってみんなで仲良く食べた。
私「じゃあ、みんな!」
私「明日から、がんばるぞー!」
メアリ「おー!」
ネム「おぅ...」
メアリ「なんだネム!もっと声を出せ!」
メアリ「そんなんじゃ、この世界を生きていけないぞ!」
ネム「おぅー!」
ネムさんはとても顔を赤らめていた。
私 (カワイイっ!)