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異世界人だらけの新生活  作者: 戸塚静香
6/9

社会人、ナイフ一つで生き抜くことを誓う。

集会を行っていた教会を出ると、そのまま直進し、郊外の森に入る。

鬱蒼と茂る中を一時間近く、相当歩いた気がしたが、まだまだ森は続いているみたいだった。

「よし、ここまでくればいいだろ」

大きめの石に腰を下ろし、ホヅキは達成感のあるような顔をする。


「ここも人類の領地なんですか?」

「そりゃリヴァリードの内でもこのノーズリー区は半径にして50キロ。それでも小さい方で周りにある他の区域を合わせるとリヴァリードと呼ばれる都市の半径は200キロ近くあるのかな」


唖然とする。一介の都市にしてはでかすぎる。


「……それもう殆ど国なのでは?」

「もう一つ上があるから都市なんだ。年一だがちゃんと税金なんかもあるぞ」


どうもガチガチの中央集権国家というわけでもなさそう。


「地方分権にしてはあんまりですね」

「まぁ、人口にすれば現地人のほうが多いし、争いのもととなるものはほとんど無いからそれで成り立ってるんだ。異世界人は数百の世界から均等に呼び出されている。」


現地人、か。

どれがどれだか正直わからない。

しかし、元の世界の歴史をたどれば、むしろ争いの理由となる何かではなく、異なる集団が居ると発生するようにも思える。


「住処、領土とかでも争いは有るでしょう」

「うーん、別の話をするか。」


ホヅキは指で形をなぞりながら説明を始める。


「この世界で人類の都市は城郭都市が基本だ。そんな窮屈さなんて全く感じないけどな」


農耕文化の発展とともに世界中で見られるようになった都市形態だ。高い壁が特徴で、中央には政治を司る省庁や牛耳る一族の邸宅などがおかれた。特徴としては螺旋を描くように拡大していくところ。防衛がしやすかったり、死角がなかったりとメリットは様々あるらしく、元の世界では侵略戦争が一般的になっていくにつれて増えた形態のようだ。

日本では平安京などに見られた碁盤の目の都市形態があるが、世界的には珍しい。

そもそもあれは中国の西安にあった都市の形を模倣しただけ。特にこれと言った目的が有ったかと言われると怪しいらしい。


「魔王軍の侵略、と共に発展していったんですかね?」

「いいや、むしろ停滞してる」


大仰にため息を吐く。


「人類のこういった都市は数百年前の年度末調整組のスキルで作り上げた形が今も残っているだけなんだ。だから拡大こそしないが縮小は出来ない。この森もその影響で間埋めに植えられたものだ」


確かに、言われてみれば起伏が激しかったりしているように見える。それにほとんど残骸だが明らかな人工物も見える。

「土地は余ってるんだ。異世界人は定数しか来ないし、増えるとしたら現地人だが。彼らはな。」


言葉に詰まる。何から説明すべきか迷っているような素振りだった。


「ここも、不要な土地だと?」

「あぁ森林になって外側から埋められていく」

「植物の成長が早いといいですねぇ」


砂漠化なんかも直ぐに解決しそうだ。


「ま、おかげで良いサンドバックになる」


随分物騒なことを言うなと思ったが、良く考えればここには戦闘の指南を受けに来たんだった。

結局諦めてしまったようでホヅキは説明を始めた。


「戦闘の基本は魔力を込めること。あとは適当だ」


指南とか言うから体術の話なんかが来ると思ったが、どうもそんなことはないらしい。


「その感覚を教えよう」


えぇー? 教えれるの?


「これでも軍部の教育係も兼任してるからな」


聞きたいことを先に話してくれるからありがたいぜ。


こちらを数秒凝視する不思議な時間がややあって、ホヅキは構える。

「やってみようか。じゃ、あの木を目標に」


腕を上げて踏ん張る。


「体はこの世界の仕様に変わっているからな。力を込め、筋肉を張っていくとその先がある」


足が微かに青く光る。


「体のマナを変換する。出力を固定し、時間を調整して」

そう言うとホヅキは、跳ねた。

ズドン、と鈍い音が響いて、土をこぼしながら根から倒れる。

元の世界ではまず人で見ることのない速度。


「とまぁ、こんな感じかな」

「おー」


思わず拍手してしまった。


「だけど、体術なんてあんまり使うことはない。」


なんの時間だったんだ?これは。

何故かホヅキは責め立てるように矢継ぎ早に話す。


「自分の体を保護しなきゃいけないからな。コスパが悪い。速度は出るが、ほとんど見せかけの戦闘法だよ。」

しかし、戦闘といえば体術が基本だ。練習しておくことに越したことはないかな。


「だが、大事なのはこの力の応用だ。物に自分のマナを込める」


そう言うとホヅキは手元のあった木製のナイフを手に取る。

やがて青白く光りだした。


「マナは意識させれば触れたところから流出していく。物質にはマナの許容量があってな。閾値、その許容量を満たすと様々なメリットが有る。わかりやすいところだと軽くなる」

「全く原理がわからない……」

「そういうものだと思ってくれ」


歯が潰された、というか元々研がれていない訓練用の短刀。鈍らというか金属ですらないそれは、あまりに戦闘用に向いていないように思える。

ホヅキは軽く笑うと、そのナイフを一閃。


「一応切れ味も鋭くなっているはずだが、わかんないだろ。劇的な変化はないしな」

近くの枝を切ってみせた。


何でこれで斬れるんだ……?

落ちた枝のきれいな断面図を見ていると。

「ただ、君のスキルに迎合する戦いかたといえば」


言葉を区切るとそのナイフの光は増していく。やがて薄い膜を張ったような濁りが表面に現れた。

それを振りかぶると、その軌跡の形をした濁りが飛ぶ。

当たった木は光の飛沫を上げ、その表面に切り傷を残した。


「許容量を超えるマナを込め、斬撃を飛ばす。君のスキルにはピッタリの戦闘法だろ?」

「すげぇ……」


何がなんだか一切分かんねぇ……


「これもコスパが悪いだけの見せかけ戦闘に使われるんだけどな。マナがあまりに余っているお前ならなんてことはないだろ」


ひどい言われようだが、たしかにそうかも知れない。

ただでさえ常識が不足している中、近接戦闘をしなくていいと言うのはたしかにいいのかもしれない。


「ほら、やってみるか?」


渡されたそれに軽く力を込めると、なるほど、確かに軽くなった。みるみるうちに光が満ちていく。

短刀は5センチばかりの膜に覆われる。

振りかぶって、袈裟斬りをするようなフォームで振りかぶる。

当然、すっぽ抜けてしまわないよう、振りかぶる際は強く握ってしまうわけで。

光は、俺の体の全てを覆い尽くしていた。

眼の前が白んでいき、思わず目を閉じる。

何故か、手の感覚だけを残して、短刀の重さは無くなった。

あ、そうか。マナを込めすぎると軽くなるんだったな。

勢いがつきすぎる。


キンッ


何かが切れる、甲高い音だけが聞こえる。

よろけて倒れないよう自然と目を開けると。

眼の前にあった森林は、その根元と梢だけを残して、消えていた。

残るのは開けた景色。

空中のマナのお陰である程度まで行くと何も見えなくなってしまうらしいが。

若干霞む程度になってしまった。

ボトボトと落ちる気の残骸達。

だが、地面はほとんどなんとも無いらしかった。


「…………………………想像以上だな」


唖然とするホヅキは、半笑いでそういった。


「森林地帯の、それも一部で良かったよ。都市の外壁には届かないくらいか」

「ど、どうしましょう」

「そうだな。まぁ、色々とやりようはあるとおもうけど」


ホヅキ少しだけ考える素振りを見せ、俺の目を見ると、


「振りかぶるの禁止」

「はい……」


うなだれるしか無かった。



***********************************

所持スキル

<スキル 稀代の魔術師>

・このスキルを所有する者のマナは1万倍に膨れ上がる。

・このスキルを所有する者のマナの消費量は一万分の一に抑えられる。

・このスキルを所持するものは、千年後魔族となる。


所持魔法

なし

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