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俺達は乾から衝撃的な状況を伝えられた…そして最後の希望の『行李』がもう…。




「真鈴、皆そこにいるか?」

「恭介、いるよ。

 皆聞いているよ。」

「そうか…。」


暫くゼイゼイと乾の乱れた息が聞こえた。


「恭介!

 あなた大丈夫なの!

 息が乱れているよ!」

「真鈴、大丈夫だ。

 数百年振りに左腕を斬り落とされてな…落ちた左腕を探して…やっと完全にくっつきそうだ…。

 俺の霞姫…あの日本刀も折れちまった…お気に入りだったけどな…。」


俺たち全員が息を飲んだ。

あの乾が左腕を斬り落とされるなんて…余程に激しい戦いをしたのか…。


「ともかく、藤岡の組織は全滅させたと思う。

 少なくとも藤岡は俺が始末したぞ…。」

「え…。」

「藤岡の組織と岩井テレサと対立する組織の戦いに介入したんだ。

 う~、一度にこれだけ殺したのは初めてかも知れないな…ヒューマンもアナザーも…かなり掃除したぜ…俺達もかなりの人数が減ったが…『清算の日』に立ち会う者がかなり減ったぜ。

 悪いな…。」


言葉が途切れ、乾のゼイゼイ言う声が聞こえた。

藤岡の組織と岩井テレサと対立する組織…いったいどれほどの者が死んだ、いや、殺されたのだろうか…。


「乾、その戦いはどこで…。」

「景行、場所は言えない…その内にニュースで出るかも知れんが…マスコミも…隠すかもな…それよりもお前達に伝えたい事があってな…。

 岩井テレサと対立する組織はまだまだ残党がいるぞ…。

 そして、かなりのヒューマンを取り込んでな…奴らは大胆な行動に出て…お前らは富士の樹海で創始者と名乗る連中と戦っただろう?」


去年の夏に俺達と他の同盟チームそして岩井テレサ直属の騎兵隊と共同作戦で富士樹海地下の創始者と名乗る一団と大戦闘をした事があった。

乾はそれも知っていたのか…。


「あの創始者の手法を使って、かなりのヒューマンを洗脳しているぞ。

 対立する組織はもう、アナザーである事を隠さないでな、実は俺達は正義のアナザーで外国人などが入り込んで力を失い乗っ取られそうな日本にな、本当の日本を取り戻す為に日本を救い出すために集まったと、日本で本当の正義を取り戻し、ヒューマンとアナザーの共同の世界を作るのだとな…こういう時に正義と言うのは便利な言葉だな、ふふふ、ゴホッゴホッ…。」


暫く乾が咳き込んでいた。


「恭介!あんた本当に大丈夫なの!」


真鈴がスマホに怒鳴った。


「大丈夫だ真鈴。

 しかし、腕を斬り落とされるのは痛いものだな…数百年振りに痛みを感じたぜ。

 もう大丈夫だ。

 お前達に伝えなくちゃならん大事な事があるぞ。

 よく聞け、

 奴らはお前達の死霊屋敷と岩井テレサの小田原要塞を狙っているぞ。」

「え…?」


薄々ここにも暴徒が押し寄せて来るかもとは思っていたが、岩井テレサの小田原要塞にも…。


「奴らを随分と掃除したが、まだまだ残党がいる。

 今も着々とヒューマンを洗脳して勢力を伸ばしている。

 ヒューマンを入れると何万もの大軍になると思う。」

「…。」

「奴らは同時に小田原要塞とお前達の死霊屋敷を攻撃するつもりだ。

 奴らはお前達が日本に外国人などを引き入れて日本の力を弱めて日本を支配しようとする悪の集団だと教え込んでいるぞ。

 小田原要塞を攻撃する軍勢の方がずっと大きいとは思うが…お前達の所にも万単位の暴徒達、かなりアナザーが混じったもはや『軍勢』が押し寄せる可能性があるぞ…残念だが、それがいつなのかは判らないが…。」


そんな…乾の言葉は衝撃的だった。

3千どころか万単位の軍勢と呼べるほどの暴徒達の襲撃がここに…。


「はなちゃんはそこにいるか?」

「乾、いるじゃの。」

「そうか、はなちゃん、いざと言う時は手加減するなよ。

 お前たち全員もだ。」

「…。」

「さて、俺はまだやる事があってな。

 なるべく沢山の残党を始末して奴らの勢力を減らす努力をするが…もう…俺達管理者もかなり減ってしまった…。

 そして、『清算の日』は…もう近いぞ…お前達、何とか生き残れよ。」

「恭介!」

「真鈴、大丈夫だ。

 彩斗もそこにいるだろう?

 2人で話したいんだが…彩斗とな…。」


真鈴が唇をかみしめて俺にスマホを差し出した。


「彩斗、スピーカーモードを切れ。

 これは…皆に知らせない方が良いかもな…皆から離れろ。」


俺はスマホを手に取って皆から離れるように歩き出した。


「彩斗、お前『行李』の印判はまだ持っているのか?

 それを皆は知っているのか?」

「いや、まだ全員は知らないよ。

 これは最後の最後の手段で…。」

「もう、『行李』は使えないぞ。」

「…え?…え?…。」

「もうな、『行李』は地下深くに潜っている、地球のコアまで潜って行っているんだ。

 もう…印判でも呼び出せない。

 『清算の日』はもう…発動を始めている…。」

「そんな…。」

「今地上にいる者達はもう、誰も『行李』に保護格納される事は無い…残念だがな…。」


俺の身体の力が抜けてスマホを落としそうになった。

子供達が強硬にここに残ると言っていたのを俺は許可した。

いざと言う時に『行李』を呼び出せると、子供達やユキなど、その他に助けられそうな人達を…『行李』を最後の手段だと思っていたからだが…。 


「そろそろ俺はゆかねばならん…さよならだな。」

「…待ってよ乾!

 今真鈴と代わるから…。」

「彩斗、真鈴にはお前から俺がさよならと言っていたと伝えてくれ。

 俺は真鈴が大好き…愛しているとな。

 あばよ…あばよ彩斗。」


スマホの通話が切れた。

俺は慌ててスマホを操作して折り返し乾に電話を掛けたが、電源が斬られたとの通知があった。


俺は皆の所に戻った。

皆は俺を見つめている。

感の強いアナザーメンバーは薄々俺の落胆を察しているようだし、ヒューマンのメンバーも雰囲気を察しているようだ。


「彩斗…。」


スマホを受け取った真鈴が消え入りそうな声で言った。


「真鈴、乾が…真鈴に愛していると伝えてと言っていたよ。

 もう、スマホは繋がらない…。」


皆が俯いて黙り込んだ。

俺は非常に苦労して顔を上げた。


「皆、聞いただろう?

 出来る限りここの防備を固めるんだ。

 今すぐに作業を進めよう。

 最悪の時に小田原要塞に向かって脱出する方針は変えない。

 誰か岩井テレサに乾の電話の件を伝えてくれ。

 それと、はなちゃん、ちょっと良い?」


俺は圭子さんからはなちゃんを抱き取った。

そして皆に活を入れた。


「皆!ぐずぐずするな!

 乾の話を聞いただろう!

 あきらめるな!元気を出せ!今やれること以上のことをするんだ!

 ここが奴らに全滅など絶対にさせないぞ!

 作業に掛かれ!」


皆が顔を上げてそれぞれの方向に走って行った。


俺ははなちゃんを抱いて敷地の草原の方に走って行き、かなり死霊屋敷から遠くなったところで立ち止まった。


「彩斗…察したがの…本当に『行李』が…。」

「はなちゃん、今からそれを試そう。」


俺は胸の内ポケットに入れていた印判が入った小箱を取り出した。

指が震えている。


小箱を開けて仕切りを外した。

印判の5つの破片が合わさり、ほのかに輝き始めた。


「ほら、印判は作動している!

 はなちゃん!『行李』は?」

「今、探っているじゃの。」

「印判は『行李』を呼び寄せているよ!

 きっと来るさ!

 そうしたらすぐに屋敷に戻って子供達を、ユキを!」


俺は光を発する印判を見つめた。


3分経ち、5分が過ぎた。


「彩斗…『行李』は…上がってこない…じゃの…。」

「来るよはなちゃん、きっと…。」


そして…徐々に印判が光を失い始めた…。


俺の息が荒くなった。

訓練を始めたばかりの時に四郎から教わった落ち着くための呼吸法、吸った息を少しの間体内にとどめて静かに吐き出す呼吸をした。

だが俺の息はますます荒くなり…印判の光が完全に消えた…。


「彩斗…『行李』は…来ない…じゃの…。」


俺の膝が俺の体重を支えきれなくなって崩れ、地面に両膝をついた。

腕の力も抜け、抱いていたはなちゃんが落ち、印判の小箱も手から落ちた。

5つの破片が散らばった。

それは最早ただの何かの欠片に過ぎなかった。


希望が薄れて行く。


万単位のアナザー交じりの暴徒がこの死霊屋敷と岩井テレサの小田原要塞に同時攻撃を企んでいる。

『行李』を呼び出しせめてここにいる人達、子供達だけでも次代の種子として、希望として生かす事も不可能になった。


俺は顔を両手で覆った。

嗚咽が止まらない。


「彩斗…残念じゃが…お前の今の姿を誰かに見せられないじゃの…お前はリーダーじゃの…いま、見えない壁を張ったじゃの…誰もここに近づけ無くしたじゃの…。」

「…ありがとう…ありがとう…はなちゃん…。」

「彩斗…彩斗…お前はの…よく頑張っているじゃの…今までよく頑張って来ているじゃの…それに…まだいくつか希望が残っているじゃの…それにいざと言う時はわらわが襲撃してくる奴らを…わらわの身に代えてもな…あきらめるな…じゃの。」


俺は空に浮かぶ月を見上げた。


ジンコ…そしてジンコ達を月に送り込んだ岩井テレサを思った。

まだ希望はある。

希望があるさ。

ジンコが月から何か大事なヒントを持ち帰れば…岩井テレサが計画しているこの状況を打開できるプロジェクトが成功すれば…。

それまでなんとしても死霊屋敷を守り抜けば…。


俺は月を見つめた。

涙で歪んだ月を、俺は見上げていた。







続く


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