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ドローンを全て撃ち落とし、鷲のアナザーもユキと保護した人達で始末し、襲われた母親も命を取り留めた…だが、沢山の暴徒が死霊屋敷めがけて集まり続けた。




肩を切り裂かれて倒れた母親は動かなくなり、もう一人の母親は司に追いつき、後ろから司に飛びついて覆いかぶさり、司の身体をその身で庇いながら地に伏せた。


アナザーの鷲がいったん上昇して旋回をした。


「チキショウ!

 あいつを撃ち落とせ!」


鐘楼にいた圭子さんが叫び、鐘楼の母親3人と鷲に向かって射撃したが、鷲は悠々と弾丸を躱して降下してゆく。


「皆、それ以上撃つな!

 他の誰かに当たるぞ!

 俺が行く!」


明石が射撃を中止させると江雪左文字を掴んで手すりを乗り越えて鐘楼から飛び降りようとした。

それと同時だった。

ユキがSIGを両手に構えて飛び出してきた。

ユキは司ともう一人の母親を狙って旋回しながら降下してくる鷲に狙いを付けて発砲した。

1発、2発が外れて喜朗おじの家の壁に当たったが続けて撃った3発目が鷲の翼の付け根辺りに当たった。


鷲がしゃがれた叫びをあげて地に落ち、ユキの後ろから死霊屋敷に避難していた母親と父親達がスコップや包丁やフライパンを手に声を上げて飛び出して行き、翼をバタバタさせて逃げようとする鷲に追いつくと散々に手に持った得物で殴り始めた。

前に四郎が言ったようにアナザーが動物などに変化している時の耐久力はその変化した動物並みになる。

回復力は高いが、続けざまに攻撃を受ければ死に至る可能性が高い。


「やれ!アナザーの姿に戻る前に!

 殺せ!」


明石がそう叫びながら江雪左文字を手に鐘楼から飛び降りた。


明石が地に飛び降りて江雪左文字を抜きはらって鷲に辿り着く前に、鷲は散々に殴られ切り刻まれ、死に、灰になった。


その間に別の母親達や救護担当の者が肩を酷く切り裂かれた母親を担架に乗せ、司ともう一人の母親を抱きかかえて死霊屋敷に戻った。


明石は鷲のアナザーの死を確認すると、空を見上げて警戒しながら鷲のアナザーに止めを刺した母親や父親達によくやった!と声を掛けて死霊屋敷に引き上げさせた。


「彩斗!ごめん!今だけ持ち場を離れるわ!

 あなた達、後はお願いよ!

 直ぐ戻る!」


圭子さんがそう言い残して鐘楼の階段を駆け下りて行った。

そして残った2機のドローンは飛び去ろうとして、鐘楼や俺達の家の母親達の狙撃で撃ち落とされた。

インターコムからクラの声が聞こえた。


「彩斗リーダー、ドローンの映像を送ります!

 鐘楼のタブレットを開けてください!」

「クラ、コピー!

 四郎、はなちゃん、周りの警戒を頼む!」


俺はタブレットを開いて屈みこんだ。

画面は4分割され、そのうち3つに俺達が飛ばしたドローンの映像が映し出された。

山側のドローン映像には敵らしきものは写っていなかった。

だが、もう一つ、『ひだまり』の上空を飛ぶドローンの画面を見て俺はショックを受けた。

物凄い数の暴徒達が集まっていて、『ひだまり』の敷地に収まりきらず隣の中華料理屋や道路まで盛大にはみ出して群れていた。

そして、『ひだまり』と中華料理屋に暴徒達が入り込んで面白半分に窓ガラスを割ったり、店の中の物を外に投げ出したりし始めていた。

そして、やがて『ひだまり』と中華料理屋から火の手が上がり大きくなってゆく。

暴徒達は立ち上る火の手を見て歓声を上げていた。


「くそ…あいつら俺達や大将の店を…。」


インターコムからクラの悔しく無念そうな声が聞こえた。

俺もクラと全く同感だった。

『ひだまり』にも、隣の中華料理屋にも数か月の間に詰め込まれた色々な思い出がある。

大将がこれを見たら泣くだろうな。

喜朗おじも…栞菜も…皆も…。


俺は気を取り直して町から『ひだまり』に続く広い道路の上空を飛ぶドローンの映像を見た。


ぞろぞろと切れ目なく暴徒の列が続いている。

中には平台のトラックに暴徒を満載したものもあったが、歩きの者が大半でのろのろと気勢を上げて歩きながら、道路沿いの家などを壊し、略奪しながら進んでいた。

列の終わりは見えなかった。


「はなちゃん、今、『ひだまり』の辺りにはどれだけ集まっている?」

「彩斗、細かい数字は判らんが、もう6千はいるじゃろうの。

 まだまだ集まってきておるが…奴らの歩みは遅いじゃの。」

「そうか、集まりきるまではまだ時間があるだろうとは思う。

 だけど見た所奴らは食料や水を特に多く持っていない感じだ。

 集まり次第にここに襲い掛かるだろうな。

 持久戦なんて考えていないようだし。

 一気に来ると思う。」


四郎がドローン画面を見て呟いた。


「それにしても…『ひだまり』にいたスケベヲタクファンタースマの連中はどうしたのだろうか…。」


確かに四郎が言う通り、俺も暗黒の才蔵たち、スケベヲタクファンタースマ軍団が心配になった。


「四郎、彩斗、安心しろじゃの。 

 この画面からは判らんが、奴らは逃げ散っておるじゃろうの。

 体を張って『ひだまり』を守ろうにも奴らにそんな力はないし、普通のヒューマンには見えんじゃろうからな。

 アナザーに見つかれば食い殺されるかも知れんから身を隠すか逃げ散っておるじゃろうの。」

「それなら良いんだけど…。」


明石夫婦が鐘楼に上がって来た。

圭子さんの目が赤い。

SR-25を手に取った圭子さんに明石が声を掛けた。


「圭子、下に降りて少し気分を落ち着かせろ。

 それじゃ狙撃の腕も鈍るぞ。

 そして下に行ってな、みんなを落ち着かせてくれ、あと、鷲を退治した人達に改めてお礼を言ってくれるか?

 保護した人達でも敵のアナザーを倒せると皆を元気付けてくれ。」


じっと明石を見た圭子さんが小さく頷いた。


「判ったわ景行。」


圭子さんがまた鐘楼から降りて行った。

明石は煙草を取り出して火を点けた。


「景行、鷲に襲われた母親はどうなった?」


四郎が尋ねた。


「ああ、かなり深く動脈まで切り裂かれていてな…喜朗おじが手の施しようが無いと言っていたが…彼女は青いメダルを持っていた。

 今、喜朗おじが処置をしている。

 彼女はアナザーになって生き延びるよ。」


俺達は保護した人達の内のヒューマンの人達にある選択をしてもらっていた。

青と赤のプラスチックのメダルを見せ、戦いが始まって自分にもしもの時、ヒューマンとして死ぬか、アナザーとなって生き延びるかという選択を…。


赤いメダルを手に取った人はヒューマンのまま死ぬ事を選び、青いメダルを選んだ人はアナザーとして生き延びる事を選んだ。


結果、7割ほどのヒューマンは青いメダルを選んだ。

子供連れが多く、やはり子供を残して死ねないと言う考えかも知れない。

あの肩を切り裂かれた母親はアナザーとなって生き延びる。

何人か判らないが、どうやら母親を亡くし悲嘆にくれる子供が出る事は防げたと言う事か…

まだ死霊屋敷は1人の死者も出していない。


「司は泣きながら、号泣してな、ごめんなさいごめんなさいと言っていたが、圭子の怒りは収まらなくてな、生涯2度めで司を手酷くひっぱたきそうになったが、司の身を庇ってくれた母親や他の母親達、それにユキが司の身を庇って、どうか許してやってくれと言ってな…圭子は暫く手を上げたまま震えていたが、やがて手を下ろして司を抱きしめて泣いたよ。」

「そうか…あの木は司の初恋の男の子の思い出の木だからね…。」


俺はそう答えてタバコに火を点けた。

燃えていた木はその後皆が水を掛けたり砂を掛けたりして消し止めた。

どうやら木としての命は長らえそうだ。

しかし、司の初恋の男の子は…今生きているのだろうか…。


その後俺達は改めてクラ達が飛ばしたドローンの映像を見た。

『ひだまり』と隣の中華料理屋に火を掛けられた事には皆がショックを受けたようだった。


「くそ、何て奴らだ…。

 しかし、一つ俺達に有利な事があるぞ。

 奴らはろくに食料や食べ物を持っていない。

 死霊屋敷を何日も包囲して攻撃を続けるなんて芸当は出来ないと言う事だな。」


明石が集結しつつある暴徒の列を写したドローン映像を見ながら言った。


「うむ、われもそう思うな。

 奴らは集まり次第ここに攻めかかるが、まだもう少し時間が掛かると思うぞ。」

「景行、四郎、俺もそう思うよ。」


明石がインターコムで圭子さんに話しかけた。


「圭子、まだ奴らの襲撃は無いな。

 今のうちに食事を用意して皆に配ってやってくれ。

 握り飯とかサンドイッチで良いが、何か暖かいスープかみそ汁もつけてやってくれ。

 隣のスコルピオの連中にも差し入れをしてやってくれ。」

「景行、コピーよ。」


続いて明石がインターコムに言った。


「全員少しリラックスしてくれ。

 まだしばらく奴らの襲撃は無さそうだ。

 見張りを何人か残して食事をとってくれ。

 圭子達が食事を持って行くぞ。」


各部署からコピーと返事が来た。

明石は隣の敷地の守備についているスコルピオのリリーにも状況を説明し、インターコムのスイッチを切って俺と四郎とはなちゃんに顔を向け、小声で話した。


「彩斗、四郎、はなちゃん、しかしな、いきなり奴らは激しく攻めて来るだろうな。

 最初から損害を顧みずに強烈な攻撃を仕掛けてくる。

 何とかそれを押し返すんだ。

 まぁ、はなちゃんが足止めしてくれれば、奴らの最初の攻撃を押し返せれば、俺達に充分勝機があるぞ。

 はなちゃんがいれば奴らは炎に飛び込む虫の集まりの様なものだ。

 いいか、最初に殺せるだけ殺すんだ。」

「景行!任せとけじゃの!

 わらわがしばらくの間、皆に格好の射撃の標的を沢山沢山与えてやるじゃの!」

「頼むぜはなちゃん。」


俺はまたタブレットの画面を見た。

相変わらず町からの暴徒の列は途絶えなかった。

いったい何人集まって来るのだろうか…。


その時ピアノの音が聞こえて来た。

そしてミヒャエルの歌声が、静かでいて心安らぐ歌声が聞こえて来た。

そして屋敷の中から、ガレージ地下から顔を出した子供達や配置についている母親や父親たちがミヒャエルの歌に唱和し始めた。

屋敷は歌に包まれた。


タブレット画面では『ひだまり』と隣の中華料理屋が激しく燃え続け、町からの暴徒の列は相変わらず終わりが見えなかった。


俺はミヒャエル達の歌を聴きながら煙草に火を点けた。

後でユキを褒めてあげなきゃな。

しかし、あまり危険な事をするなとも言っておかないと。 

ユキは、もうユキ1人の身体じゃないのだから。






続く



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