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忘却のグレーテ  作者: だい
第二章
61/116

外での囁き

馬車の扉は閉められた。


馬車の中は暗く、灯の一つもない。


私 「暗いな...」

私 (あっちの世界の方がより暗くて何にもなんだろうな...)


馬車がゆっくりと進み出した。


私 「怖い...」

私 「怖いよ...」

私 「助けて...」


私 (でも知っている。もう誰も助けてはくれない...)


私 「うぅ...」


私は恐怖のあまり三角座りで目を瞑り、みんなと過ごした日々を思い返した。



馬車がぴたりと止まる。


私 (着いた?...)


番人「...」

?「...」

番人「ほぉ...」

番人「うーん...足りませんな...」

?「...」



私 (外から誰かの声が聞こえる...)

私 (番人さん...誰かと話しているのかな...)


私 (あっ...)


馬車の扉が開く。


私 (着いたんだ...)

私 (外はもう...)


番人「グレーテ様。お外へ」


私「はい...」


扉から辺りを見渡すと、先ほどまでいた王の間だった。


私「ここって...」

番人「ええ。先ほどいた場所ですよ」


私「あの...どうゆうことですか?」


番人「誠に勝手ながらグレーテ様」

番人「あなた様をお送りすることが出来なくなりました」

番人「大変申し訳ございません」

番人「失礼申し上げますが、馬車から降りていただけますでしょうか」


私「どうゆうこと...」

私「じゃあ、魔王はどうなるの?!」

私「私の覚悟が足りなかったってこと?!」

私「そうゆうことなの!?」

私「ちゃんと私にわかるように説明して!」


番人「失礼いたしました。グレーテ様」


番人「うーん...そうですね...」

番人「私から申し上げるよりも直接お話されてはいかがでしょうか」


?「そうだね...」


私「この優しい声...」

私「知っている...」

私「なんであなたがここに...」



私「ジャック...」



私は馬車から外に出た。


馬車から降りると色とりどりの光の玉のようなものが宙に浮いていた。


ジャック「グレーテ...聞こえるかい?」


青色の玉からジャックの声が聞こえた。


私「ジャック...ジャックっ!あなたなの?」


ジャック「うん。そうさ。今はこんな姿だけどね...」


私「なんで...あなたがここに...」


ジャック「それはキミのせいさ」

私「え...」


ジャック「グレーテ...私が言ったことすっかり忘れているだろ...」

ジャック「あれほどキミに言ったのに...」


ジャック「私はキミになんて言った?」

私「えっ...」

ジャック「まさか...忘れたわけじゃないだろうね...」

ジャック「バーバラに身を差し出そうとした時、私はキミになんて言った...」


私「『もう二度と身を投げ出すようなことはしないで』」


ジャック「そうだね」

ジャック「それで今のキミは?」


私「...」

私「...ごめん」


ジャック「はぁ...」

ジャック「ごめんじゃないよ。本当に...」

ジャック「まぁ、キミらしいっちゃキミらしいけどね...」

ジャック「ずっと見ていたし...」

ジャック「この意固地!」


私「へへっ...」


ジャック「はぁ...まぁ、それでなんで私がここにいるかだったね...」

ジャック「ここの空間はね。魂を具現化できるようなんだ...」

ジャック「ずっと私たちはキミの側にいたわけだから」

ジャック「正確に言えばキミが見えるようになった。が適切な表現かな...」


ジャック「グレーテ...この光の玉一つ一つがみんなの魂なんだよ」


?「あの...」


ピンク色の玉から女性の声がした。


ジャック「妹のグレーテルさ」


私「あっ...妹さん」


グレーテル「兄が大変お世話になりました」

グレーテル「私は兄が朱音さんと旅をする様子をずっと側で見ていたんです」

グレーテル「兄が失礼な発言ばかりして...」

グレーテル「本当にごめんなさい!」

グレーテル「しっかり!叱っておきましたので」


私「はは...いいんです。もう過ぎたことなので...」

グレーテル「朱音さんは寛大なお心をお持ちなのですね...」


ジャック「寛大かい?うーん...今でもすぐに風船みたいにプーって膨れるけどね...」


グレーテル「ヘンゼル兄さんっ!」


ジャック「あー。怖い怖い」


グレーテル「朱音さん」

グレーテル「兄を変えてくれて本当にありがとうございます」

グレーテル「兄はこれまでずっと復讐に取り憑かれていました」

グレーテル「私はそんな兄を見ていてとても心苦しかったのです」

グレーテル「復讐なんてしないほしい...」

グレーテル「明るい兄に戻ってほしい...私はずっとそう思っていました」


グレーテル「ですが、朱音さんに出会ってからはそうではありませんでした」

グレーテル「以前の純粋な明るい兄の様子が多く垣間見えました」


グレーテル「日々変わっていく兄と朱音さんの様子を見ていて、少し嫉妬しちゃったこともあるんですよ」

グレーテル「でも、それ以上に兄が変わってくれたことが私は何よりも嬉しくて...」

グレーテル「『もう少し生きてみたい』と兄の口から聞けた時は、それはそれは嬉しかった」

グレーテル「兄の口からそんな言葉が聞けるなんて夢にも思いませんでした...」

グレーテル「朱音さん...兄を変えてくれて本当にありがとう」


私「いいえ。私こそ、ジャック...いや、お兄さんには大変お世話になりましたので...」


ジャック「そうだよ。グレーテル。僕だってねー...」


グレーテル「調子に乗らないで...」


ジャック「怖い怖い」




?「お姉ちゃん...」


赤色の光の玉から幼く愛おしい声がした。


私「この声...」

私「ミリアちゃん!」


ミリア「うん。ミリアだよ」

ミリア「やっと話せた。お姉ちゃんとずっと話したかったんだ...」

ミリア「ミリア...お姉ちゃんの側にずっといたんだよ」


私「ごめんね...ごめんね...ミリアちゃん...」

私「っっうっっ...」

私「ごめんね...ごめんね...」


ミリア「ううん...なんでお姉ちゃんが謝るの?」

ミリア「お姉ちゃんは何も悪くないよ」


ミリア「だって、ミリアお姉ちゃんのこと見ていたもん!」


私「ううん...違う。私のせいで」

私「私の考えが甘かったから...」

私「私が無力だったから...」

私「辛かったよね...痛かったよね...」


ミリア「ねぇ!お姉ちゃん!」

ミリア「ミリア、お姉ちゃんは何も悪くないって言ったじゃんっ!」

ミリア「謝らないで!」


私「うん...」


ミリア「ミリアはね。お姉ちゃんのこと大好きなんだ」

ミリア「ずっと、ずーっと大好き!」

ミリア「大好きだからお姉ちゃんが辛そうにしていた時、ミリアもすっごく辛くなった...」

ミリア「お姉ちゃんが嬉しそうにしている時、ミリアもすっごく嬉しかった」


ミリア「お姉ちゃんには見えていなかったけど、みんなでお姉ちゃんのこと応援してたんだっ」

ミリア「お姉ちゃんが自分を取り戻した時、ミリアとっても嬉しかったの!」

ミリア「さすが、私のお姉ちゃんだって思った」


ミリア「みんなも嬉しくて叫んでいたよ」

ミリア「グレーテが立ち上がった!」

ミリア「朱音が立ち上がったって...」

ミリア「それでミリアこう思ったの...いつかお姉ちゃんみたいに強くて綺麗なお姉さんになりたいなって...」


私「いや、私は...そんなんじゃ...」


ミリア「お姉ちゃん...」

ミリア「お姉ちゃんは一人じゃないよ。ミリアがいる。みんなもいるよっ」

ミリア「だから大丈夫。もう怖くない」


私「ミリアちゃん...っっうっっ...ありがとう...」

ミリア「うんっ!」

ミリア「じゃあ、お母さんに代わるねっ」



?「朱音ちゃん...」


オレンジ色の玉からは心温まる声がした。


私「バーバラさん...バーバラさんなの?」

バーバラ「そうだよ...」


私「バーバラさん...バーバラさん...ごめんなさい...」

私「ごめんなさい...」


私「くっっううっ...」


私「ミリアちゃんを救えなかった...」

私「私...ミリアちゃんを救えなかったの!」

私「間に合わなかった...無力だった...」


私「くっっうっ...」


バーバラ「朱音ちゃん...謝らないでおくれ...」

バーバラ「ミリアも言ってただろ...朱音ちゃんは悪くないって...」

バーバラ「アタイもミリアと同じさ...」

バーバラ「アンタが一生懸命ミリアを救おうとしてくれていたのをずっと見ていたんだよ...」

バーバラ「だから全部知っているんだよ...」


バーバラ「私こそ悪いことしたね...こんなことに巻き込んじまって...」


私「ううん...それはいいの」


バーバラ「でも、またこうして朱音ちゃんと話せて嬉しいよ」

私「私も...」

私「できることなら、このままずっと話しておきたい」

私「安心するの。バーバラさんと話すと」

私「心が温かくなるの」

バーバラ「ありがとうね朱音ちゃん...」

バーバラ「でもね。朱音ちゃんと話したい人は他にもいるからこの辺にしておくね」

私「...うん...」


?「グーちゃん...」


緑色の光の玉からは親しい友の声が聞こえた。


私「その呼び方...っっっ...マリナちゃん...」

私「マリナちゃんっ」


マリナ「うん。グーちゃん...」


私「マリナちゃん...ごめん...」

私「私のせいで...私のせいで...」


マリナ「ううん。グーちゃん」

マリナ「謝らないで...」


マリナ「会いたかった」

マリナ「ずっとグーちゃんと会いたかった...」


私「私もよ。マリナちゃん...」

私「ずっと...ずっと会いたかった...」


マリナ「グーちゃん...私はね」

マリナ「実は...お友達なんて出来たことがなかったの」

マリナ「私って内気な性格でおっちょこちょいだからみんなから嫌われていたんだ...」

マリナ「でも、グーちゃんはそうじゃなかった」

マリナ「こんな私を受け入れてくれた」

マリナ「そして私を『親友』って言ってくれた...」

マリナ「私すっっごく!嬉しかったの」

マリナ「だから、グーちゃんが元の世界に帰った時は、私の中で何か穴が空いたような気がして...」

マリナ「またいつか会いたいなってずっと思ってた...」

マリナ「でも、今日こうして会えた。やっと会えた」

マリナ「とっても嬉しい」


私「っっうっ...私も...っっうっ...」


マリナ「グーちゃん...」

マリナ「これからより辛い思いをするかもしれない...」

マリナ「時には心が折れてしまいそうになるかもしれない...」

マリナ「でも、負けないでね!グーちゃん」

マリナ「私、グーちゃんのこと信じているから!」

マリナ「ずっとずっと信じているから!」


マリナ「辛い時は、私を思っていつでも何でも相談してね...」

マリナ「だって、私たち親友でしょ?」


私「うん!そう...私たちは親友...ずっ友!」

私「ありがとう。マリナちゃん」

マリナ「うんっ!」



?「朱音...」


水色の光の玉からはお兄ちゃんの声が聞こえた。


私「お兄ちゃん...」

私「お兄ちゃん...お兄ちゃんっ!」

私「くっっうっ...」


私「...」

私「嘘つき!バカっ!」

私「一人にしないって約束したのにっ」

私「バカっ!」


私「うっうっ...」


葵「ごめん...」


私「私がどれだけ辛かったか!...私がどれだけ悲しかったか!...お兄ちゃんにわかる?!」

私「ううっ...」


葵「ごめん...」


私「目の前でお兄ちゃんが消えて...」

私「それで私は...」

私「くっっうっ...」


葵「ごめんな...」

葵「ごめんな。朱音...」


葵「俺が悪かった...」


私「ううっ...」




?「朱音...」

?「朱音...」


紫色と黄色の光の玉からはどこか懐かしい声がした。

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