堕ちたエイジス
空は赤黒く染まっていた。
私「見えてきた。あれがエイジス」
私は指差した。
葵「あれがか...」
葵「静かだな...」
私「そう...静かすぎるの...おかしい...」
私 (まさか。もう魔王の手に落ちたってこと?)
私 (エイジス城で待っているってそうゆうこと?王様は?)
葵「おい!あそこに誰かいるぞ!」
私「え?」
お兄ちゃんが指差した方には一人の男性がいた。
私「あれって...アークさんっ!」
私「グリフォン!あそこに降りて!」
グリフォン「グガァー!」
グリフォンが降下し始めた。
「ガガガガ...」
グリフォンが地表に足を付けた。
私「アークさんっ!」
アークさんは砦を背にして横になっていた。
全身傷だらけで、右足のふくらはぎに巻き付けてある包帯からは血が滲んでいた。
私「アークさん!」
アーク「ん...あぁ...君か...」
アーク「なぜ来たんだ...」
アーク「君たちは元の世界で幸せに暮らしていたんだろう...」
アーク「早く元の世界に帰れ...これは忠告だ...奴には勝てない」
アーク「私の両親も...妹も...クゥッ...」
私「えっ...そんな...ご家族が!あっ...王様は!」
アーク「...王は...グハァッ...」
アークさんは口から血を吐いた。
私「アークさん!アークさんっ...しっかりして!」
彼からの反応はなかった。私は知っていた...人が死ぬ瞬間を...
私「そんな...」
私「...そんな...ひどい...ひどすぎる...」
私「私の知っている人が...みんな...みんな...」
私「ミリアちゃんとジャックは...大丈夫よねっ...生きているよねっ...」
葵「朱音...」
葵「今はそれを信じて進むしかない...」
私「うん...」
シェイド「どうやら着いたようだな...」
シェイドが中から出てきた。
私「シェイド」
シェイド「おぅ...主...」
シェイド「ここからは気をつけろよ」
シェイド「この砦以降から魔族の気配がプンプンしやがる」
シェイド「いったい何体いやがるんだ...」
シェイド「それに人間の気配が全くしねぇ」
シェイド「どうなっていやがる...」
「ガガガガガ...ガゴンッ...」
砦の門が急に開いた。
葵「これって...入れってことか?」
シェイド「こっからが正念場だ!」
私「いこう...」
葵「うん...」
シェイド「あぁ...」
葵「ここからは俺も」
お兄ちゃんは服の袖を捲り、赤い宝石の装飾がついたブレスレッドを出した。
私「なに?それ?」
シェイド「それなんか見たことあるようなぁ...」
葵「あぁ...これなー...」
葵「今朝マリー先生に水汲みを頼まれて、館の裏口から井戸に向かったんだ...」
葵「その時、俺は無力でただのお荷物だけど何とか朱音の力にならないかって...」
葵「『朱音を救いたいって』心で願ったんだ...」
葵「そしたらさ、上から何か光る物が目の前に落ちてきて...」
葵「その時は慌てて退いたよ」
葵「目を開けると、虹色に光る剣が地面に刺さっていたんだ」
葵「ビックリしたよ!」
葵「それで、剣を握ってみたんだ...そうしたら、このブレスレッドになったってわけ」
葵「もしかして、ここの赤いところを押すと剣になるのかな?」
シェイド「主の兄貴...それはなぁ...」
葵「葵でいいよ」
シェイド「あぁ...葵...それはなぁ...先代勇者の持っていた聖剣『イグナイト』かもしれん...」
シェイド「もう一度見せてみろ」
シェイドはまじまじとブレスレッドを見つめた。
シェイド「あぁ。間違いねぇ...『イグナイト』だ」
シェイド「俺は先代のアホを知っているから見間違えねぇ」
?「...シェイド...アホとは誰のことを言っている?」
シェイド「あぁ...なんか...聞き覚えのある声が...」
シェイド「あぁ...嫌な記憶...嫌な記憶...嘘だよねぇ...嘘って言ってー」
シェイドが額に冷や汗をかく。
お兄ちゃんが身につけていたブレスレッドが神々しく輝き、剣の姿に変わった。
?「シェイド...お前は相変わらず口が達者で可愛いやつだなぁ...」
シェイド「ああああ...」
シェイドが私の後ろに隠れた。
シェイド「ああああ...生きてたのん...」
?「あぁ...魂の分体ではあるがな...久しいなシェイド...」
私「だれ?」
?「紹介が遅れてすまなかった。私は先代勇者カノンだ」
カノン「まぁ...今の私は...無様な姿ではあるがこの剣に魂が宿っている...そうゆう感じだ...」
シェイド「バッカじゃねーの!ハハッ...ハハッ...勇者が剣に取り込まれてやがるっ!...ハハッ」
シェイド「カッ...ハハッ...本当に無様っ...おかしいっ...おかしすぎる...カッ...ハハッ」
カノン「だが、剣だからといって何もできないということでもない」
カノン「はい。このように」
剣が私の後ろの方に向かい、シェイドのお尻を刺した。
シェイド「痛っってぇーーーーーーーーー!おめぇ!ふざけんなよっ!」
カノン「おい!シェイド!どっちがふざけているのだ!」
カノン「私は剣ではあるが無力ではない!」
シェイド「おっめぇーっ!...やりやがったなぁー!」
カノン「元主人に向かってなんだ!その口ぶりは!」
カノン「もう一発いくか?おい!」
シェイド「ちょっと待っ...俺が悪かった!一旦たんま!たんま!」
シェイド「主ー...」
シェイド「助けてぇー!」
私「まぁまぁ...カノンさん...許してやってくださいな...」
私「シェイドも久しぶりの再会で嬉しいんだと思いますよ。きっと...」
カノン「まぁ...そなたがそう言うのであれば...そうか。嬉しいのだなシェイドは...」
シェイド (はぁん?そんなこと思ってねーよ。バーカ...脳筋勇者...アーホ...とんだ勘違い野郎)
私 (コラッ!シェイド!)
シェイド (大丈夫だ...あいつには聞こえてねぇからよ...)
私「はぁ...」
私はシェイドのあまりにもの稚拙さに呆れた。
カノン「しかし、こいつすぐに調子に乗りやがる。だから、その都度教育が必要だ!」
私「はい...それは十分知っています...」
私 (やっぱりシェイドとの付き合い方って、今も昔も変わらないんだー...)
私 (確かに小馬鹿にされた感じでムカつくよね。こいつの発言...)
私「話はそれで?」
カノン「失礼した」
カノン「私は剣に魂の分体を宿し、魔王を討ち取った後、ひっそり洞窟に身を潜めていたのだ」
カノン「だが、今朝そこの葵という男の強い願いに私の心は動かされた」
カノン「そして、彼の望みに応えたいと思ったのだ」
カノン「それで今に至る」
カノン「まさか、アホにまた会うとは思いもしなかったが...」
シェイド (アホ言うな!ボケッ)
私 (コラッ!シェイド...カノンさんもカノンさんだけど...そうやって影で言うのは見ていて惨めよ)
シェイド (だって...ムカつくもん...アイツ...)
私 (あなたも成長しなさい...あなたがケンカを吹っ掛けたんだから...)
シェイド (うぅん...)
カノン「ということで、これからは葵殿にお供する!」
カノン「これからよろしく!」
私「はい!とっても心強いです!」
葵「よろしくお願いします!」
カノン「そう固くならなくてもよい」
カノン「我はお主の剣なのだ」
葵「あっ...わかった。よろしくなカノン!」
カノン「あぁ!」
シェイド (あー...なんか嫌な感じ...あーやな感じ...あー...)
心強い味方が増えたと思った兄妹であったが、それを快く思わないシェイドであった。