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異世界人だらけの新生活  作者: 戸塚静香
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社会人、理屈でどうもならないことを知る。

 よく考えてみれば異世界転移って現実的ではない。

 窓から朝日が差し込む役所の中、ソファに並んで座り話しかける。


「色々聞いてみても?」


 遠目に見えるエルフらしき女性や、ドワーフらしき男性を一旦除外して今俺が陥っている状況について考え、すり合わせていこう。


「ええ、構いませんよ」


 これでも理系だ。この世には質量とエネルギーの等価性というものがある。エネルギーは質量と光速の二乗の積で表される。よく言うアインシュタインの原理ってやつだ。これが量子力学のシュレディンガー方程式やハイゼンベルクの運動方程式がどうのこうのすると、また話は変わる。めんどくさい色々を全て取り除くと、一晩の内に俺の寝床からこんな違う世界にまで飛ばされたというのは無理がある。


「――と思うんですが」

「あ、違いますね」


 メチャクチャ簡単に否定された。悲しい。

 俺の二二年間はなんだったんだろうと悲観にくれていると、女性の説明が入る。


「そもそもこの世界はあなた方の世界と物理法則を始めとする様々な常識が通用しません。そもそも宇宙が存在していないので」

「え……? じゃあ、あの陽の光は?」

「イメージしづらいかもしれませんが、太陽の周りを取り囲むように大地がある、とでも考えてもらえれば」


 物理法則どころの話じゃなかった。

 混乱している俺に追い打ちを掛けるように女性は話を続ける。


「この世界の基盤をなすのはマナ、数千の属性が織りなすエネルギーがブレンドされて様々な効用をなしています。身近なところを説明すると、この世界の生物は呼吸を必要としません」


 確かに言われてみれば呼吸してない。


「自動的に体の仕組みがこっちの世界にローカライズされているみたいですね。まぁ、あなたがたの世界で言うところの元素記号が数千個に増えたようなものですよ」


 なるほど、若干イメージが湧いた。元の世界が原理原則を忠実に調べ活用する西洋医学が中心である一方、この世界は元々効用がある物をそのまま運用する東洋医学的に運用しているわけか。

 ……というか


「元の世界の情報もあるんですか?」

「私個人もあなたと同じ世界の年度末調整組なので。だからあなたの担当になってるんですよ」


 一気に親近感が湧いた。

 まぁ、年度末ってことは一年に一度起こっているのだから居るのも当たり前か。


「私はもうこっちのほうが長いですけどね」


 そういう彼女の外見はぱっと見、二〇代後半のように見える。

 やはり戻るというのは難しそうだ。


「まあ大体のルールは元の世界と変わりませんよ。私は一ヶ月もすれば慣れてました」


 そういうものか。人間の適応力というのは怖いものだ。


「同じようなタイミングで転移してきた人というのは居るんですか?」

「あなたの担当、というのも主に彼らへの対応の注意喚起が目的なんです」

「文化の違いとか……?」

「いえ、気を抜いていると捕食されるんです」

 思った以上に死活問題だった。


「体がこっちの世界にローカライズされている、という話はさっきしましたね? しかし、元来の身体能力であったり特徴であったりはそのままなんです。転移されてくる種族の一つ、私達はエルフと呼んでいるんですが、彼らの主食が、まぁその人の脳みそと類似しているらしく」


 一気にホラー映画の世界へ迷い込んだ。そいつらしき人ならさっき見かけたぞ……?。


「えっ、人間と彼らの戦争が起こったりとかは……?」

「いえ、こっちの世界にも似たような食材は存在しているので、相当な空腹状態でなければ大丈夫なんです。」


 つまり相当な空腹状態であれば捕食される可能性があるということか。


「それと理屈でどうこうできない種族間の筋力差があるみたいなので、多分大丈夫だとは思うんですけど、まぁ彼らも私達と同様に食欲というのはあるみたいなので……」


「あ、ありがとうございます」

 文脈に沿わない感謝の言葉を述べずにはいられなかった。

「こちらの区役所にそういう窓口があるので。もしもの際は」

 女性はすごく気まずそうに言う。そういう場合もあるんだ……。


「じゃ、まぁ今年の年度末調整組と顔合わせに行きましょうか」

 女性は立ち上がる。

「あ、自己紹介しておきましょうか。エリス・リンガードと申します」

「直谷圭介です。あっ、ケイスケ・スグタニ? まぁどっちでもいいです」


 今の話を聞いて会いに行きたいと思うやつはいないだろう。俺がそうだ。

「なんとか関わらずに行きていけませんか……?」

「そういうわけにもいかないんです。仕事をする際に、どのみち関わるので、」

 重い腰を、上げたくない腰をゆっくり上げた。

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