社会人、単独で向かう
関所のあたりで別れ、その足のままギルドへと向かう。
人多いな……。
俺が起きてから割と時間が立っているはずだから今は時間にすると18時くらいか。
移動だけで3時間、体力のない前の世界の俺ならぐっすり8時間睡眠コースなのだが何故かほとんど疲れは無かった。
スキルの影響なのだろうか。マナとやらがエネルギーも元素も何もかも担っているみたいだ。非科学的どころの騒ぎじゃねぇな。
「こちらが会員証となります」
ホヅキから聞いたギルド窓口の一つに向かい、言われたことを淡々とこなす。
氏名を記入し写真を撮ると者の数分で免許証サイズの簡易的な証明書が発行される。
「狩猟などで街の外へ出て頂く場合はこちらを提示してください」
ん?
「外に出られるんですか?」
この都市は壁に囲まれているはず。こんなに広いのなら魔物が湧く森や渓谷、もしかしたらダンジョンなんかが有ってもおかしくないと考えていたのだが。
「はい……もしかして転移されてすぐの方ですか?」
首肯すると、少し瞼のさがった受付は堪えながら説明をする。
「前の世界と違うのは、この世界に夜はありません」
驚いたのは一瞬だけだった。
まぁ、そりゃそうか。地動説にしろ天動説にしろ、構造的に太陽となる頭上からの光は動かない。
「ただし、活動の時間というのはなんとなくの共通認識として決められています。道具やで買う時計の右半分が活動時間、と覚えていれば大丈夫だと」
親切だな。
まぁ、新しく来る人はそんなに珍しくないからか。
「なので、パーティの希望者は次の活動時間にならないと来ないと思います。できれば一度待ってから行ったほうがいいかと」
役割を分けて狩りをする集団、パーティ。
できれば集団で行きたいのだが……。
それに習ったことを試してみたくもある。事故になりかねないから、と1度マナを飛ばした後は練習させてもらえなかった。
ソロで向かうのはちょっと……というような気もするがまぁ、自分の戦い方の慣れは必要だろう。あの規模の攻撃が当たればひとたまりもないだろうし。
「クエストは掲示されているものを取っていく仕組みになっています。それでは」
そう言って奥に消えていってしまった。
見れば忙しく人が動いている。退勤時間だったのか。
とどめてしまっていたのか、悪い事したな。
話を聞きに来ただけだったんだが、そんなに手続きも要らなかった。
席を立ち、ポケットの硬貨を握りしめる。
「ゴブリン、ナーガ、ゴーレム、ウルフ……」
研ぎの甘い短刀を安価で購入し、ついでに盾やポーションなど、目についた物を買い込んできた。
全体で銀貨二枚といったところか。まぁ初期費用としてはこんなものなのだろう。
ただ、興味深いのはこれ、モンスター図鑑だ。
「本当にこんなのが居るとはなぁ」
俺も小学生の頃は恐竜図鑑に熱中したものだ。いつまでも男はこういうのが好き。
掲示板に有った手頃なものを引っ張ってくる。
『黒狼の討伐』
難易度は星で表されているらしいが1個半……初心者向けか。
「これでいいか」
ブチッと取って買ってきたカバンに入れておく。
門のある方向へと歩くと、行き交う人々はほとんど反対方向に歩いていることに気づく。
「時間で言うと夕方くらいなのかな」
みんな帰ってる。残業とかもない感じか?
「でも営業はしてるな」
……あぁ。
「なるほど。」
大学生時代のバイトを思い出す。夜勤は給料が高い。それは生活リズムが崩れたり、朝の準備をしたりしなきゃいけなかったわけで、端的に言えば昼勤とは業務自体が面倒だという認識があるから。
だがこの世界ではその常識が通用しない。片方の時間帯に人が集中しすぎること無く社会は回っていく。
「うまいこと出来てんなぁ」
感心しながらも壁の外へと出るための関所に足を踏み入れた。
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所持スキル
<スキル 稀代の魔術師>
・このスキルを所有する者のマナは1万倍に膨れ上がる。
・このスキルを所有する者のマナの消費量は一万分の一に抑えられる。
・このスキルを所持するものは、千年後魔族となる。
所持魔法
なし