オズの魔法使い⑥喉乾いたな…
私は日傘を片手にトトを抱き抱えながら一本道を歩いていた。
ようやく向日葵畑を抜けて、草原に出た。
私「トト、ちょっとあの木陰で休憩しよっか…」
トト「ワンっ!」
私「喉渇いたな…」
木を背にして座り込み、そう呟いた。
私「ローズさんに水筒とか聞けば良かった…」
トト「ワンっ!」
私「ねー…」
私「でも、今はそんなこと悩んでいる場合じゃない…」
私「進まないと…」
一本道はまだまだ先に伸びていた。
トトが歩き出した。
私「歩いてくれるの?」
トト「ワンっ!」
私「そう…」
私「じゃあ、行こっか…」
草原を抜けると、またも背の高い緑の植物に道が覆われていた。
私「これなんだろう…」
私「ん?」
緑の植物から黄色いものが剥き出しになっているものが見えた。
私「これって…」
私「とうもろこしっ!」
私「そう!絶対とうもろこしだっ!」
私「わぁ、食べたいなぁ…」
私「喉も乾いたし…」
私(んーでも、ダメだよね…)
私(人が育てたものを勝手に…なんて…)
私「よくない…」
私はぐっと堪えた。
そうすると、畑の方から何かガサガサと物音が聞こえた。
私「何っ!」
すると、黒い帽子を被り、青い服を着きた者が突然現れた。
私「きゃっ!」
私は全力で身構えた。
トトは怯えて私の後ろに隠れた。
改めて見ると、顔は布っぽく、目は丸とバツで刺繍のようであり、口もギザギザと糸で縫い付けられているようだった。
足は一本で、手首はブラブラとしており、力が入っていない様子だった。
?「ごめんよ…」
?「驚かすつもりはなかったんだ…」
?「でも、そんなに怯えなくてもいいだろ…」
私「…」
今起きていることの状況が読み込めなかった。
しばらくの間沈黙が続いた。
私(なんなのよ急にっ!)
私(びっくりしたじゃないっ!)
?「あのー…」
私(この感じ前にも同じことがあったような…)
私(そうだっ!ジャックと出会った時だっ!)
?「あのー…」
私(あの時、本当にびっくりしたんだからっ!)
私(急に飛び出して来るやつは基本ろくなやつじゃないって!)
?「あのー…」
布顔の者はゆらゆらと横に揺れた。
私はその者を睨みつけた。
?「あのですねぇ…」
?「そんなに警戒しないで頂きたくて…」
私はずっと睨みつけた。
?「んー…」
?「どうしよかな…」
?「困ったな…」
私(敵意はないみたいだけど…)
私(でも、急に現れるなんてイラッときた…)
?「そうだぁー!こういう時の自己紹介だねぇー」
?「僕は、カカシのヘイリー…」
カカシのヘイリーは胸を広げるように、上半身を後ろにそり返した。
私「びっくりしたじゃないっ!」
ヘイリー「だからさ、最初にごめんって謝ったじゃないか」
トト「ワンっ!」
トトは警戒するかのようにヘイリーに向かって吠えた。
私(トト…それ今じゃないよ…)
トトは私の方を向いて『守ってやるからな!』と言わんばかりに誇らしげな顔をした。
私(ねぇ…あなた真っ先に私の後ろに隠れたよね…)
トト「ワンっ!」
私(情けない…)
私「それで、あなた何の用?」
ヘイリー「僕はね。この先にあるエメラルドに行きたいんだ!」
ヘイリー「ずっと誰かこの道を通らないかを見ていたんだ」
ヘイリー「そうしたらキミがいた」
ヘイリー「キミっ!エメラルドに行くんだろ?」
私(あー。こいつ絵本に出てくる脳無しのカカシだ)
私「いいえ。違います」
私「私、先を急いでいるので失礼します」
ヘイリー「そうなのかい。もし、そうなら一緒に行こうと思っていたんだけれど…」
私(ドロシーと一緒に行くのがストーリーなはず…)
私(勝手に連れて行かない方が良いと思う…)
私(それにこの人ジャックに似ててデリカシーなさそうだし…面倒くさそうだし…)
私(一緒に行かない理由はほぼそれと言っても過言ではない…)
ヘイリー「因みになんだけど、この先にある場所ってエメラルドしかないと思うんだけど…」
ドキッとした。
私(疑われてる…)
私「あはは…トトー…行くよー…」
ヘイリー「もし、途中まで付いて行っても良いって言うなら僕の畑のとうもろこし…」
ヘイリー「あげてもいいなって思ったのに…」
ヘイリー「瑞々しくてとっても美味しいんだよねー…」
私は気がつくと、とうもろこしをほおばって食べていた。
私「美味しいーっ!」