5、もう一生洗わない!
私の……前世の私の推し、節くん。
“キミデイ”の隠しキャラ『黄王地 節』だ。
学園創設者の直系の孫で、高等部三年。
四分の一が日本人のクォーターだからか、彫りの深い顔立ちで少しクセのあるホワイトブロンドに祖母様譲りの榛色の瞳を持つイケメン。身長は190㎝もある。
見た目は日本人離れしているのに、日本生まれの日本育ちで英語はぜんぜん喋れないらしくて可愛いと彼を攻略した方々が語っていた。うん、可愛い。
ヒロインのひなちゃんが教室で出来たばかりのご友人達にシェアハウスで暮らしていると話していたから、てっきり節くんはひなちゃんと同じハウスだと思っていたのに何故ここに……私の暮らすハウスにいるのだろう?
あ、もしかして、ひなちゃんも一緒だったりする??ゲームでは一緒だったし。
考えが纏まり掛けた時、ふいに「さほちゃん」と甘い声で呼ばれた。
咄嗟に返事をしたら、「ひゃいっ!」と噛んでしまって恥ずかしい。それさえ、可愛いと笑う声がしてドキドキバクバクで倒れそうになる。何とか持ち堪えたけどね!
「ホントに遅刻しちゃうから用意しな?その間に朝ご飯作っておくから」
なぬっ!?
顔から手を外した時には節くんはもう背中を向けていた。
今のは聞き間違いか?
推しがご飯を作ってくれるだと??
まさか……!!?
顔を洗って、歯を磨いて、制服に着替えて、髪の毛も整えて。
時間を掛け過ぎたかな?と思いながらリビングに行くとご飯が並べられていた。
美味しそうなクロワッサンにハムエッグにサラダ!スープまであって、実家じゃ無かったオシャレ感。
し・か・も!エプロン姿の推しまでいるサービス。
座る様に促されて座った。椅子を引いてくれるサービス付きで。
すぐ横の椅子に節くんも座り、彼の作ったご飯を彼に見られながら食べるという……ある種の拷問を味わった。
ご飯はめちゃくちゃ美味しかったよ!
食べ滓が頬に付いていた様で、指で取ってくれたんだけど、それを自分の口に持っていきました。甘ぁ~い!朝から何のプレイだろう!?
その内、直接舐め取られたりするんじゃないかな?私どうしたら良いかな??
ドキドキバクバクが治まらない。
まともに話せていないんだけど!?
洗い物手伝おうとしたら、あまり時間がないからって支度の続きに行かされて、終わったら一緒に登校ですよ!!
頭が追い付かない展開の早さで、ちんたらしている私の手を引いて歩いてくれる。ここでもまさかの恋人繋ぎ。やべーな。
学校に着いてからは、教室に送り出されて自分の席で放心した。
繋いだ手……温かくて、すごく大きかった。
もみじ、とまでは言わないが、私の小さな手を包み込んじゃっていた様な?
……もう一生洗わない!!
とはいかないよね~。
トイレ行ったら流石に洗わないと汚ないもん。
もし、また、運良く握ってもらえた時に節くんの御手を汚す訳にはいくまい。
思い出しながら、手を胸に抱いて今は浸る。
「今日は遅刻してないな!」
予鈴が鳴る五分前ぐらいに教室に一際明るい声が響く。
周りに「おはよー!」と笑顔を振り撒き、最後に私にも「はよ」と挨拶をしてくる蒼くん。
私も「おはよう」と返した。
「昨日はたまたま遅刻しただけ。そんな毎日しないよ」
「入学式に遅刻の方が珍しいじゃん?」
まぁ、そう……だね?
後は今日の話を少ししていたら、予鈴が鳴って「また後で」と席に向かっていった。
蒼くんと話していると視線を感じたな~。たぶん、女子達からのだよね。
イケメンと仲良くなれるのは嬉しいけど、女子からの嫉妬は怖い。前世の時は特に地味な喪女だったから、将来有望な後輩イケメンに懐かれてからは嫌がらせが凄まじかったね。良い子だったし、私好みのイケメンだったから、可愛がっていたのがいけなかったかな~。
確認していないけど、ヒロインからの視線もあったんだよね。
【サポートキャラだって恋したい!】