1人目
夜が世界を包み込み、溢れんばかりの星の光が降り注ぐ。
深夜2時ーー5月のこの空は震えるほどに澄んでいる。
この時間、多くの人間は眠っていることだろう。
けど、僕は違う。
欠伸を漏らし、眠い目を擦り、トラウマになりつつある目覚しの音より早く、僕は目を覚ます。
メガネを外し、コンタクトに付け替える。
天気予報を観ると昨日より少し寒い。
長袖に腕を通し、ドアを開け、階段を下りる。
数人に挨拶をして、準備に取り掛かる。
5分もすると、エンジン音が聞こえ出す。
チラシを入れた後、新聞紙をカゴと荷台に乗せ、バイクを走らせる。
住宅街や工場、マンション、時には山を登って新聞を配る。
それを大体3時間程度繰り返し、僕は仕事を終える。
……前振りが長くなってしまった。本題に入ろう。
この日もいつも通り配達していた。……していたはずだった。
住宅街の配達を終え、次は工場に新聞を届けに来た時、非日常は現れた。
それは傲慢不遜な態度だった。
小さい体のくせにやたら態度がデカかった。
それは変な格好だった。
アニメに出てくるような魔女のような服を身に纏っていた。
なぜか服はブカブカだった。
それに僕は妙に惹かれた。
長く伸びた銀髪には月明かりを反射させていた。
赤く輝く目には吸い込まれそうになった。
魔性ーー彼女に対してそんな言葉を無意識に思ってしまう。
「喜べ!只人!
貴様を私の恩人にさせてやろう」
思えば、配達中におかしな奴らと出会うようになったのは、こいつが引き金だったのかもしれない。
「私は禁忌の名を冠する魔女。
ウィザリス・ラナー・クエストシアだ!
アッハハハハ! アッハハハハ! アッハハハハ!」
1人目、『禁忌の魔女』ウィザリス・ラナー・クエストリア。
魔女の願望編スタート。