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異世界人だらけの新生活  作者: 戸塚静香
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社会人、同僚に出会う

役所を出ると、青い空に太陽らしき光源が頭上にあった。

柔らかな日差し、昨日まで出ていた外の空気と殆ど変わらない。

行き交う人々は、多種多様。エルフ、リザードマン、ドワーフ、それとかろうじて単眼族が分かるくらいで、あとは種類のわからない亜人族。

まさに西洋ファンタジーというような空気を感じる。

裏路地のような道をエリスは進む。戸惑ってもいられないので、ビビりながらもついていくことにする。


「元の世界と変わらないでしょう? 空間に存在する微小のマナは光を通しません。この区域に存在するマナは、リヴァリード中央の魔法省が所有する防護結界の影響で青くなっています。別の都市に行けば赤い空や緑の空が見えますよ。」


説明を聞いても何一つわからなかったので、とりあえず頷いていた。

とりあえず同意しておけばなんとかなるというのが社会人の基本だ。多分違う。


「ところでなんですが」

「はい?」

「魔法とかって使えるんですか?」


流石に夢見ていてもいいだろう。昨日友人に厨二病を諭した人間とは思えない身代わりの速さ。

まあいいだろ、時と場合だ。


「原理的に使えないこともないんですけれど、リヴァリード内では法律で禁じられてます」

「えー」


思わず子供みたいな感想出ちゃった。


「人類史の勉強をしたら分かるんですが、色々ありまして。付随する魔法の発展の歴史とは戦争の歴史でしかないので……」

「どこの世界も変わんないんですね」

「まぁ、種族は違えど、人であることに変わりはありません」


思った以上に元の世界と変わらなそうだ。

未だ実感が湧いていない、というのもあるのだけどさて俺は


「結論だけで申し訳ないですが、現代に残っているのは都市が所有するマナ結晶を利用した大規模魔法しか残っていないとされています。民間魔法は、消失されたとされていますね」


その魔法を抑止力として使っているのだろう。

しかし、城塞都市と言う割に壁が見えない。どうなってんだ?

次の質問を投げようとしたが、どうやら到着したみたいだ。


協会のような建物。調度品のような門の扉を開くと、そこにはシスター服に身を包んだ男性が立っていた。こちらを見ると、不信感の一切ない柔らかな笑みを浮かべながらこちらへ呼びかける。


「こんにちは。啓介くんだね」


名前は教えているはずがない。そもそも伝えたのはエリスだけ。こそこそと聞いていたとも考えづらい。それよりも、声の感じがどこか聞き覚えがある。

多分この人、日本人だ。


「あっ、今年はホヅキなんですね。良かったですねケイスケ! 我らが大英雄が担当してくれるとなれば怖いものなしです!」


満面の笑みで肩を叩いてくれる。えっ、好き。

しかし、すごく親近感がわいていた年上のお姉さんはその手を離して遠ざかっていく。


「それでは、引き継ぎます。よろしくお願いしますね。ケンジ・ホヅキ」

えっ? い、嫌だ。得体のしれない知らんおっさんは嫌だぁ!


「ちゃんと失礼だな君……」


困惑するような声でそのおっさんは近づいてきて、手を差し伸べてくる。


「改めてよろしく。今年度の年末調整組の教育担当を仰せつかる、ケンジ・ホヅキだ」

英雄……とか言っていたか? とりあえず同じく手を出して握手のような形態になる。

「あぁ、そこまでは聞いてるのか。それならまとめて説明したほうがいいだろう。こっちだ」

そう言うとホヅキは地下を降りていく。


肌に張り付く湿気、壁にかかったロウソクに灯された火は煌々と輝きを放つ。


「大変だったろ。あっちはちょうど四月だろうしな」

「ええ、明日入社式だったんですけど」

「そりゃ良かったな。入社式のあとの飲み会なんか地獄だったぞ。俺は多分二度と行きたくない」


あ、良かった。話の分かるおっさんだ。


「……」


ん、何で急に黙ったんだ?


「もしかして君めちゃくちゃ勘悪い?」


不思議な質問だ。行間が読めないのか、単純に気になるのか。


「いやいや、これでも昔は勘の良さで飯食ってたんで」

「……その時学生だろ」


徐々に機嫌が悪くなっている気がしたので俺は口を噤むことにした。

そのまま歩いていくと広場のような地下室へとたどり着いた。

地下室の中央には円卓。その周りには総勢三人の人類だった。


「おそーい。なにしてんの、大英雄が遅刻?」


ブロンドの髪、尖った耳。随分と背丈が大きい。エルフなんだろう。

食人を生業とする、とまではいかないが気を抜いたら脳みそを吸い取られるらしい。

そんな聞いておいてよかったけれど聞かないほうが良かった情報のせいで体が固くなる。


「おい、英雄にも色々あんだろ。デリカシーってもんがねぇのか?」


荒々しい口調でまくしたてるのは獣人族の男性だった。

創作では獣人族にも色々あるが、彼はほとんど人間に近い、皮膚に獣毛が生えたタイプのようだ。

犬歯も鋭かったりするんだろうか。後で見せてもらおう。


「は?……あっ、ゴメンなジジイ」

何故か謝られると、目に見えてホヅキは落胆している。

「おっさんすら通り超えた……」


おっさんであることを気にしてるんだろうか。年には抗えないぞジジイ。

そんな口には出さない暴言を心の内で吐いていると、種族がわからない彼女は俺の方を指さした。


「みんなー、後ろ見なよ。」


緑髪の人間、に見えるが亜人族なんだろうな。聞いているこちらが眠たくなるような声だった。

と言うか円卓に寝そべりながらこちらを見ている。


「新入りか」

獣人族は少し嬉しそうだ。

エルフは腕を組みながら椅子にもたれかかり、ふんぞり返ってこう言った。


「遅刻とはいい度胸じゃないの。先輩待たせるなんて」


先輩、か? 今年度の年度末調整組が集められてるって言ってたよな。どっちかといえば同僚だろ。

そんなことを思っていると獣人族の男性が口を挟む。


「同僚だろバカ」

「違いますー! じゃあお前、全人類の上下関係ある双子に一言言ってこいや!」


双子なんだ。上下関係、あるんだ。


「仲良いねみんな……」

深刻さはなさそうだが、どうもあとから来た俺としては気まずい事この上ない。


俺も空いている円卓の席に座る。

ホヅキはまだ言い争っているエルフと獣人族に対し呼びかける。


「説明始めていい?」

「あっ、どうぞどうぞ」


円卓に両手をつき、身を乗り出すようにして立つとホヅキは自己紹介を始めた。


「本年度の教育担当になったケンジ・ホヅキだ。よろしく」

「よっ、大英雄!」


隣のエルフは勢いだけの合いの手をいれる。


「なんなのそれ?」


俺が聞くとエルフは首を傾げた。


「んー? しらん。なんか役所の人がそう読んでたから」

思ったより雑だった。

もういなすことを諦めたのか、普通にホヅキは進める。


「我ら人類は、数万年前から魔王軍との交戦状態にある。我らの目標は大戦時に奪われた魔法を奪還することだ」

この場に集められた理由の説明は始まった。



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