明石、四郎、リリーの最強メンバーが奴らを減らしに行って来た…そしてスケベヲタクファンタースマ軍団の『生き残り』を連れて帰って来た。
「彩斗さん、明石さん達、どのくらい敵を減らせるんですか?
…明石さん達、無事に戻ってきますよね?」
起きて見張りについていた名前を知らない狙撃班の母親が声を掛けて来た。
「きっとかなり数を減らしてくれると思いますよ。
景行、四郎、リリーの3人は俺達の中でも最強のメンバーですからね。」
「そうですか、良かった…私、さっきドローンの映像を横目で見ていました。
あんな奴らは絶対にここに入れたくありません。
私も明日は撃ちまくります。
絶対に、絶対にあいつらを…ここの人達に手を触れさせませんよ。」
母親は顔を引き締めてそう言った。
恐らくこの死霊屋敷に自分の子供もいるのだろう。
数か月前まではまさかこんな状態に、死霊屋敷の鐘楼で高性能な狙撃銃を抱えて大軍を待ち受けるなんて事は想像もしなかっただろうな。
「そうですね。
俺達は絶対に奴らにここを好き勝手にさせませんよ。」
母親が手を伸ばした。
俺は母親の手を握り固く握手を交わした。
「やるべし!ですね!
私、大宮ゆかりと言います。
ここには二人の子供がいます。
男の子と女の子、男の子は8歳、女の子は7歳です。」
「大宮さん、よろしく。
やるべし!」
8歳と7歳の子供か…まだ母親と眠りたい年頃かも知れない…。
「え?あれはなんでしょうか?
ほら、山の向こう側。」
大宮さんが死霊屋敷の裏側の山が連なる所を指差した。
見ると、小さな光が大量に上空に昇って行く。
「あれは…ミサイルでもなさそうだし…はなちゃん、あれは何だろうね?」
「彩斗、今、わらわは奴らを見張っておるじゃの…他の事は…ちょっと待て。」
はなちゃんがそう言ってちらりと上空に昇って行く光を見つめた。
「判らんじゃの、姿もヒューマンと違うし言葉も何を言っているか判らんじゃの。
じゃが、どうやらこの星からしばらく出て行く様に言われたような感じじゃの…。
あれは…この星の者達では無いようじゃの…どれ、見張りを中断するついでに月のジンコを…おや残念じゃの月が見えんじゃの。
見張りに戻るじゃの。」
俺と大宮さんは暫く光を見つめたが、また見張りに戻った。
この星の者ではない…しばらく地球から出て行く…俺はいよいよ『清算の日』が本当に近いうちに起こるのでは、と思って身震いがした。
だが今は目の前に迫る危機に対処しなければ。
大宮さんの交代時間になり、圭子さんを起して彼女は毛布をかぶった。
「彩斗、はなちゃん、奴らの様子はどう?」
「圭子、今の所は動きは無いじゃの。
奴らはほぼ集結を終えたじゃの。
今は酔いつぶれまぐわいの疲れもあってほとんどが眠りこけておるじゃの。」
「呑気な物ね。」
「圭子さん、今景行と四郎、リリーがちょっと奴らの数を減らしてくると、『ひだまり』にスケベヲタクファンタースマ達が残っていたら連れてくると言って出かけているよ。」
「そう、『ひだまり』のあいつらのこと忘れていたわ。
彗星のシュタールとか…無事なら良いんだけど…。」
彗星のシュタール。
あの少年と言って良いほどのファンタースマは圭子さんの熱烈なファンで色々と俺達の為に活躍してくれていた。
彗星のシュタール以外にも暗黒の才蔵や稲妻五郎など…はなちゃんはとっくに逃げるかしたじゃろうと言っていたが…。
「おお!
景行達がの、奴らの中に入り込んだじゃの!」
「はなちゃん、始まった?」
「巧妙に眠り込んでいる者達の息の根を止め始めたじゃの!
今リリーがひだまりの燃え残った部分に入ったじゃの!
これは…ともかく奴らを静かに殺しまくっているじゃの!」
はなちゃんの言葉を聞いて俺と圭子さんはにんまりとした。
「はなちゃん、景行達の調子はどう?」
俺が尋ねるとはなちゃんが自分の唇に手を当てた。
「し、彩斗、今集中しておるじゃの!」
俺と圭子さんは黙って見張りに戻った。
耳を澄ましたが、『ひだまり』の方角から特に騒ぐような音は聞こえなかった。
明石達は順調に殺しまくっているのだろう。
オチュアが言ったように『清算の日』に立ち会えるヒューマンやアナザーがかなり減るかも知れないが、仕方ない。
これが未だに争いを捨てる事が出来ない俺達の限界だろう。
少し複雑な気分になって、俺は胸ポケットに入れたオチュアがくれた星の王子様の本の感触を確かめた。
明日はもっともっと大量に…『清算の日』に立ち会うヒューマンやアナザーを減らす事になるだろう。
やがて『ひだまり』の方角から銃声と怒号、騒ぎまわる音が聞こえて来た。
「はなちゃん!景行達は?」
「彩斗、圭子、大丈夫じゃの!
3人とも生きておるじゃの!
追ってくる奴らを時々待ち伏せしてぶち殺しながらここに戻って来るじゃの!
おお!数百は、いや千人くらいは始末したじゃの!
スケベヲタクファンタースマも何体か連れてきておるじゃの!
あやつら、逃げなかったのか!
見上げた根性じゃの!」
やがて、死霊屋敷の壁から何かが昇ってくる音がした。
すっかり血まみれの明石と四郎、リリーが壁を上って鐘楼に戻って来た。
3人ともゼイゼイと息を切らして、服の所々が破れ切り裂かれているが、どうやら無事の様だった。
しかしその凄惨な姿に俺と圭子さんの顔は引きつった。
「彩斗、圭子、随分奴らを減らしたぞ。
ヒューマンが多いがな、アナザーもかなり始末した。
追ってくる奴がほぼアナザーだったので待ち伏せをしてかなり始末したぞ。
1000以上は減らしたと思う。
アナザーも100近くは始末したはずだ。」
「景行、四郎、リリー!でかしたじゃの!」
「凄いわあんた達!しかしその格好…。」
圭子さんが言いかけるとリリーが血まみれの顔に微笑みを浮かべた。
「そうなのよ圭子。
この姿で死霊屋敷の中を通ったらみんなびっくりして大騒ぎになるかもってね、中を通らないで壁を上って来たわ。
服を着替えないとね~!」
リリーがジャケットを脱いで血まみれの顔を拭った。
「そうだ、彩斗。
『ひだまり』のスケベヲタクファンタースマを連れて来たぞ。
呆れた事にな…奴らは逃げずに『ひだまり』を守ろうとしたらしいぞ…。」
そこまで言うと四郎は顔を歪めて黙り込んだ。
「それで?
ファンタースマ達はみんな無事なのかい?」
明石が静かに答えた。
「彩斗、圭子…彗星のシュタールが今俺達の後ろにいる…他の生き残って隠れていた奴らは今、屋根裏のファンタースマと話しているんだが…シュタールから話を訊け。」
明石が言い終わると彗星のシュタールが姿を現した。
その目は泣きはらした様に真っ赤だった。
嫌な予感がした。
「彩斗将軍。
すみませんでした…『ひだまり』を守り切れませんでした…暗黒の才蔵も…稲妻五郎も…他の皆も頑張ったんですけど…アナザーに食い殺されて…生き残ったのは途中で逃げて隠れた僕と6人だけでした…ごめんなさい、ごめんなさい。僕達恐ろしくて…うっ…うっ…うぇ~!」
彗星のシュタールはその場で泣き崩れた。
「シュタール…泣かないで。
あなたたち頑張ったわよ!
とても頑張ったわ!
シュタール、せめてあなたが!ほかにも何人かが生き残ってて良かった!
…もうすでに一回死んでいるけど!
それでも生きていて良かった!
もう無理しちゃ駄目よ!
あんたはもうすでに死んでいるけど!
もう死んだりしたら駄目よ!
あなた達の仇は私達がきっと、きっとうつわよ!」
圭子さんが目に涙をためながら、変な言葉を挟みながらもシュタールを慰めた。
シュタールに実体があればきっときつく抱きしめただろう。
屋根を通り抜けて、屋根裏のファンタースマ達が鐘楼に来ると泣きじゃくる彗星のシュタールを慰め、その体を抱きかかえながら屋根裏に戻って行った。
俺達は奴らの為に『ひだまり』に巣くうスケベヲタクファンタースマ軍団を壊滅させられた。
あんなに無害で優しい奴等だったのに…。
くそが。
続く