逃げ惑う人々
私たちはグリフォンに乗ってエイジスに向かっていた。
葵「朱音...」
葵「行くのはいいが、行って本当に大丈夫なのか?」
葵「もう一度考え直してみたんだけど...どうもなぁ...勝算が...」
葵「何か策でもあるのか?」
私「え...」
私「そんなのないよ...」
葵「...」
葵「そうか...」
葵「うーん...」
葵「やっぱり、そうなのかー...」
私「うーん...」
私「でも、行ってみないとわからないじゃん。そんなの...」
葵「まぁ、そうだけど...」
葵「なんかただ単に不安で...」
私「それより、お兄ちゃん朝のお薬飲んだの?」
葵「あっ...そういえば...なんか体がだるいなぁって思っていたのはそれかー」
私「もう!お願いだからしっかり飲んで!」
葵「はいはい。ごめんごめん...」
お兄ちゃんは薬を飲んだ。
葵「あぁ。ちょっと楽になったような...なっていないような?...」
私 (本当にまずい...)
私 (昨日よりお兄ちゃんの体が一段と透けて見える...)
私 (早く何とかしないと!)
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飛び立ってからしばらくの時間が経った。
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葵「なーんか...ずっと飛んでいるのも暇なもんだな...」
葵「ん?」
葵「朱音見て!あんな大きな都市も燃えている」
葵「これも魔王の仕業か?」
私はお兄ちゃんが指差した方向に目を向けた。
私「あそこって!スフィア!」
私「そんな...」
葵「おい!小さい男の子が走って逃げているぞ!」
葵「追っているのは武装したスケルトンか?」
私「本当だ。助けないと!」
私「グリフォン降りて!助けないと!」
葵「ダメだ朱音!」
葵「今の朱音に何ができる?」
葵「降りたところで本当に助けられるのか?」
私「それは...」
葵「朱音がやるべきことはなんだ?」
葵「ここで終わる気か?助けに行くんだろ大切な人を!」
私「わかってる...わかっているんだけど...あのままじゃ...」
私「グリフォン!」
葵「グリフォン頼む...朱音を大切に思うのであれば、降りないでくれ...」
葵「今はその時じゃない!わかってくれ...本当に朱音を思うのであれば...」
グリフィン「グゥ...」
私「お兄ちゃん!なんてことを言うの!」
私「グリフォンお願い!早く降りて!」
グリフィン「グゥ...」
グリフォンは降下をせずにそのままの高度で飛び続けた。
私「なんで?わたしの言うことを聞いて!」
私「降りて!グリフォン!」
グリフィン「グゥ...」
私「それじゃあダメ...あの子が...」
私「あっ!....」
逃げる男の子の胸にスケルトン兵の剣が突き刺さった。
私「そんな...」
私「なんで...」
私「なんで降りなかったの!グリフォン!」
グリフィン「グゥ...」
葵「朱音...わかってくれ」
葵「正直言って、今の俺らには降りたところで何にも出来ない...」
葵「ただ、やつらの矛先がこちらに向くだけだ」
葵「それはグリフォンもわかってのことだと思う...」
私「そんな...」
葵「朱音のすることはただ今苦しんでいる人を救うだけでいいのか?」
葵「仮にその人を救えたとしても別の場所で別の人が命を落とすんだ」
葵「朱音がしないといけないことはなんだ?」
私「それは...」
私「魔王を止めること」
葵「そうだろ」
葵「朱音の『苦しんでいる人を助けたい』という思いは正しいと思う」
葵「でも、今はその為に...多くの人を助ける為に...今は目を瞑るしかないんだ!」
私「そんな...」
私 (あそこにも逃げる3人の家族が...)
私 (目を瞑る?)
私 (でもお兄ちゃんの言うことは正しい...)
私 (今は...でも...)
私が悩んでいるうちに3人家族のうちの5歳ぐらいの女の子が逃げている途中に転倒した。
私「あっ...」
その子を母親らしき人が庇った。
その母親を父親らしき人が庇った。
スケルトン兵の剣が3人家族を串刺すように貫いた。
私「そんな...」
私「ひどい...ひどすぎる...」
葵「朱音...今は辛いが耐えてくれ...」
私「...」
葵「魔王を止めよう。必ず!」
私「...うん...」
私は逃げ惑う人々に対して目を瞑り、魔王を止めると決意した。