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他に避難民を保護していた拠点が襲撃された…俺達は対策を考え、そして、保護した人達にも武器を持たせるか決断しなければならなくなった…。



「景行…そのやられた拠点と言うのは…。」

「ああ、彩斗、俺達に似たように避難してきた人達を保護していた拠点があったようだ。  

 やはり、俺達の所同様にあまり目立たないようにはしていたんだが、俺達も同じで避難してきた人達をシャットアウトは出来ないしな…。

 人の口に戸は立てられんし、どこかから秘密は漏れたと思うな…。」

「…。」

「それを藤岡の組織か岩井テレサと対立する組織が人々を扇動して仲間に入れて襲わせたと…いう訳か。

 東京ドームを襲うのとは訳が違うぞ。

 うむ…岩井テレサと関連があると狙い撃ちしてきたのは確実だな。

 混乱を深めて『清算の日』を早く引き込もうとする藤岡の組織は判るが、岩井テレサと対立する組織の可能性もあるとわれは思うな。」

「四郎、確かにその可能性も高いな。

 この混乱に乗じて日本を支配して、ヒューマンたちを支配しようと考えたら俺達の様にヒューマンとアナザーの事を知っていてそれでも共存を目指すヒューマンが増える事は気に入らないだろうしな…。」


喜朗おじがそう言うと俺達は再び沈黙してしまった。


「俺達の所も奴らの標的になっている可能性は高いと思うな。」


明石が言い、はなちゃんが手を上げた。


「皆の者、何をビビっておるじゃの!

 わらわがいるではないか!

 なに、数え切らない者達が押し寄せようとな!

 ここの者達が逃げのびるほどの時間は食い止めてやるじゃの!」


黙って爪を噛んでいた真鈴がはなちゃんに尋ねた。


「はなちゃん、もしも大軍が押し寄せて来たらどれくらいの時間食い止められる?

 あの見えない力、今はどのくらいの時間張り巡らせるの?」

「真鈴、あれからわらわも強くなったじゃの!

 1時間くらいは…何とかできると思うじゃの!

 もっとも見えない壁を張っている時は他の事は出来んじゃがの。」

「そうか…岩井テレサはいざと言う時に小田原要塞に逃げて来いと言う言葉は今も生きていると言ってくれたけど…テレサの方でも保護する人が増えて余裕はなくなってきていると思うの。

 私達は何とかしてここを持ちこたえたいわ。

 まだここは助かりたい人達が逃げ込める場所として機能させるべきよ。

 でも…いよいよ持ちこたえられない、いざと言う時は全員を連れて小田原要塞に逃げ込むしかないわね。

 仮に岩井テレサがヘリを出してくれても全員が騒ぎの間にヘリに乗りこむなど危険よ。  

 ヘリ以外で私達が逃げる手段を今のうちに考えておきましょうよ。」


はなちゃんの言葉を聞いて真鈴の頭がフル回転を始めたようだ。

俺達も同じだった。

なんとかここを守り、最悪の、押し寄せた暴徒の群れに全滅させられることは何としても避けなければならない。

岩井テレサの小田原要塞に逃げるのは本当に最後の最後の手段だ。


「彩斗、この前結構大きなバスを2台持って来たわよね?

 あれには何人乗れるんだろう?

 最悪の場合、皆を乗せて小田原要塞に駆け込むしかないわね。」

「真鈴、1台当たり4~50人と言う所だな。

 もっと数が必要だね。

 全員が乗れるようにもっと調達しよう。

 それに、ある程度の攻撃でも走り続けられるようにバスを強化する必要がある。」


喜朗おじが手を上げた。


「俺がなんとか考えよう。

 窓に薄くても良いから鉄板を張り付けるとか、フロントガラスを叩き割って容易に侵入されないように金網を張るとか、路上に置き去りの車などくらいは弾き飛ばして走れるくらいにバンパーを強化するとかな、栞菜、正平を借りるぞ。

 車に詳しい奴の手を借りようか。

 奴が、いや、正平がここにいて正解だったかもな。

 栞菜の婿さん選びは正解だったようだな。」

「え?…喜朗ちち~!

 正平を婿と呼んでくれて嬉しいですぅ~!

 栞菜は喜んで喜んで正平を働かせるですよ~!

 こき使って良いですよ~!」


栞菜は目をうるうるさせて喜朗おじに抱きつき、喜朗おじが複雑な笑顔を浮かべた。

喜朗おじと栞菜を見た皆の雰囲気が少し和らいだ。


「そうね、正平君がいて助かるかもね。

 さて、バスを増やして強化して…。

 でも、人だけじゃなくて何日間かの食糧とかも必要よ。

 この状況じゃここから小田原までに辿り着くまでどのくらい時間が掛かるか判らないものね。」


圭子さんの言葉にリリーが賛成した。


「そうね圭子、私達の持って来た装甲バンでバスの車列の前後を守るとしても、バスの中にもワイバーンやスコルピオのメンバー達を何人か乗せてそれぞれ守る体制が必要よ。

 それでも何台か脱落するかも知れない。

 その場合、すぐに他のバスに乗りこめるように余裕が欲しいわね。

 せめてバス1台に30人程度乗りこむと想定すれば、万が一脱落したバスがあってもそれに乗った人達を他のバスに収容できるわ。

 他のバスの人を乗せる時に捨てるとしても空いたスペースに食料や飲み物などを入れれば良いわ。

 そうなると、あと8台くらいはバスが必要ね。」

「うむ、リリーの言う通りだ。

 先頭と最後はリリーの装甲バンが守るとしても、彩斗のランドクルーザーやディフェンダー、真鈴のランドローバーやボルボなどのわれ達が分乗してバスの間を守る事も必要だな。

 しかしここに、死霊屋敷にバスを置いて置くとな、いざと言う時に目の前に充満した暴徒を跳ね飛ばしながら、敵の一番厚い所を進まねばなるまいな。

 どうだろうか、隣の敷地、リリーの倉庫の横にバスを置いて置くと言うのは。」

「そうだな四郎、そこまでの避難経路を決めて置けば最悪の場合俺達が守る範囲も絞れるな。」


と明石が答えた。


「やっぱりあの地下避難道を作っていて正解だと思いますよ。

 まずあの道を通って隣の巨石に一度避難してそこからバスに乗りこめば良いと思うわ。」


凛の言葉に全員が頷いた。


「凛の言う通りですよ。

 仮に隣の敷地のゲートまで暴徒が来たとしてもここの入り口ゲートを突破するよりずっと敵は薄いはずです。」


クラが言った。


俺達は活発な意見を出し合って話し合いを始めていた。

結界の中は安全かも知れないが、そこに入ると周りを取り囲まれて袋のネズミになる恐れもあるから最終的にはやはり小田原要塞に逃げなければならない。


ここの人達を守って俺達も生き延びるためにはがっかりしたり恐れていたりしているだけでは駄目だ。

まだまだワイバーンは望みを捨てずに色々と生き延びる対策を、ここの人達を守る対策を立てて考えている。

ワイバーンがチームとしてちゃんと機能している事が判って俺は少し安心した。


「後は人数だな…岩井テレサが増援を送ってくれたとしてもだ。

 1騎兵隊まるまると言う訳にはゆかんだろうしな。

 話によると千葉と栃木の拠点に押し寄せて来た暴徒の数は3千を下らない数だったそうだぞ。

 全部ヒューマンならまだしも、かなりの数のアナザーが混じっているからな…。

 ヒューマンだけの集団ならば死体の山を築く覚悟があればここを守りきれるとは思うが。」


明石がぞっとする事を言った。

話し合いの場に緊張が走った。


俺の考えを読んだ明石がじっと俺の顔を見つめ、そして皆を見まわした。


「いいか、彩斗、そして皆。

 これだけは覚悟して置け。

 説得や話し合いの段階を過ぎてしまった時は、威嚇しても怯まずにまだ俺達を殺そうとして押し寄せてくる奴らはな『敵』なんだ。」

「…。」

「千葉や栃木の拠点もな、最初、押し寄せたヒューマン達に断固とした対応が、無差別発砲などの手段が取れなくて拠点の中になだれ込まれたそうだ…入り口ゲートなどを突破されて中に大勢が入り込んだら…最悪の殺し合いになる事は覚悟しておく必要が有るんだぞ。

 そんな惨状にここの人達を巻き込みたくないがな、だからいざと言う時は無事に逃げる算段を今立てているが…俺達は死体の山を、ヒューマンだろうがアナザーだろうが関係なく死体の山を築いてもここを守る覚悟が必要なんだぞ。」


その通り…かも知れない。

400年間戦場を見て来た明石の言葉は重かった。

万が一入り口ゲートを突破されたり、その他この敷地に入り込む手薄な場所は沢山ある。

これだけの人数が一斉に無事に隣の敷地に、巨石の庇護のある場所まで逃げるにしても地下避難口は狭いし全員が逃げるまで相当な時間が掛かるし、避難口からの出口も何人か割いて固める必要がある。

俺達が死体の山を築く決意をして戦うとしても、俺達ワイバーンで正面全力で戦える者は、俺、真鈴、四郎、明石、栞菜、喜朗おじ、クラ、凛、圭子さん、そして松浦、杉下、岬の12人

それに念動力を使うはなちゃんを入れて13人。

リリー率いるスコルピオの分隊がリリーを入れて11人。

しかし、隣の敷地でバスを守り突破口を確保するのに最低でも6人は割かないといけないだろう。


そうなると18人で死霊屋敷を守りつつ保護した人達の避難誘導もしなければならない。


18人対3千人以上…。


四郎や明石、喜朗おじ、栞菜やリリーなどが荒れ狂い、クラと凛コンビの乗馬突撃で敵をかき乱し、圭子さんの正確極まりない狙撃でどんどん敵を打ち倒して俺達や真鈴がそれを援護すればヒューマンだけの群れなら何人いようと押し返せるかも知れないが、敵の中にはアナザーもかなり混ざっているのだ。

はなちゃんの念動力、燃料気化爆弾並みの破壊力を持つカタストロフィーを使えば敵を一掃できるかもしれないが、いかんせん不安定すぎるし、大虐殺になる。

それでは核兵器を使ってアナザーと大量のヒューマンを蒸発させた中国政府と変わらない。

むやみに『清算の日』に立ち会う者達を減らす訳には行かないのだ。


「やっぱり襲撃を押し返すには手が足りないわね…。」


圭子さんが考え込んだ。

栞菜が言った。


「圭子さん、皆、正平はナイフの腕はまあまあに上達しているですぅ~!

 銃の撃ち方も栞菜は教えるつもりですぅ~!

 正面切って戦わせるわけには行かないけど、逃げる人達をも守る足しにはなるですよ~!」

「成る程な…朝のクロスカントリーや夜のナイフトレーニングにも志願して参加している人達がいるが…その人達に武器を持たせるのか?

 まぁ、保護した人達を守ると言う点では俺達も助かるがな…。」


明石がそう言って考え込んだ。


保護した人達に守る専門と言えども武器を持たせるのか…。

ユキもSIGとナイフを持ってはいるし、訓練も受けている。

しかし…。


俺達は複雑な気持ちになった。

だがしかし…。


はなちゃんが手を上げてゆっくりと話し始めた。


「皆、『七人の侍』は見ておると思うがの…侍を雇ってな侍だけを戦わせていたらあの村は全滅したじゃの…。

 百姓どもも竹やりを持って必死に戦ったじゃの、村を守るためにな。

 じゃからあの村は平和を取り戻したじゃの。

 わらわは昔、野武士などに襲われた村を散々に見たじゃの。

 場合によっては百姓どもも武器を取って戦ったじゃの。

 あの映画のようにな…。

 野武士などに蹂躙された村もあったし、なんとか野武士を追い払った村もあったじゃの…。

 無抵抗に食べ物などを全部差し出して村中が餓死した所も見たじゃの…。

 勝っても負けても百姓どもはかなり死んでしまったが…皆殺しにされるか米など食い物を全部持って行かれて餓死するよりもずっとましじゃの…。」

「…。」

「3千人からの軍勢が押し寄せて少数のわれらが戦って守りきれるか…。

 少なくとも逃げる者達を守るためにもな、保護した人達も戦う必要があると、わらわは思うじゃの…。」

「…。」


俺達は黙って考え込んでしまった。


「やるべし…じゃの。」


はなちゃんがまた言った。

明石が顔を上げて大きなため息をついた。


「確かにはなちゃんが言う通りの光景も俺は嫌と言う程見た…。

 何人かに武器を持たせて保護した人達を守るために戦ってもらう事も考えなくてはな…せめて保護した人達を無事に逃がす手助けをしてもらえば…その辺りを固めてもらえば、俺達の手持ちの戦力を戦いに集中できるぞ。」


そして明石がじっと俺を見た。


皆が俺を見た。


俺は答えを出さないといけないだろう。


「彩斗、やるべし…じゃの。」


はなちゃんがもう一度言った。









続く



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