ジャックの絵本
あれから一年が経った...
私は十五歳になり高校へ進学した。
新しい友達もできて充実した学校生活を送っている。
お兄ちゃんは町の工場に勤め、私の生活を支えてくれている。
私も町の本屋でアルバイトを始め、兄弟二人でなんとかやっていくことができている。
最初は不慣れなことも多かったけど、一年も経てばそれなりに元の世界での生活に慣れ始めた。
葵「朱音...」
私「ん?」
葵「明日予定ある?」
私「日曜日だし特にないけど...」
葵「父さんと母さんのお墓参り...行こうかなと思っているんだけど...」
葵「どうかな?」
葵「こっちでの生活にも落ち着いて、ようやく心の整理ができたんだ...僕はね...」
葵「だいぶ父さんと母さんには待たせてしまったんだけど...」
私「うん...行こう」
葵「よかった...」
葵「じゃあ、明日な」
私「うん...」
私たちは明日両親のお墓参りに行くことになった。
私は自分の部屋で幼い頃、家の前で撮った家族写真を眺めていた。
私 (ずっと会いたかった...)
私 (お父さん...お母さん...)
私 (明日...会いに行くね...)
私 (私、記憶を取り戻してから思い出したんだ...)
私 (あっちの世界で食べた。虹色パスタの味...)
私 (お母さんのロールキャベツの味だったんだって...)
私 (私、お母さんのロールキャベツ大好きだった...)
私 (また食べたいな...お母さんのロールキャベツ...)
私 (お母さん...)
私 (昔は家族みんなで幸せだったな...)
私 (私はそれが当たり前だと思っていた...)
私 (何もない生活ってとっても幸せなんだね...)
私 (今も幸せ。お兄ちゃんがいてくれているから...)
私 (そういえば、あっちの世界のみんなは元気かな...)
私 (まだあれから一年しか経っていないんだよね...)
私 (なんだか懐かしいような...)
私 (ジャック...)
私 (あなたは大切なもの...見つけられたの?)
私 (あっ...そうだ)
私はふと気になりジャックの絵本を机の引き出しから取り出して手に取った。
私 (懐かしいな...)
私 (この絵本から始まった...)
私 (ヘンゼルとグレーテル...か...)
私は何気なく絵本をパラパラめくった。
私 (この絵本って本当に詳しいこと書いていないな...)
私 (今となってはよくわかる...)
私はパラパラとめくり最後のページに目をやった。
私「ん?」
最後のページの右端に何かが小さく文字が書かれていた。
「朱音ちゃん...ミリアがね...ミリアがね...
バーバラ...もうグレーテたちはあっちの世界で幸せな生活を送っているんだ...
あまり心配をかけちゃダメだ...私たちでなんとかするんだ...
そんな...うん...そうだね... ごめんね。朱音ちゃんなんでもない...」
私 (え?何があったの!?)
私 (ミリアちゃんに何かあったの?!)
私は何があったのか気になり、その本に何か別のメッセージがないかを調べた。
絵本の後ろの「そで」の裏に何か文字が書かれていた。
「朱音ちゃん...ジャックがね...XXXに連れ去られた...
私はどうすることも出来なかった...それにミリアも...」
「もし、気づいたら助けておくれ...お願い...」
私 (バーバラさんっ!)
私 (あっちで何が起きているの?)
私 (もしかして)
私は引き出しから鉛筆を出した。
絵本のそで部分に「今いったい何が起きているんですか?」と書き入れた。
そうすると、私が書き入れた下部分に文字が浮かび上がった。
「朱音ちゃんかい?」
私 (やっぱり通じているんだっ あっちの世界と!)
私は引き続き文字を書き入れた。
「はい。朱音です」
「そうかい...朱音ちゃんかい。よかったよ。通じて...」
「ごめんよ...あまりもう時間がなくてね...」
「細かいことは後で話す」
「ジャックには頼るなって言われていたんだけど...もうこれしか...私には...」
「ジャックと...ミリアが...XXXXXX」
私 (あれ?重要なところが...なにかの影響?)
「でも、ジャックの言う通りアンタらにはもう関係ないもんね...」
「朱音ちゃん...行くか行かないかはあなた自身で決めておくれ...」
「今から少しお兄ちゃんと相談します」
「ごめんね...」