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忘却のグレーテ  作者: だい
第二章
60/116

番人

門の扉がゆっくりと開く。


ブラスバンドの音色が響き渡る。


黒いハット帽を被り、尖ったクチバシのようなカラスの仮面をつけたタキシード姿の男が中から現れた。


トランペットの高らかな音が二台の馬車の先導役を務め、トロンボーンが深く力強い音で周囲を満たす。


鼓動のようにリズムを刻むドラムが、骸馬の蹄の音と調和して響く。


馬車たちはゆっくりとカーペットの上を進む。


ブラスバンドの音が鳴り止み、突如として静寂が訪れた。


カーペット中央で一行は立ち止まった。


右目に眼帯を付けたオレンジ色の髪をしたタキシード姿の男が門から出てきた。

彼はハット帽を胸にあててお辞儀した。


?「突然のご無礼をお許し下さい...」

?「私は虚無の世界の番人をしている者です」

番人「失礼ながら名前は伏せさせていただきます」


番人「術者はあなた様でしょうか?」

私「...ええ」

番人「左様でございますか」


番人「あなた様のお名前は?」


私「グレーテです」


番人「グレーテ様の覚悟しかと受け取りましたよ」


番人「それで、お送りになるお方は?」


私「あの魔王...」

番人「承知いたしました」


番人「『ブラックパレード』についてはご理解いただけているということで?」


私「ええ」

私「私も送られるのでしょう...」


番人「はい...」


番人「それではこれから行わせていただきます...」

番人「クロウ達あの魔王を馬車へ」


カラス姿の男達は各々持ち合わせた楽器を床に置き、一斉に魔王の元へ向かう。


魔王「いやいや。勘弁してくれ...」

魔王「私はグレーテの要求を呑んだのだよ」

魔王「自分で入るよ」


番人「それはそれは我々として助かります...」

番人「送られる側は大抵の場合、駄々をこねて手がかかりますから...」


ネム「魔王様!私もご一緒に!」

マーシ「魔王様!」

メアリ「魔王様!」

店の店主「魔王様...まさかお忘れではないでしょうね?」


魔王「パロ...あいつらをどうにかしろ」


パロ「承知いたしました」

パロ「ですが、本当によろしいので?」

魔王「あぁ」

パロ「仰せのままに...」


パロ「リストレイン」


従者達は紫色の触手のようなもので拘束された。


マーシ「魔王様...何を!」

メアリ「魔王様!」


魔王「今までお疲れ様」


メアリ「え...」


魔王「だから、今までお疲れ様って...」


メアリ「へへっ...魔王様...何を仰っているのでしょうか?」


魔王「キミ達はもう用を済ませてくれた」


魔王「今日までありがとう」


魔王「これからはグレーテと二人きりで...」


メアリ「そんな...」


ネム「私はあなた様の為に忠誠を...」


マーシ「裏切ったな...魔王」


魔王「裏切る?フフッ...最初からそのつもりだったが...」

魔王「だって俺は魔王だろ?」


メアリ「許さない!」

メアリ「私たちとの約束は!」


魔王「黙らせろ」

パロ「ええ...」

パロ「仰せのままに」


ネム「魔王様...」

ネム「私は別に...」

ネム「ん...んー...」


従者達は口を触手のようなもので塞がれた。


魔王「さぁ、行こうかグレーテ」

魔王「僕ら二人きりの世界へ」


私「ええ...」


私 (改めて安心した。あなたを送ることへの私のためらいはもうない...)

私 (魔王...逆に私があなたをあっちの世界で諦めさせるわ)

私 (私が絶望しないってことでね)


魔王は前方の馬車へ、私は後方の馬車へそれぞれ乗り込んだ。


番人「グレーテ様これで本当によろしいので?」

番人「あちらの世界へ送られた魂は生まれ変わることはありません」

番人「永遠に...」


番人「こちらに関してもご理解いただけていますでしょうか?」

私「そう...それは初耳」


私 (そっか...)

私 (本当に一人ぼっちになっちゃうんだ...)

私 (でも...いいのよね?それで...)

私 (いいのよね?私...)


私 (欲を言えば、みんなと一緒にこの世界で平穏に暮らしたかった...)

私 (みんなと一緒に未来を歩みたかった...)

私 (今思うと、みんなと一緒に平穏に暮らせていた過去の自分が羨ましい...)

私 (あの時、私幸せだったんだ...)


私 (でも、ジャックの言う通りみんなは救えない...)


私 (だから、この世界だけはなんとしてでも残したい)


私 (ジャック...ミリアちゃん...バーバラさん...グリフォン...マリナちゃん...そして...お兄ちゃん)

私 (私の選択は正しくないって...みんなは言うかもしれない...)


私 (でもね。みんな...私は自分らしく恥じない自分でいたいの!)

私 (ごめんね。こんなわがままな私で...)


私「ええ...これでいいわ」


番人「扉を閉じればもう中からは開けることができませんが...」


私「ええ...お願い...」

番人「承知いたしました」

番人「それでは...」


私 (さようなら...みんな...)

私 (今度は温かい家庭に生まれて何不自由なく幸せに生きるんだよ)


私 (愛してる)


二つの馬車の扉が閉められた。

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