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損な人(千文字作文)

作者: 下菊みこと

彼女はいつだって、損な人だった。


周りの人々のために祈り続け、そのたびに自分の魂を削る。


聖女、なんてものはなんの犠牲もなく成り立つものではない。


奇跡を起こすたび、魂を削られる。


対価を天に支払っている。


それは誰もが知っていて、けれど誰も彼女を止めない。


削られた分の魂を蘇らせるならば、それだけの幸せを養分として与える必要がある。


けれど教会は、彼女に幸せを与えない。


自由を与えない。


彼女の魂が完全に無くなるまで使い潰す気でいる。


そして彼女はそれを受け入れている。


だから、こうする他になかったのだ。

















「騎士様、ここは?」


「楽園ですよ、聖女様」


遅い時間にお目覚めになった聖女様。


しん…と静まり返った教会に違和感を感じているらしい。


けれど、魂があと一欠片ほどしかない彼女は…もう目すら見えなくなっている。


血みどろの教会も、放置された肉塊も見えていない。


…教会の外に広がる地獄も、知ることができない。


幸か不幸か、この島国は非常に狭い。


そして鎖国しているので、外国に状況を知られることもない。


二人だけの楽園だ。


削られた分の魂を蘇らせて、目が見えるようになる頃には肉塊も土に還っている頃だろう。


壁や床の血は、まあおいおい考えるとして。


虫が湧くのは不快だが、聖女様のいる部屋には入ってこられない。


結界があるから。


だから、バレることはまずないのだ。


「楽園…では、私はもう力を使い果したのね」


「はい…」


「でも、どうして騎士様が一緒にいるの?」


「…覚えていらっしゃらないでしょうか。運命を共にしたからですよ」


「え」


優しい聖女様は、俺の嘘に青ざめる。


そんな聖女様を抱きしめる。


「騎士様?」


「俺がそばに居ます。だから、どうかここで共に生きて欲しいのです」


聖女様はその言葉を聞いて、やや間を置いてから優しく微笑んでくださった。


「私の騎士様、どうか最期の日まで一緒に生きてくださいな」


「もちろんです、地獄の底までお伴します」


聖女様にはバレることはないと思う。


思うが、バレた上でこの言葉をくださったならどれだけ幸せだろうか。


聖女様は、ただ優しく微笑むばかりだった。

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