オズの魔法使い⑬本音
二人を残し、陽葵さんの車の後部座席に乗り入み、その場を離れた。
私( メアリさん…)
私( ネムさん…)
私( どうしてこんなことに…)
陽葵「きっと、あの魔女だろうね」
陽葵「私は東の魔女についてはよく知らない…」
陽葵「私の知っている彼女はドロシーの家に踏み潰されていたから」
陽葵「でも、そう考えるのが筋だと思う」
陽葵「本当、人をおもちゃのように…」
私「どうして…」
私「どうしてっ!私が…」
私「お父さんとお母さんを…」
私「…っうっうっ…」
陽葵「可哀想に…」
陽葵「あんまりだよ…」
陽葵「しゃがんで!」
言われた通り下にしゃがみ込んだ。
陽葵「警察が巡回している…」
窓からパトカーが通り過ぎていくのが見えた。
陽葵「行った…みたいだね…」
陽葵「一旦、人通りの少ないところに止めるから、悪いけどちょっとそのままにしてて…」
車が停止した。
陽葵「出てきていいよ」
私「これすべて現実…なんですよね…」
私「なんだか…よくわからなくて…」
私「怖くて…ただ怖くて…」
私「メアリさんも、私のせいであんなことになって…」
私「私…私…」
私「…っうっう…」
陽葵「アンタのせいじゃないよ…」
陽葵さんはそっと私の頭を撫でてくれた。
私「もう…嫌…」
私「こんな自分が嫌…」
私「もう全部が嫌なの…」
私「もういっそのこと…」
その時、私のカバンの中が突然、青く光り出した。
私「っ…」
カバンの中を確認し、光っているものを取り出した。
それは、お兄ちゃんの『クローバーのお守り』だった。
クローバーの葉は既に色褪せ、散り散りに…
それでも、お守りは優しい光を放っていた。
私「お兄ちゃん…」
私「お兄ちゃんなの…」
私「まだ、私に頑張れって?」
私「それはもう無理…」
私「私頑張ったんだよ…精一杯頑張ったんだから…」
私「でも、もう怖いの…辛いの…」
私「もう嫌なの…」
私「私はこれ以上、他の人に迷惑をかけたくない…」
私「それに、もう私が耐えられないの…」
私「…辛いの…」
私「っうっっ…」
青い光は私の言葉に応えるかのごとく、点滅を繰り返した。
私「っ…」
しかし、その光は次第に弱くなり、最後の力を振り絞るように何度も何度も点滅を繰り返した。
やがて、光は命が消えたかのようにゆっくりと…
私「…お兄ちゃん…」
陽葵「お兄さんにとってあなたは大切な存在なのね…」
陽葵「さっきの光がそう感じさせてくれた…」
陽葵「さっきの光はさ…」
陽葵「なんだか、ただ『諦めないで』とかじゃない…」
陽葵「なんて言ったらいいのかな…」
陽葵「自分は何もしてあげられない。だけど、助けてあげたい…悲しまないで…」
陽葵「ずっと側にいるから…一人じゃないからねって…伝えたいけれど伝えられない…なんだか…そんなもどかしい思いを伝えようとしているように思えたな…」
私「…っ…っう…」
私「お兄ちゃん…」
私「…っうっ…う…」
「トゥルル…」
陽葵「あっ…おばさまからだ」
陽葵「あっご無沙汰しています。空野です」
陽葵「えぇ。そうなんです…」
陽葵「はい。わかりました。彼女に代わりますね…」
陽葵「有栖川のおばさまより」
陽葵さんから携帯を手渡された。
私「っううっ…篠崎です…」
有栖川「篠崎さん。大丈夫?」
私「っううっ…」
有栖川「大丈夫じゃないようね…」
有栖川「まさか、あんなことになるとはね…」
有栖川「…」
有栖川「あなたにどうしてもこれだけは伝えたいと思って電話をかけたの…」
有栖川「それはね。あなたがどんな選択肢を取ろうとも最後の最後まで、あなたのお友達も、あなたのご家族も、そして私たちもあなたの味方だということ…」
有栖川「だから、そんなに思い詰めないでね」
有栖川「責任を感じる必要はないのよ」
有栖川「みんな必ず理解してくれるから…大丈夫」
有栖川「『これ以上、みんなに迷惑をかけられない』なんて思っているかもしれないけれど…」
有栖川「『あなたが本当にどうしたいのか』それが一番大切」
有栖川「正しさよりも清くあれ」
有栖川「私が伝えたかったのはこれだけ」
有栖川「ごめんね。こんな時に」
有栖川「でも、こんな時だから…かな…」
有栖川「ゆっくり考えて…」
有栖川「私にできることならなんでも」
有栖川「じゃあね…」
私「…」
私「あの…」
私「っううっ…」
私「お願いです…」
私「助けて下さい…っううっ…」
私「私…っううっ…私、やっぱり諦められない…」
私「私の大切なみんなと…っううっ…」
私「また、いつか…絶対…幸せに…」
私「っううっ…」
有栖川「わかった」
有栖川「わかったわ…」
有栖川「大丈夫。大丈夫だから…」
有栖川「安心して…ね…」
有栖川「あとは私がなんとかするわ」
有栖川「空野さんに代わってくれる?」
私は陽葵さんに携帯を渡した。
陽葵「ええ。あそこね」
陽葵「わかったわ。おばさま」
陽葵「じゃあ、またあとで電話するわ」
そう言って陽葵さんは通話を切った。
陽葵「アンタは強いね」
陽葵「私は最後までサポートするって決めたからね」
陽葵「これから、おばさまの知人の船乗りに会いに行く」
陽葵「とにかく、ここから出ないと」
こうして、私たちは約束の港へ向かった。