オズの魔法使い⑩魔女の傘
道を引き返し、森を抜けようとしていた。
トトは私たちが付いて来ているのか、たまに後ろを振り返る。
私はふと疑問に思った。
私(みんなドロシーのこと実は知っていたりして…)
私「ねぇ、みんな。ドロシーって人を知っている?」
ヘイリー「もしかしてお尋ね者のドロシー?」
私「詳しく聞かせて」
ヘイリー「えー。知らないの?」
ヘイリー「けっこう、有名だよ」
ヘイリー「それはねぇ…」
ヘイリー「悪名高い魔女さ」
私(ドロシーが?!)
私
私「もっと詳しく聞かせて」
ヘイリー「うん。ドロシーはね。自身の若さを求めていてね」
ヘイリー「幼い少女を襲ってはその心臓を喰らうそうなんだ…」
ヘイリー「怖いよね…」
ヘイリー「ん?というより…」
ヘイリーが私の左耳に近づいてそっと囁いた。
ヘイリー「西の魔女さ。サイファーの娘をさらった…」
私「えっ…」
私「本当に?!」
ヘイリー「うん」
私(いや、そんなはずはない…)
私(私が知っている物語とは、似ても似つかない)
ヘイリー「もうすぐ森を抜けるよ」
私「ようやくね」
すると、ポツポツと雨が降り出した。
ヘイリー「まずいね。雨が降って来たよ」
私はローズさんから借りた傘をさした。
私(よかった。ローズさんから傘を借りていて…)
私「みんな…風邪引くといけないから、よかったら中に入って…」
レオン「うんっ!助かるよ。」
ヘイリー「僕は平気さ」
サイファー「おいっ!お前…」
サイファーは距離を取り、私に対して身構えた。
私「どうしたの?!」
サイファー「なぜお前がそれを持っている…」
私「えっ…」
サイファー「なぜだと聞いているんだっ!」
ヘイリー「おいおい…どうしたんだよ急に…」
サイファー「早く答えろっ!」
私「わかったわかった。話すからっ」
私「これはね。ローズさんって言う人から借りたの…」
私「とっても暑かったから持たせてくれたの…私に…」
サイファー「みんな離れろっ!」
サイファー「こいつは私の娘を襲った魔女…もしくはその手下だっ!」
ヘイリー「えぇ?」
サイファー「よくも…よくも娘を…」
私「ちょっと待ってっ!どういうこと?!」
サイファー「とぼけるなっ!」
サイファー「そうかい。俺らを騙して嘲笑おうとでも思っていたのかっ!」
ヘイリー「ちょっと、待って。落ち着きなよ」
ヘイリー「詳しく聞くからさー」
レオン「そうだよ。マリは魔女なんかじゃないっ!」
サイファー「魔女は人の良心を巧みに利用する」
サイファー「利用して心の中で嘲笑う…」
サイファー「もう騙される訳にはいかないっ!」
サイファー「娘を返せっ!」
サイファーが私に向かって拳を振り落とす。
私「えっ!?」
レオン「ガルゥーッ!」
レオンがサイファーの拳を口で受け止めた。
そして、レオンはそのままの勢いでサイファーを後ろへ押し倒す。
サイファー「ウォーッ!」
レオン「ガルゥーッ!」
レオンは激しく剣幕でサイファーに対して牙を向けた。
レオン「マリはそんなことしないっ!」
レオン「マリに手を出すようなら、オイラは黙っちゃいないっ!」
サイファー「貴様も魔女の見方をするのかっ!」
サイファー「フッ…騙されているとも知らずに…」
レオン「黙れっ!」
レオン「ガルゥーッ!」
ヘイリー「はーい。一旦、アイスブレイクー」
ヘイリー「一旦、二人とも落ち着こうよ」
ヘイリーが睨み合う二人の間に入った。
サイファー「邪魔だっ!どけっ!」
レオン「ガルゥーッ!」
ヘイリー「もー。こわ〜いなぁ〜」
ヘイリー「挟まれる僕はもっと怖い…」
ヘイリー「こんなの僕の性に合わないけど…さっ…」
ヘイリー「ねぇ、さっきから僕…」
ヘイリー「落ち着けっ!」
ヘイリー「って言っているんだよ…」
謎の空気に包まれ、ドス黒い声が響き渡った。
そして、ヘイリーの腕から濃い触手のようなものが現れて、両者の手足を拘束した。
ヘイリー「すまないが、二人が落ち着くまでこの状態にさせてもらう…」
私「あなた一体…」
サイファー「この魔力…間違いない..魔女の手下」
ヘイリー「ご明察…」
ヘイリー「そう私こそが魔女様の眷属…」
ヘイリー「魔女様によって、ただのカカシから命を授かったんだよ」
サイファー「貴様…」
サイファー「貴様ら最初から…」
ヘイリー「フフッ…」
ヘイリー「正確に言うと」
ヘイリー「魔女様の眷属だった…かな…」
ヘイリー「あのねー。キミ…」
ヘイリー「魔女だからといって全員が悪者ってわけじゃないんだよ」
ヘイリー「僕に命を与えてくれたのは心広い北の魔女様さ」
サイファー「魔女はみんな敵だっ!」
ヘイリー「あのねー。いちいち突っかからないでくれるかなぁ…」
ヘイリー「僕まで血の気が昇りそうになったよ…」
ヘイリー「まぁ、僕は人として?いや、ワラ人形として大人だから…さっ…」
ヘイリー「まぁ、そんなことはさておき…」
ヘイリー「サイファー。キミはなぜマリが魔女だと思ったんだい?」
サイファー「それは、その傘だ!」
サイファー「娘を奪った魔女もそのバラの刺繍が入った同じ傘を持っていた」
ヘイリー「ふーん。なるほど」
ヘイリー「だからキミは、マリを魔女かその手下だと思ったんだね」
ヘイリー「じゃあ、逆に聞こう」
ヘイリー「マリ、キミはどうしてその傘を?」
私「これは、ローズさんって人に借りたの」
私「暑いからって持たせてくれた」
ヘイリー「ふーん…」
ヘイリー「その傘見せて」
私はヘイリーに向けて傘を差し出した。
ヘイリー「ふーん…」
ヘイリー「間違いない。魔女の傘だ」
ヘイリー「微量だけど、魔力を感じる」
ヘイリー「強い魔力だ」
ヘイリー「ローズさんって人は知り合い?」
私「いや、私は暑くて汗だくでたまたま、寄った家の人がローズさんで」
ヘイリー「ふーん。要するにあまりよく知らない人に借りたってことだね?」
私「うん」
ヘイリー「ということらしいよ。サイファー」
サイファー「そんなもの信じられるかっ!」
ヘイリー「いや、サイファー」
ヘイリー「僕にはわかるんだよ」
ヘイリー「なんせ、魔女の眷属だったから」
ヘイリー「マリが魔女ではないことを」
ヘイリー「また、魔女の手下でもないことをね」
サイファー「…」
ヘイリー「キミはこれからどうする?」
ヘイリー「僕はこのままずっとキミを縛り上げておきたくはない」
レオン「ヘイリー…僕はもう何もしないから離して…」
ヘイリー「あぁ…ごめんよ」
ヘイリーはレオンの拘束を解いた。
ヘイリー「ここで、キミに提案だ」
ヘイリー「キミは西の魔女を追っている」
ヘイリー「マリはその魔女に会っている」
ヘイリー「ここにはその魔女の手がかりがある」
ヘイリー「もし僕がキミなら、多少の疑念は残るだろうけど付いていくね」
ヘイリー「だって、それが目的への近道なんだから」
ヘイリー「さぁ、どうする?」
サイファー「…」
ヘイリー「ん?!」
サイファー「私を離せ」
ヘイリー「ん?!」
サイファー「だから、私を離せっ!」
ヘイリー「いやいや、キミ、立場をわかっているのかい?」
ヘイリー「キミは拘束されているんだ」
ヘイリー「それに、離せば襲ってくるかもしれない」
サイファー「もう。襲わない。だから離せ」
ヘイリー「ふーん。約束だよ」
ヘイリー「破れば、僕はキミを許さない」
ヘイリー「わかったね?」
サイファー「あぁ」
ヘイリーはサイファーの拘束を解いた。
ヘイリー「僕らに付いていく?」
サイファー「…」
サイファー「あぁ…」
私(驚いた。本当に一瞬のような出来事だった…)
私(今はギクシャクしているけど、仕方ないよね…)
トトはまたも私の後ろに隠れてビクビクしていた。
私はトトに向かってしゃがみ込んだ。
私「怖かったよね…トト…」
私「私も同じ…」
トトを抱き抱え、そっと頭を撫でた。
こうして、色々あったけれど、歩みを進めた。