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俺は何とか気持ちを落ち着かせ、ワイバーンメンバー達と屋敷の防備を固め戦術を再確認した。


なんとか気力を振り絞り、俺は涙を拭いた。

そして非常に努力して気持ちを切り替えた。


死霊屋敷に戻る事にした俺は我ながら未練がましいと思いながら、印判の破片を拾い集めて小箱に入れ、胸の内ポケットに突っ込んだ。


「はなちゃん、まだ目が赤いかい?

 俺が泣いたことが判るかな?」

「彩斗、少し遠回りをして屋敷に戻れ。

 大丈夫、明石や四郎達は忙しく動いて居るし、保護した者達も協力しているじゃの。」



俺ははなちゃんを抱き上げ、深呼吸をしながら敷地を歩いた。

前にはなちゃんがカタストロフィーの練習をして出来上ったクレーターに辿り着いた。

大きなクレーターの底には雨水が貯まり、小さな池が出来上がっていた。


「おお、ここはわらわがスカトロヒーをした場所じゃの!」

「はなちゃん、スカトロヒーじゃなくてカタストロフィ-だよ。」


その内にこれはもっと大きな池になるだろうな。


俺はもうすでに草が生え、虫などの小さな命を育み始めている池を見てそう思った。


そこからさらに遠回りをして死霊屋敷に戻った頃には俺は落ち着いて話せるくらいに気分を立て直した。


明石達と保護した人達が総動員で屋敷の守りを強化する作業にいそしんでいた。


ワイバーンメンバーが俺を見ると、共に作業をしている人達に仕事を頼み、集まって来た。

俺達は暖炉の間に集まった。

皆がそれぞれ作業の進捗状況を伝えた。


「彩斗、四郎が再びカラスに変化して小田原要塞に向かっているわ。

 2時間半たっても戻ってこないなら私達スコルピオの分隊から志願者を募って小田原要塞まで伝令を出すわよ。」


とリリーが言った。


「彩斗、敷地の塀に沿って深い堀を掘り進めている。

 俺とユンボでかなり進んではいる。

 道路沿いの面は今日中に掘りあげると思うな。

 今日は徹夜でヲタ地雷をもっと作るぞ、もしも奴らが強引に侵入して来ればかなりの数が堀に落ちて堀が埋まればヲタ地雷を爆破する。

 相当な数の奴らを減らす事が出来ると思うな。」


と喜朗おじ。


「彩斗、ガレージ地下の拡張工事も進んでいるぞ。

 もう少し時間があれば俺達と保護した全員を収容できるくらいにはなるだろうな。」


と明石。


「彩斗リーダー、先ほどの岩井テレサの救援物資にドローンが何機か入っていたよ。

 これで周辺を俺達にも見える位に偵察が出来る。」


とクラ。


「彩斗、正平がバスの強化を続けているですぅ!

 今日夜まで頑張れば大型バスが全部作業が終わると思うですよ~!

 路線バスの方は明日中に済ませるつもりだと言っていました~。」


と栞菜。


「彩斗、ネットで対立する組織が人集めなどをしていないかチェックしているわ。

 まだ見つけてはいないけど怪しいものを幾つか見つけたわ。

 もっと探りを入れてみる。

 奴らの作戦計画とか探し出せるかも知れないわ。」


と真鈴。


「彩斗、ガレージ地下のピアノ、場所を取るから私の家のデッキウッドの移動させたわ。

 外だけど、まぁ、屋根が付いているからね。

 それと避難するための食糧とか余分な物を地下避難道の小屋に運び込んでいるわよ。

 それから、もう間に合わないかも知れないけど畑を広げているわよ。

 食料自給率を上げないとね。」


と圭子さん。


「彩斗リーダー、ユキと相談しながら皆が寝る場所の割り振りを考えて今までテントで寝ている人達をなるべく私達の家などに収容出来るようにしているわ。

 お年寄り達を小田原要塞に移してかなり場所が空いたからね。」


と凛。


「彩斗、やはり主要な侵入口は入り口ゲートになるだろう。

 バリケードを作って真っすぐ死霊屋敷に進めない様に置く作業を始めている。

 奴らはジグザグにバリケードに遮られながら進む事しか出来なくなるし、俺達はバリケードに張り付いて奴らに被害を与え続ける事が出来るしな。

 そして、地下避難道と別に隣の敷地までそこそこ深い塹壕を掘り始めている。

 地下避難道一本だけでは全員が巨石の所まで逃げるのに心細いからな。

 それに俺達もここが持ちこたえられない時は塹壕沿いに展開して奴らを足止めできる。」


と明石が言った。



皆それぞれが予想できる事態に備えて動いてくれていた。

みんなは俺の想像の遥かに上を行く位タフだった

皆の言葉を聞いて、それを聞いて安心するとともに俺はもっとしっかりしないと、心を強く持たないといけないと強く思った。


「みんなありがとう。

 引き続き、今俺達がやれる事以上の事をしよう。

 俺達のメンバーのジンコも月できっと頑張っているしね。

 岩井テレサ達もポールの連隊もオチュアもきっと…俺達だけじゃない。」


その時、地下ガレージから運び出したピアノの音が聞こえた。

そして、ミヒャエルの歌声が。

前に聞いた事がある静かでいて力が湧いてくるような歌。

やがて司や忍やコーラスの練習をしている子供達の声が加わった。

作業をしている人達は作業を続けながら、歌詞を知っている人は口ずさみ、歌詞を知らない人はハミングを始めた。


俺達は窓際に行き、その光景を眺めた。

身体が震えた。


「彩斗、人はね、ヒューマンやアナザーは美しい歌があれば前に進めるわ。

 私達はきっと…きっと大丈夫よ。」

「そうだな圭子。

 ここは絶対に守り切るぞ彩斗。

 この歌を途絶えさせる奴らはこの希望を摘み取る奴らは絶対に許さないぞ。」


明石が俺の肩に手を置いて言った。

俺は深く頷いた。

全くその通りだ。

 

歌を聴きながら俺達は作戦の再確認をした。

俺は頭を絞って考え、明石やリリー達が細かい修正を提案してくれた。


まず、最悪な時は岩井テレサの小田原要塞に避難する基本方針は変わらない。

だが、その際に3千どころか万単位の敵を突破しなければならない。

幸いにお年寄り達を避難させてバスには空きが出来た。

バスの台数を少し減らせるだろう。

リリー達の装甲バンにも保護した人達を乗せ、手空きのスコルピオの分隊員はそれぞれバスに分乗して個々のバスを守る。

俺達ワイバーンは先行して避難する人達や護衛のスコルピオの為に一丸となって襲撃する暴徒を食い止め何とかして突破口を作る。

それまでスコルピオは隣の敷地の倉庫とバスを避難の糸口が出来るまで守り抜き、その間保護した人達は巨石の結界内で待機、巨石の守りに身を委ねる事になった。

未だその存在の事がハッキリ判らず、どうやら守ってくれるらしいと言う希望的観測を持てる巨石に身を寄せる事にかすかな不安があるが、今となってはしょうがない。

俺達はバスと装甲バンの車列の脱出を見届けた後で車列の後を追い車列を警護しながら小田原要塞まで突っ走る。

その間に無電封鎖を解除して岩井テレサに死霊屋敷を脱出する事を伝え、可能ならば迎えの隊を出してもらう。

その間俺達は奮戦して敵を減らす事に専念する。

こんな感じで落ち着いた。


そして保護した人達の中からもう少し候補者を増やし、武器を渡して隣の敷地までの避難経路を守ってもらう事に決めた。

射撃練習をしている人の中から狙撃の才能がある人が何人かいたので、数丁のSRー25を渡し、圭子さんが射撃練習を教える事になった。

この人達を鐘楼や周りの俺達の家の高い所に配置して突入してくる敵を撃ち倒し少しでも数を減らしてもらう事になった。

子供達を幾つかの班に分けて、逃げ遅れる子供がいない様に確認して班単位で整然と避難できるようにする事にした。

戦闘で負傷した人達も速やかに担架に乗せて避難させられるように救護班も編成する事になった。

好むと好まざるに関わらず俺達は軍隊の編成のようになっていってしまったが…万単位の軍勢を迎え撃つには仕方がないだろうと割り切る事にした。

ユキがその他妊娠している女性達と共に子供達と優先的に避難する事に不満そうな顔をした。


「彩斗、私、まだ戦えるよ。

 この人達を守れるよ。」

「ユキ、ありがとう。

 それじゃ、子供達を守ってくれ。

 今のままじゃどうしても子供達を守る事が手薄になる事態になるかも知れないからね。」

「…うん、判ったわ彩斗。」


俺とユキのやり取りを圭子さん達はじっと見ていた。


「さて、彩斗、夕食の準備に取り掛からないとね~!

 新鮮な生ものとか日持ちが悪いものから消費する必要があるわね~!

 もう、外に調達に出てここを手薄に出来ないからさ。

 今のうちに美味しいものを作りましょ!

 これが続けば保存食料メインになりそうだからね。

 あと、牛さんとニワトリさん達…いざとなったら少なくとも柵や小屋から逃がしてあげないとね…何とか自力で生き延びてくれれば良いけど…。」

「そうだね、犬と猫は可能な限り連れて逃げるにしてもね。

 バスの中にドッグフードとキャットフードも積んで置いた方が良いね。」


俺はいささか能天気な事を言った気がしたが、皆は深く頷いて同意してくれた。

犬や猫だって大切な友人なんだ。

可能な限り命を助けたいと皆が思っているようで安心した。

まだ俺達には『理性』が残っていると言う事なのか…。


日が落ちてすっかり暗くなり、そろそろ夕食と言う頃に四郎が帰って来た。

コウモリの姿で戻って来ていた。

2時間20分、ぎりぎりタイムリミットに間に合った。


「彩斗、ぎりぎり間に合ったな。

 リリーはまだ伝令を出していないだろう?」

「ああ、四郎、ぎりぎり間に合ったね。」

「それは良かった。

 夜になるからコウモリの姿の方が目立たないと護衛を断って飛んで来たぞ。

 目立たない代わりにカラスの時の様にスピードを出せんのだ。

 やれやれ、草臥れた、腹が減ったぞ。」


俺達は四郎が持って来たメモリをパソコンに入れて覗き込んだ。








続く


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