迫害の村ウェーゲ
------迫害の村ウェーゲ------
ジャック「着いたね」
広場で子どもが追いかけっこをしながら、はしゃいでいた。
私 (悪いところではなさそう...)
私 (村の人がこっちを見てる...病院服では目立つよね...)
私「ところで、ジャックさん...」
ジャック「ジャックでいいよ」
私「うん…」
私「因みになんですけれど...」
私「今夜の宿代とかって?」
ジャック「ん?ないよ...」
私「...ふーん...」
私「...」
私「えっ」
ジャック「ハハッ...そうだね...どうしよっかなぁ...」
ジャックは顎に指をあて、考える素振りをした。
私(この人に付いて行って大丈夫なのかな…)
私はとても不安にかられた。
私
私「これって...いくらかで売れたりしますかね?」
ヘアピンを髪から外し、ジャックに手渡した。
ジャック「ん?」
ジャックはそれを月明りにかざした。
ジャック「これはいい品だねっ」
ジャック「きっと良い値で売れるよ。いいのかい?」
私「...はい…」
私「何も覚えてないので...」
ジャック「そう...」
ジャック「じゃあ、さっそく質屋に行こうか」
彼は私にヘアピンを返し、その後質屋に向かった。
ジャックが店前のベルを鳴らす。
「チリンッ...チリンッ」
質屋の店主「へい。いらっしゃい!」
質屋の店主「すまんが、今日はもう店じまいだ」
ガタイの大きいスキンヘッド男が店の奥から出てきた。
ジャック「そう固いこと言わないで」
ジャック「良いものだよ…」
と、ジャックは小さな声で囁いた。
私「...」
私「あの...」
私「あっ...」
店の店主「あぁ?」
私「いや、あ...」
ジャック「フフッ...」
ジャックは私の手元からそっとペアピンを抜き取り店主に差し出した。
ジャック「これいくらで売れる?」
質屋の店主「ん?」
虫眼鏡を取り出してヘアピンを眺めた。
質屋の店主「ほぉ」
質屋の店主「これはかなり良い石を使っている...しかもかなり精巧に...」
質屋の店主「はめられている石は魔法石って...のではなさそうだが...」
質屋の店主「んっ...それで...」
質屋の店主「これをどこで手に入れたんだい。お嬢ちゃん」
質屋の店主「それにめずらしい身なりだし...」
質屋の店主「異国の者かい...?」
ジャック「まぁ、それは別にいいだろう」
ジャック「それで、いくらで売れるんだい?」
質屋の店主「あっそうだな。う~ん。百二十五ベルクがいいところだろう」
質屋の店主「どうだい?」
ジャック「うん。決まりだ」
質屋の店主「毎度あり」
宿屋へ向かった。
ジャック「ここだね」
宿屋は赤いレンガで作られており、大きな看板に『ポパイ』と書かれていた。
宿屋の店主「ようこそ宿屋ポパイへ 宿屋の店主バーバラです。お二人様でしょうか?」
ジャック「そうだよ」
四十代ほどの少しふくよかな体つきに、どこか安心感を与える穏やかな雰囲気をまとった女性だった。
バーバラ「それでしたら一泊二十四ベルクです」
バーバラ「ご夕食はお済みで?」
ジャック「まだだよー」
宿の人「それでしたら、ご夕食と朝食込みで30ベルクのところですが、今回初めてのご来店ということで二十六ベルクに負けさせていただきます」
ジャック「それは助かるね」
バーバラ「それでは二階に上がっていただき、一番奥のお部屋となります」
バーバラ「ご食事は後ほどお持ちいたしますので...」
私「ありがとうございます」
バーバラ「他何かございましたらお申し付けくださいませ」
私「あの...」
私「この辺で服屋さんってありますか?この服目立つみたいで...」
バーバラ「ちなみに、お手持ちはいくらほどに?」
私「九十九ベルクです...」
バーバラ「そうですか...」
バーバラ「あっそうだ。私の娘の服があるかもしれません」
バーバラ「後ほどご用意させていただきます」
私「いいんですか!」
バーバラ「ええ。お構いなく...」
私「ありがとうございます」
バーバラさんに会釈し、部屋に向かった。
部屋を開けるとベットが二つあり、部屋は比較的質素な感じだった。
ジャック「ここが今夜泊まる部屋なんだね」
ジャック「あっそうだ」
ジャック「あれを説明しておかないと」
ジャックがカバンから砂時計のようなものを取り出した。
ジャック「はいこれ」
私「これは...」
ジャック「これはキミの記憶を一時的に保管できるアイテムなんだ」
ジャック「この砂時計をこのようにひっくり返しても砂が落ちないだろ?」
ジャック「ここに入れた記憶は時間が止まり、一時的に保持できるんだ...」
ジャック「今日寝る前にキミの記憶をここに入れるよ」
「コンッ...コンッ...」
誰かがドアをノックした。
バーバラ「失礼します。バーバラです。お食事の準備が整いました」
バーバラ「たいへん質素なメニューで申し訳ございません。村では飢饉が続いておりまして...」
私「いえいえ。ご用意して頂けるだけで大変ありがたいです」
私 (野菜のシチューとパン。とてもおいしそうな匂い)
バーバラ「あとこちらお召し物です。サイズが合うと良いのですが...」
控えめなデザインのピンクのドレスだった。
ジャック「おー。良いドレスだね。きっと似合うよ。さぁ、さっそくここで着てみなよっ」
バーバラ「えっ...」
私「...」
ジャック「...あっそっか。ごめんよ...」
ジャック「これはうっかり…」
私「あとで試着させていただきます」
バーバラ「はーい」
私「バーバラさん...ご親切にありがとうございます」
バーバラ「いいえ。大したことではありませんよ。私にもあなたぐらいの娘がいましてね...」
バーバラ「私がただ放っておけないだけですので...」
私「娘さんが?」
バーバラ「はい。私と娘は元々別の村に二人で幸せに暮らしていたんですよ。ですが、ある日、王国軍が私たちの村を襲って来まして...」
バーバラ「命かながらなんとか二人で逃げることはできたました...」
バーバラ「ですが、娘は受けた傷が深く、私は十分な治療もできずで...そのまま娘は…」
バーバラ「ちょうどお客様ぐらいの歳で、赤毛のとても心優しい子...だったんです...」
私「そんな...そんなに大切な物を...」
バーバラ「いいんです。使ってやってください」
バーバラ「あの子が居たら、きっと『そうしてあげて』って...言うと思うんです...」
バーバラ「この村にはね...私のように国から迫害を受けた人が多いんですよ...」
私「それではありがたく…」
バーバラ「はい...」
バーバラ「一つお願いがあるのですが...」
バーバラ「無理なら断っていただいても構いません...」
私「私にできることならなんでも」
私「ここまでしてくださったのに何もしないって訳にはいきませんので...」
バーバラ「ありがとうございます...」
バーバラ「娘を失ってから十数年ほどが経つのですが...私は今だに娘のことが忘れられなくてね...」
バーバラ「本当に勝手で申し訳ないのですが、少しお嬢さんを抱きしめさせてもらえないでしょうか...」
私「えっ…」
バーバラ「いや、ごめんなさい…」
バーバラ「私ったら本当に何を言っているのか…」
バーバラ「忘れてください…」
私「私でも良いんでしょうか...」
バーバラ「…いいんですか…」
私「はい!」
バーバラ「本当ですか…」
バーバラ「いや、こんなに嬉しいことはありません...」
バーバラ「お嬢さんの目、本当に私の娘にそっくりで...」
バーバラさんに向かって両腕を開いた。
私「どうぞ…」
バーバラさんは、優しく私を抱きしめた。
バーバラ「ごめんね...リディア...」
バーバラ「あなたを一人おいて…」
バーバラ「なんで私だけが生きているだろうね…」
バーバラ「ごめんね...」
バーバラ「お母さん、あなたを守ってあげられなかった...」
バーバラ「ごめんね…」
私( ずっと…)
私( ずっと我慢して来たんだろう...)
私 ( 誰にも打ち明けられずに、閉じ込めて生きてきたんだろう...)
私もそっと抱きしめてあげた。
バーバラ「ごめんなさい...取り乱してしまいました...」
バーバラさんは涙を拭った。
バーバラ「...せっかくのご夕食が冷めてしまいましたね...」
バーバラ「私、もう一度温めてきますので...」
私「良いんです...」
私「このままで」
私( たとえ冷めていても作ってくれた人の温かさは変わらない...)
バーバラ「いや、いいんですよ。そんなの…」
私「ううん。いいんです。今日はゆっくり...ゆっくり休んでください...」
バーバラ「…お気遣いありがとうございます」
バーバラ「それじゃあ、お言葉に甘えてお暇させていただきます」
バーバラ「明日の朝食は腕を振るいますので、是非お楽しみにしてくださいねっ...」
バーバラ「それではおやすみなさい」
私「はい」
バーバラさんはそう言ってにこやかに部屋を出た。
私はジャックと一緒に夕食を食べた。
私「美味しいっ!」
私( とっても優しい味….)
ジャック「うん。本当に」
私「ジャック...」
ジャック「なんだい...?」
私「なんで王国は迫害をしたり...するの?...」
ジャック「それはすべて悪い魔女のせいだよ」
ジャック「今の国王は悪い魔女に成り下がっているんだ」
ジャック「魔女の力はそれほど強大でね。誰も彼女には逆らえない...」
私「その悪い魔女を倒せば全て解決する...」
私「きっと、誰か強い人が倒してくれるってこと...なんですね...」
私「ふーん。そうなんだ」
ジャック「ハハッ…」
ジャック「何を他人事のように...」
ジャック「キミが倒すんだよ...」
私「私がっ!?」
ジャック「そうキミが」
私「ムリムリ...何を言ってるの?!」
ジャック「これはね運命なんだよ...」
ジャック「そもそも、キミと僕の前にしか彼女は姿を見せない」
私
私(まぁ、いいや…)
私「着替えるからあっち向いてくれます?」
ジャック「はぁーい…」
バーバラさんからお借りしたドレスを試着した。
私「どう?」
ジャック「うんっ!とても似合っているじゃないかー」
私「そう?...」
ジャック「うんっ!」
私 (ドレスなんて着たの初めてだ。なんだか嬉しいような...恥ずかしいような...)
ジャック「グレーテ…」
ジャック「そろそろ今日の記憶を留めておこうか...」
ジャックが砂時計を取り出した。
私「ねぇ。ちょっと待ってくれる?」
ジャック「うん。いいよ」
私「…ここまで…なんか流れで来ちゃったけれど…」
私「このままで…いいのかな…」
私「私、これから大丈夫なのかな…」
ジャック「さぁ…それは僕にもわからないよ…」
ジャック「でも、僕はこう思う」
ジャック「分からないことは、明日の自分に託すしかない」
ジャック「だって、分からないんだから…」
ジャック「そのまた翌日には、今の自分には分からないことがわかっているかもしれない…」
ジャック「これから、キミは少しずつこの砂時計に記憶を溜めていくんだよ」
ジャック「さぁ、この砂時計をじっくり見つめてごらん...」
ジャックは右手で砂時計を掴み、私の目の前にかざした。
私 ( なんだかすごく眠気が...)
ジャック「また明日...グレーテ...」
ジャック「良き夢を…」
-----翌朝-----
ジャック「グレーテっ!おはよ」
ジャック「グレーテ起きるんだっ!」
奇抜な格好をした男が、ベットの上に立っていた。
私「キャーーーーーーーー!」
私は奇声を上げた。
ジャック「はいはい。まぁ、そうなるよねー…」
ジャック「キミが目覚める度、毎朝これかー…」
ジャック「はい。これ見つめてぇ~...」
砂時計を見つめた。
私「えっ…あっ」
私「私はあれから寝たの?」
ジャック「そう。キミはあの後すぐに寝入ったよ」
ジャック「記憶を移し替えることはとても気力を使うことだからね」
私「そうなんだ…」
私はしばらくの間、ボーっとした。
私「んー…」
私「私さっき自分で『あれから寝たのって?』って聞いたよね…」
ジャック「あぁ…」
私「ふーん…」
私「…」
私「えっ…昨日のこと覚えている…」
私「お兄さん…バーバラさん…」
私「覚えているっ!」
私「これが…記憶...」
私「これが記憶なんだねっ!」
私「なんだかとっても不思議っ!」
ジャック「なぁーんで僕の名前な出てこなかったんだい…」
私はベットの上に立ち上がった。
私「もちろん。覚えているよ」
私「ジャックっ!」
ジャック「安心したよ」
私「こんなの初めてっ!」
私「覚えているって…ステキねっ!とっても!」
私はジャックの手を取って、ベットの上でジャンプした。
私「やったっ!」
私「こんなに嬉しいのは初めてっ!」
私「私、もう忘れたくない…」
私「また明日に引き継がないとねっ!」
ジャック「フフッ…そうだね」
私「さぁ、朝ごはん食べにいこっ!」
ジャック「あっ...うん...そうだね」
ジャック「あれ?その首のキズはどうしたんだい?...」
私は首の裏に右手を添えた。
私「キズ?...本当だ...寝ている間に自分で引っ掻いたのかな?」
私「まぁいいや。早くいこっ」
私たちは食堂へ向かった。
私「バーバラさんっ...おはようございますっ!あれ...バーバラさん?」
豪華な朝ごはんがテーブルに広げられていた。
私「とても美味しそう。まだ器が頬温かい。何か用事かな?」
私「まぁ冷めないうちに頂こうっ!」
ジャック「うんっ!」
朝食に手をつけた。
私 「う~ん。美味しい...」
私 (こんなに美味しい料理を毎日食べられるなんて…娘さんはきっと幸せだっただろうなぁ…)
?「女将さんっ!」
突然、知らない男性が焦る様子で中に入って来た。
?「アンタら女将さんを知らないかね!?」
私「バーバラさんのことですか?」
?「そうだよ。軍のやつらに拐われたって聞いてね...」
私「えっ…」
私「でも、ここにはいらっしゃらないかと思います...」
?「そうかい...私はこの村の村長じゃ。もし見つかったら教えておくれ」
私「はい...」
村長さんが去っていく。
私「ジャックっ!...バーバラさんを助けないと...」
ジャック「うん」
ジャック「なんだか広場の方が騒がしいね」
私「行こう!」
ジャック「うん!」
ジャック「なんだか、昨日のキミとは別人のようだ…」
ジャック「少し自信がついてきたのかな?」
私「そんなことはいいからっ...早くっ!」
ジャック「あぁあ。そうだね」
私はジャックの手をとり、広場へ向かった。
広場には群衆が集まり、馬に乗った騎士達が中央で剣を翳していた。
軍人「こいつの逃亡に加担したものは誰だ」
軍人「出てこいっ!」
軍人「出て来ないならば、こいつをここで見せしめにする」
バーバラさんが両手両足を縄で縛られていた。
私「バーバラさんっ!」
バーバラさんはこっちに気づいたのか首を横に振っていた。
私( 助かるなってこと?!)
私「そんなの無理だよ…」
私 ( うーん…仕方ない…)
私( 見過ごすなんてできないよ)
民衆がバーバラさんを円のように囲む中、私は声ををあげた。
私「あなた方がどんなにお偉い方かは知りませんが、バーバラさんを放してくださいっ!」
ジャック「ちょっ。グレーテ…」
軍人 「なんだぁ?貴様は...さてはお前だな。あいつを引っ捕えろっ!」
ジャック「もう…キミって子は...」
ジャックも円の中に入り込んだ。
ジャック「グレーテ...キミは少し下がっているんだ...」
ジャック「僕に任せろ」
軍人「グレーテだって?」
軍人「フッ...ずっと前、魔女に喰われたっていう噂の娘っ子と同じような名前だな...」
軍人「確かその兄は妹を置いて怖くて逃げ出したっけか?...」
ジャック「っっ…」
ジャック「はいはーい。お集まりの皆様ー」
ジャック「私は道化師のジャック…」
ジャックは広場中央へと向かった。
ジャック「これから皆様に素敵なショーをお見せいたしましょう」
ジャック「それでは皆様、手拍子を」
ジャック一定のリズムで手を叩く。
最初は一人の手拍子だったが、段々と群衆全体へと広まっていった。
群衆「さぁ、何を見せてくれるんだぁ?」
群衆「おぅ!楽しくなってきたねー!」
先ほどまで静まり返っていた空気が一変した。
ジャックの手にステッキが突然現れた。
それを宙に宙に投げ、落ちて掴んだと共にステッキが花束へと変わる。」
群衆「おぉーーー!」
男の子「すげーっ!」
自分の帽子を手に取り、その中にその花束を入れた。
底がないかのように花束はスルっと入っていく。
その帽子の中を観客に向けると、帽子の中は空に。
ジャックはパチンっと指を鳴らし、誰かを指差した。
すると、軍人たちの頭には花の輪飾りが
群衆「おぉーーーーーー!」
軍人「ふざけやがってっ!このクソでくのぼうがっ!」
軍人「そいつを引っ捕えろ!」
軍人たちは花の輪飾りを地面に捨て、ジャックを取り囲もうとした。
「バタバタッ...バタバタッ」
馬の蹄の音と共に大勢の兵士が広場へと集まる。
?「そこまでにしておこうか...」
軍人「なんだお前らはっ...」
?「間に合ってよかった...」
?「私はロジャー」
?「自警団のロジャーだ」
ロジャー「国の謀略に逆らい、こうした罪のない民たちを国から守る」
群衆「ロジャーだぁーー!」
群衆「おぉ!ーーー」
ロジャー「君たちは我々に囲まれている」
ロジャー「ここらで、手を引く方が賢明だと思うがね...」
軍人「チッ!お前らっ...一旦引くぞー」
軍人「ロジャーだな。おめぇの顔は覚えた。国に逆らうとどうなるのかわかっているだろうなっ!」
軍人「お前ら行くぞっ!」
軍人たちが村から去っていく。
私は急いでバーバラさんの元へ駆け込んだ。
私「バーバラさんっ!バーバラさん大丈夫ですか!?」
バーバラ「もうっ!あんたっ!なんてあんな危ないことをしたんだいっ!危うく危ない目に遭うところだったんだよっ..」
私「すみません。私どうしてもバーバラさんを放っておけなくて...」
私「何もしない訳にはいかなかったんです…」
ロジャー「何言ってんだいっ!バーバラさん...」
ロジャー「この人たちのおかげで間に合い、あんたは助かったんだ...」
バーバラ「そうだね...ごめんね...」
バーバラ「ありがとうと言うべきだった...」
バーバラ「また私はね…」
バーバラ「娘の時のように失ってしまうと思って...」
バーバラ「つい。きつい言葉で言ってしまった...」
私「バーバラさん...」
私はバーバラさんの縄を解き、砂埃を払った。
私「ロジャーさんありがとうございます。大変助かりました...」
ロジャー「構わん。村人を守るのが我らの務め。お主らこそ大義であった!」
ロジャー「これは今回の謝礼だ。少ないが受けとっておくれ...」
ロジャーから小袋を受け取った。
小袋はズシっと少し重かった。
私「えっこれ...!?」
ロジャー「もちろん。これぐらいは当然だ。なんなら少し少ないぐらいだ」
ロジャー「では、達者でなっ!」
ロジャー「それではいくぞーっ!」
自警団が去っていく。
バーバラ「本当にありがとう...今晩も泊まってお行き...サービスするよ」
ふと思い出し、私はクローバーを確認した。
私 (五分一ほどが色を失い、枯れ始めていた。急がないと...)
私「すみません。バーバラさん。とってもありがたいのですが...)
バーバラ「わかっているよ。まぁそう言うと思ったよ...用があるんだろ?」
私「はい...」
バーバラ「じゃあ、少しだけ時間をおくれ。お弁当...作るからさ...」
私「ありがとうございます!」
バーバラ「その間、彼とと必要な物を集めておいで...」
私「はいっ!」
ジャックと一緒に市場へ向かった。
私「何がいるんだろう…」
ジャック「そうだね。まずはマジックバッグかな?」
私「マジックバッグ?」
ジャック「うん。軽量ながらなんでも入れられるマジックアイテムだよ」
ジャック「あとは、野宿をするならテントかな。あとは食料かな...?」
私「じゃあ、マジックバッグを見に行こうかな...」
ジャック「うんっ!」
私たちは魔道具屋に向かった。
店主「いらっしゃい。何をお探しで?」
私「マジックバッグを...」
魔道具屋の店主「マジックバッグかい。これら千ベルクから買えるよ」
私 「千ベルク!私そんなにもってないんですが...」
魔道具屋の店主「そうかい…うーん。うちは新品しか扱っていないからねー…」
魔道具屋の店主「うーん…」
魔道具屋の店主「あっそうだ」
魔道具屋の店主「そこの路地の雑貨屋なら盗品も扱っているみたいだから、安値であるかもしれない...」
私「ありがとうございます。ご丁寧に。他のお店を紹介してくださるなんて...」
魔道具屋の店主「良いんだよ。ここら商売人はみんな家族のようなもんだからね。どこで買っても同じさ」
魔道具屋の店主「また、今度寄っておくれ」
私「はいっ!」
私 「この辺りかな?...日が差し込まなくて少し薄暗い」
ジャック「そうだね...」
雑貨屋の店主「いらっしゃい。何かお探しで?」
私「雑貨屋さん...ですか?」
雑貨屋の店主「うん。そうださ。うちは盗品も扱っているからなんでも安いよー...」
私「マジックバッグって...あります?あまりお金なくて、できるだけ安いものが良いです…」
雑貨屋の店主「ちょうど、今朝入ったものがあるよ...」
雑貨屋の店主「これはかなりの上物なんだけどね。強い魔力を持っている者にしか開けられないようで、あまり売り物にならないんだよ」
雑貨屋の店主「お嬢ちゃん。魔力はあるほうかい?」
私「いや...わからないです...」
雑貨屋の店主「うーん...そうかい...」
雑貨屋の店主「じゃあ、測ってみようか。この玉に触れて」
雑貨屋の店主に渡された透明な玉の上に手をかざした。
透明な球体の色が紫色に変わり、するとすぐにひび割れた。
雑貨屋の店主「なんとっ!」
雑貨屋の店主「こりゃ玉だけにたまげたっ!」
私「本当にごめんなさいっ!」
私「壊してしまったようです...それを払えるようなお金は私...持っていなくて...」
私「本当に…本当にごめんなさいっ!」
私は頭を下げて全力で謝った。
雑貨屋の店主「玉は大したもんじゃないよ...」
雑貨屋の店主「それよりもお嬢ちゃん...闇属性のとても強力な魔力を持っているようだ」
雑貨屋の店主「これほどの魔力なら問題ないだろう...」
雑貨屋の店主「このマジックバッグを開けてみな」
私はマジックバックの口を開いた。
雑貨屋の店主「普通に開くのか...こりゃすげーや...」
雑貨屋の店主「特別に百ベルクでいいよ」
私「そんなにお安く?!」
雑貨屋の店主「あぁ。いいよ」
私「ありがとうございます!」
私「あっ…あと…」
私「何かアクセサリーのようなものは売っていますか?」
雑貨屋の店主「誰かへのプレゼントかい?」
私「はい。バーバラさんという方に大変お世話になりまして...」
私「そのお礼に…」
雑貨屋の店主「もしかしてキミらかい?さっき名乗りを上げたのは」
私「まぁ…はい…」
雑貨屋の店主「そうかい。そうかい。わっちらもバーバラさんにはとっても世話になっているんだ」
雑貨屋の店主「じゃあ、ここからここまでの好きなものを一つ持って行きな」
私「良いんですか!?」
雑貨屋の店主「うん」
私「じゃあこれを」
娘のリディアさんと同じ赤色の髪飾りを選んだ。
その後、必要な物をすべて買い揃えた。
私「これで全部オッケーかな」
ジャック「何が『オッケー』さ。キミはこれからどこに魔女を探しに向かうんだい?」
私「あ...忘れてた」
ジャック「キミって少し抜けてるんだね」
私( ん?何だコイツ)
私「あのー…どこかで帽子を詰まらせた人に言われたくないんですけどねぇー…」
ジャック「その節はお世話になりました...」
ジャック「キミも言うようになったね」
ジャック「ククッ…」
私「何?…」
ジャック「いいや…別に…」
私「そう。それでこれからの行き先どうする?」
ジャック「うーん…」
雑貨屋の店主「人探しかい?」
私「あっ…はい」
雑貨屋の店主「あぁ。それじゃあ、酒場がいいと思うよ。」
雑貨屋の店主「色んな旅人があそこには集まっているからね」
私「教えていただきありがとうございます!」
雑貨屋の店主「いいんだよ。またね」
私「はい!」
私たちは村の酒場へ向かった。
ジャック「ここだね」
私とジャックは中に入った。
私 (ここが酒場...とても賑やか。カードゲームなんかもしている)
ジャック「あぁ。騒がしいね」
ジャック「ここは...僕はこうしたガヤガヤしているところは苦手なんだよ...」
ジャック「まぁ、とりあえず、あのバーカウンターの女の人に聞いてみようか」
私「うん」
?「いらっしゃい」
?「あら、若いお客さんだね。まさか酒の注文…って訳ではないようね…」
?「じゃあ、人探しかい?」
私「はい」
?「私はここの店のメアリだよ。よろしくね」
メアリ「それで、どいつを探しているんだい?」
私「私、ある魔女を探していまして...」
さっきまでとても賑わっていた店内が一気に静まり、みんなの視線がこちらに向いた。
私 ( あれ...私もしかして、まずいこと言った?)
メアリ「…ってゆう冗談だろ?面白い客もいるもんだ。ハッハッハッ…」
周囲の人「まぁ、そうだよな。さぁ続きだ!飲もう飲もう」
店内が先ほどの賑やかな雰囲気に戻った。
私 ( よかったー...)
メアリ「ちょっと、アンタらこっちにおいで」
メアリさんに手招きされ、バーのカウンター裏に向かった。
メアリ「アンタあれは正気かい?」
私「はい。何かまずいことでした?」
メアリ「まずいも何も、まさか、数年前少女を喰ったってゆうあの魔女だったりしないだろうね?」
私「実は…そうです...」
メアリ「やめておきな。あんたも喰われるのが目に見えているよ」
メアリ「国王ですらも弱みを握られているそうじゃないか」
私「兄がその魔女に捕まっていて...それで...」
メアリ「自分の命よりもそんなに兄貴が大事なのかい?」
私「わからないんです…」
メアリ「わからない?」
私「私、記憶がなくて...」
私「でも、きっととても大切な人だと思うんです。私が忘れてしまっているだけで…」
メアリ「とんだトンチンカンな子だね」
メアリ「うーん...」
メアリ「そうかい。わかったよ」
メアリ「家族は背に腹を変えられないもんね。それじゃあ仕方ないか...」
メアリ「私はアンタがどうなろうと責任はとらないよ」
メアリさんはタバコを胸ポケットから取り出した火をつけた。
メアリ「私もね。二つ下の妹がいたんだ」
メアリ「生まれつきとても体が弱くてね。妹が十五才の時に亡くなっちまったのさ…」
メアリ「家族はね。何があっても大切にしなよ」
私「はい」
メアリ「そうだね…ここらでは、得られる情報が少ないと思う」
メアリ「商業都市『スフィア』なら詳しい人がいるかもしれないね」
メアリ「あっそうだ。あっちでは魔導書を扱う店があるって聞いたことがあるよ」
メアリ「きっとヒントが得られるはずさ」
私「ありがとうございます。行ってみます!」
メアリ「そこに行くんだったら、あれ持って行きな」
メアリ「ちょっと待っててね」
メアリが道具箱から何かを探しだす。
メアリ「確かこの辺に…」
メアリ「あったあった」
メアリさんから板のようなものを渡された。
私「これは?」
メアリ「通行証と地図だよ。それがないと入れないからね」
私「これ…いいんですか?」
メアリ「あぁ、また今度来た時、用がなければ返しておくれ」
私「メアリさんありがとうございます!」
メアリ「はいよ…」
私はメアリさんに感謝をこめて会釈した。
メアリ「がんばってね」
私「はい」
ジャックと私は酒場を後にした。
私「ジャック。この村の人みんな良い人だね」
私「こんなに良い人たちを迫害するなんて...ひどいよ...」
ジャック「僕もそれは思うよ。それもこれも魔女を倒せばすべて上手くいくことさ…」
私「…うん」
私(本当に…私が…)
その後、私とジャックはバーバラさんのもとへ向かった。
バーバラ「あー。終わったようだね」
バーバラ「ちょうど出来たところだよ」
バーバラ「すべて終わったのかい?」
私「はい」
バーバラ「そうかい。はいよ」
バーバラさんら小包をもらった。
私「これ…おいくらですか?」
バーバラ「いくらだって?これはアタイの気持ちだよ。受け取っておくれ」
バーバラ「アンタと会って、なんだかまた娘に会えたような気がしてね...」
バーバラ「本当にありがとね…」
私「こちらこそありがとうございます!」
私 (人にプレゼントするなんて初めてだから緊張する…)
私「あの...」
私「バーバラさん。これ私からのプレゼントです」
バーバラ「ん?なんだい?」
バーバラ「わぁ綺麗な髪飾りだね。いいのかい?」
私「はいっ!私たちこそ何から何までお世話になってしまって、せめてものお礼です」
バーバラさん「綺麗だねー。私の好きな赤だ。付けてもらえるかい?」
私「はいっ!」
私はバーバラさんに髪飾りを付けてあげた。
バーバラ「似合っている?」
私「はい。すっごく!」
バーバラ「本当かい?アタイの宝物にするよ フフッ...」
バーバラ「ありがとう…」
私「バーバラさんは本当にお母さんのようで優しくて」
私( お母さん…)
私( 私のお母さんって…)
私「またあれいいですか?」
バーバラ「私こそ大歓迎さ」
私はバーバラさん抱きしめた。
私「あの...私、本当の名前は朱音って言うんです...」
バーバラ「ステキな名だね。その名前を大切にしなよ…」
私「はい!」
バーバラ「また、この村に寄っておいで」
私「はい!」
バーバラ「ジャックだっけ?…この子を頼んだよ」
ジャック「あぁ。言われなくてもだね」
私「それでは私、行ってきます!」
バーバラ「はぁい。行ってらっしゃい!」
バーバラ「また、帰ってきなよっ」
私「はいっ!」
私たち二人はバーバラさんに手を振りながら見送られた。
そして、商業都市スフィアに向かった。
ジャック「グレーテ…本当の名前は伏せておいた方がいい」
ジャック「どこに魔女の手先がいるかわからないからね」
私「わかった...」
私 (ジャックの言葉に引っかかる。何かを知っているような...)
私 (まぁいっか。それよりもお弁当たのしみだなー。ワクワク)