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私はジンコ。アポロ21号着陸船を調べ飛行士たちの遺体などを回収した…直接あの場所に行かなければならないだろう。




私はジンコ。

月面着陸に成功して月面探査を始めた私達4人のクルー。

軟着陸成功の後、地球との長距離画像通信が出来なくなった。

ステーションとのやり取りは出来るが、ステーションからも地球に長距離画像通信が出来なくなったとの事だった。


だが、探査は進めなくてはならない。

隆起した山の麓の光のオブジェは姿を消し、その代わりに人工物としか思えないゲート状の入り口がぽっかりと開いていた。

ゲートにセンサーを向けて警戒してはいるがその中からは何も姿を見せなかった。

ゲートの先にはただ真黒な空間があるだけだった。


私達は着陸船から月面探査車を下ろし、まずは着陸船が軟着陸した場所からさほど遠くないアポロ21号の着陸船の残骸に向かう事にした。

公式には17号までのアポロ計画だったが、極秘に21号まで進んでいる事は地球を旅立つ前に教えられた。


アポロ21号の着陸船の内部には亡くなった宇宙飛行士、私達の大先輩の遺体があるだろう。

着陸船のデータ回収と共に出来ればその遺体も回収して地球に持ち帰りたい。

地球に持ち帰り、きちんと埋葬をしてあげたいと言うのが私たちの願いだ。

月を飛び立つ際の重量制限に収まれば良いのだけれど…。


月面探査チームのリーダー、アランが着陸船にとどまって隆起した山の監視と私達のバックアップ。

私とリャンとジョゼフが月面探査車に乗り、アポロ21号着陸船の捜索に向かう。


ごつい8輪車の月面探査車内ではいざと言う時に一人だけ入る事が出来る緊急気密室以外に気密室を作る余裕が無いので宇宙服着用だ。

地球上ではごつく重く頑丈で安定した探査車だが、地球の6分の1の重力の月では少々運転にコツが必要だ、

私は慎重にハンドルを握り、アポロ21号の着陸船に向かった。


「ジンコ、アンノウンの山からは今の所エネルギー放射は確認できないぞ。

 あれからはだんまりを決めているな。」


アランから無線通信の声が聞こえる。

月面での短距離の通信は今でも生きている事に私はホッとしている。


「ジンコ、コピー。

 もうすぐアポロ着陸船に到着するわ。

 外見上はちょっと斜めにかしいでいるけど軟着陸自体は成功しているみたい。

 外周を一回りして損害を調べる。」

「コマンダー、コピー。」


私はアポロ着陸船の外周をゆっくり旋回して破損個所を探した。


「ジンコ、あれ。」


リャンが着陸船を脚部を指差し、私は探査車を止めた。

3人で観察すると着陸船の脚部の根元部分に破損している箇所があった。


「あの破孔は…内部からの爆発か破裂に見える…もしくは反対側から何かが船体を突き抜けて貫通した後か…降りて近づかなくちゃ判らないな。」


ジョゼフが破孔を観察しながら言った。


「コピー、近寄りましょう。」


私は着陸船に探査車を近づけて停め、皆が探査車を降りて着陸船に近づいた。

月面の大地の踏みごたえは、なかなか口で言い表せない気味が悪いものだった。

非情に細かく砕いたガラスの破片が敷き詰められたような所を歩くような感覚だ。

私達は月の砂を踏みしめながら破孔に近づいた。


「やはり内側からの爆発だな。

 恐らく着陸寸前にそれが起きたのだと思う。

 着陸時の衝撃緩和シリンダーは辛うじて作動したと思うけど、月面から離脱するための噴射部分がやられているよ…これが判った時点で…この先輩たちは月から戻れなくなった事を悟ったと思うよ…。」


破孔を観察していたジョゼフが小声で言った。

アポロの着陸船は月面から離脱する時に脚部を切り離されて月面に置いて本体が軌道上まで打ちあがる。

その為の噴射が出来なくなったと言う訳だ。

そうなれば絶対に月面から離脱できない。


私達は脚部を掴んで這い昇り、着陸船の出入り口を開けた。

中に酸素は無かった。

着陸船内部では、片隅に3人の宇宙飛行士が船外作業服を着た姿で寄り添い、お互いに肩を抱いて頭を寄せる状態で膝をついていた。


「可哀想に…徐々に酸素が無くなって行く恐怖に…。」

「電力も切れてどんどん船外作業服の温度調節も出来なくなるし冷凍庫並みに寒くなって来るわ…或いは我慢しきれないほどの暑さになるかも…お互いにしがみ付いて孤独と恐怖を紛らわそうと…。」

「お互いにしがみ付いて…もし俺達も月から離脱できない時は…。」


ジョゼフが途中までそう言い、不吉だと思ったのか口をつぐんだ。

私とリャンは先輩宇宙飛行士の遺体に両手を合わせ、ジョゼフは胸で十字を切り首を下げて飛行士たちの冥福を祈った。


私達はアポロ宇宙飛行士たちの遺体を回収する事にした。

バイザーから見える彼らの死に顔は腐敗もせず黒ずんだ顔は安らかに見えたのがせめてもの救いだった。

飛行士たちの遺体を探査車に積み込み、アランに連絡をした。


「こちらジンコ。

 アポロ飛行士たちの遺体を回収。

 引き続き船内データの回収作業に移るわ。」

「コマンダー、コピー。

 彼らを地球に送り届けきちんと弔おう。

 アンノウンのエネルギー放射は未だに確認できず。」

「ジンコ、コピー。」

「さて、問題はどうして着陸船がこうなったかだな。

 ジンコとリャンはデータの吸い上げをしてくれる?

 俺は着陸船の被害状況を調べるよ。」

「ジョゼフ、コピー。」


私とリャンがアポロ着陸船の船内データの回収キットを取り出し、ジョゼフは一足先にアポロ着陸船の船体に近づいて調べ始めた。


私はちらりと宇宙に浮かぶ地球を見上げた。

今ではいつでも地球が見える、

月の裏側はその殆どを地球に向けているのだ。


私とリャンで着陸船内のデータの吸出しを行い、ジョゼフが脚部根元の破孔と内部の損傷を調べた。


そして船内データを吸い出し、アポロ飛行士たちが書き残したメモなども回収し、私達の着陸船に戻った。

アポロ飛行士たちの遺体は緊急打ち出し用ポッドの中に安置した。

吸い上げたデータを着陸船で調べ、どうやらアポロ着陸船の内部での機械の何らかの不具合か液漏れかショートで事故が起きたようだったことが判った。


「どうやら、あの存在からの攻撃などではないらしいな。」


アランがそう言って窓から見えるアンノウンの山を見た。


「その様ね。

 私達側の、着陸船の事故だったみたいね。」


リャンが吸い上げたデータを別のディスクに移しながら言った。

このディスクも彼らが残したメモなどと一緒にアポロ飛行士の遺体とともに脱出ポッドに収めるのだ。


「しかし…あの存在は何なんだろうか…。」


アランが難しい顔になった。

隆起した山の麓から絶対に自然界ではありえない巨大な造形物が顔を出している。

おかしなことにありとあらゆるセンサーでも反応が無い。

跳ね返されるのではなく、すべてが呑み込まれているようで、人間の視覚などでは存在が確認できるが、赤外線、レーダー波などのセンサーには一切反応が無いと言う矛盾した反応を見せている。

科学の目からは存在しないと同じ反応だった。


アランが双眼鏡を持ち出して山の麓を見ている。


「あ!」


アランが急に叫んで双眼鏡を取り落とした。


「どうしたのアラン?」


私が尋ねるとアランは今見たものが信じられないと言う顔つきで山の麓を見つめている。


「今…月ではありえないものを…見た…。

 やはり直接に行くしかないな…。」

「アラン、いったい何を見たのよ。」


リャンが尋ねた。


「いや…いや…子供…すまん、忘れてくれ。

 これは私の錯視だと思うよ…。

 月にファンタースマがいる訳もないしな。」


アランが青ざめた顔で言った。

アランはヒューマンとアナザーやファンタースマの事も充分理解している男だった。


私達はとにかく直接あの山の麓に行かねばならない事ははっきりした。










続く



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