社会人、なんとなく不穏な空気を感じ取る
「魔法は消失したんじゃ?」
エリスからはそう聞いている。
それに、おそらく使われるのはマナとか言う要素なのだろう。
「魔王軍と戦う者以外にはそう伝えられているな。だが、魔法というものの性質上はそもそも消失することがないんだ」
「性質?」
エルフは疑問の声を上げる。
腕を組みながら獣人族はうなりながら、ひねり出す。
「あれだろ、火を起こしたりとか水を出したり。あとは物を飛ばす魔法なんてものもあるんだろ」
しかし、この世界ではポピュラーでないのか少し間が開いてホヅキは尋ねる。
「探せばあるだろうが、どこの知識だ?」
「元の世界で流行ってた」
種族が違う、とは言え見た目はほどんど人間だ。
「どこの世界もそういうの流行るんだな」
俺達の雑談を一応待ってホヅキは話を続ける。
「魔法の所有者を殺すとその魔法は加害者へと移る。故になくなることはないんだ。」
「でも、そうなると」
「ああ、戦争は終わらない。始まる前は何をやっていたのか疑問なくらいだ。」
領土や資源の取り合いでなく、魔法の取り合いか。
「食料とかはどうしてるんですか?」
挙手して聞いてみる。何かと争っているんなら、食料というのは重要なファクターとなる。元の世界では第一次世界大戦中にはドイツがハーバー・ボッシュ法によるアンモニアの製造が可能にした。その結果人口増加に耐えうる食料の余裕ができ、結果としてドイツは第一次世界大戦の勝者になった。
あれはその延長線上に爆薬の原料となる硝酸の製造も容易にできるようになったからでもあるのだが、人口が戦争においては争いの基盤となることは言うまでもない。
「大気中に浮遊するマナを吸収させることで製造可能だ。有り体に言えば、種を放り投げれば一日も経たず果実が収穫できる」
「にわかには信じがたいですね……」
食料には困っていない、と。
随分と裕福な暮らしができるみたいだ。となれば争う理由はその魔法に関する理由があるのか?
ホヅキは「話を戻すぞ」と一泊おいて、
「魔法は所有者を殺すことでしか奪えない。そうなると自然、魔法を所持している武勲者は魔族からも集中的に狙われる様になる。故にそいつらに少しばかりの権力を与える必要があった、それが英雄だ」
ということはホヅキも魔法を所有しているのか。それも大英雄と言われるくらいには。
「ホヅキはどのくらい持ってるんだ?」
獣人族は臆すること無く聞く。
手の内を明かすようなものだ。別に教えてくれなくてもすねたりはしないだろう。
しかし、余裕があるのかホヅキは二つ返事で許可した。
「十三、使えるのは限られてるがな」
しかし有用性がある魔法というだけでワクワクするものだ。気まぐれでくれたりしないかな。
「魔王は存在する殆どの魔法を持っているとされている。その余裕からか、ここ数百年は人類への侵攻もされていない」
徐々に徐々に削ればそれでいいと言うことか。
どうも俺達は間違いで送り込まれたというわけでもなさそうだ。
「まぁ、そうだな。お前らは基本的に、対魔族戦線で従事してもらうことになる」
「結局どこの世界もそんなもんなんだな」
獣人族は厭世的にそういった。
俺達は知りもしない世界の面識もない住民のために戦うことになるのか。
「いや、お前らは恵まれたほうだよ。世界の均衡を保つため、住民の移動というのは一年中行われている。しかし年度初めに送られてきた、お前ら年度末調整組には特別な『ギフト』が送られている」
おっ、聞きたかったことばだ。
「というのは?」
「これも不思議な話なんだけれどな。お前たちにはスキルが与えられる」
「魔法と違いがあるんですか?」
「殆どないな。ただ、スキルというのは奪うことが出来ない。お前だけの能力だ」
なるほど、それはありがたい。
ワクワクしてきたな。
ホヅキは獣人族に近づくと、その手を取り、五芒星のような印を結ぶ。
「なんですか、それ」
「スキルの発印だ」
説明がない。全くわからないが、とりあえず能力を引き出すなにかなんだということはかろうじて分かる。
「ほう」
獣人族の男性は感嘆の声を漏らす。
ホヅキはこちら側の三人に目を向けて、
「スキルの詳細は発印と同時に脳内に流れ込む。できるだけ協力してほしいが、自分の中にとどめたいと思うならそれでいい」
エルフ、緑髪の亜人族と動揺の作業を行い、ついに俺のところまで来た。
「お、お手柔らかに」
「そんな大事でもないさ」
ホヅキはそう言って、手を取る。
「……なるほどな」
感嘆の声を漏らしたのはホヅキの方だった。
知識が流れ込むという経験をしたのは始めてだった。
新しく知る、というよりは元々知っていたはずのものを思い出したかのような感覚だった。
驚嘆などはない。
「どうしたんです?」
「長い付き合いになりそうだ、と思ってな」
自らの記憶を思い出す。脳では勉強したものが記憶される領域と、日々の出来事が記憶される領域は待ったく別の部分が担っているのだという。前者はそうそう忘れないが、後者はすぐに忘れてしまう脳の機能としてそう出来ているらしい。
おそらく流れ込んだものは前者のほうだった。
流れ込んだ言葉達はスキル名と3つの文章で構成されている。
<スキル 稀代の魔術師>
・このスキルを所有する者のマナは1万倍に膨れ上がる。
・このスキルを所有する者のマナの消費量は一万分の一に抑えられる。
よく知らないマナというものに対して随分と有用性がありそうだった。
マナを消費して生きている、とかなんか言ってたよな。
あれまさか、単純計算で寿命が一億倍になったってことか?
しかし、最も目を引いたのは次の一文だった。
・このスキルを所持するものは、千年後魔族となる。
ただただ不穏な文章。
朝寝ぼけていて聞いてなかった話を昼思い出して考え直すように、自らの境遇について考える。
そもそも千年ってどれくらいだ? 全く実感が湧いてないぞ。いまだ夢の延長線上だと思っているフシがあった。俺は未だ布団の中から抜け出せていないようなものだ。
一方エルフはそんなに深刻でも無いようで静かになっていた空間を自分のための時間かのように質問する。
「ホヅキ、重要なことを聞き忘れてたわ。魔王とやらはどこに居るの?」
「この世界の構成についてはみんな聞いているみたいだが、一応のため説明しておくぞ」
「この世界では我々の頭上に見える恒星を中心に、球状に大地が存在している。万有引力は存在せず、恒星を中心とした遠心力のような力が重力のような働きをする」
「万有引力? 重力? 何の話だ?」
どうもエルフには何もわかっていないらしい。
俺のための説明か。ありがたいことだ。
ホヅキは人差し指を立てる。
「そして、魔王城は我々の居る場所から恒星を挟んで反対側。つまり最果ての地に存在する」