14、せっかくの機会だぞ!
勢いで本当に「あ~ん」をしてもらっちゃいましたが、良かったのか?
………………あー、うん、良かったのだろう。
節くんがめっちゃ良い笑顔で次の一口を掬っていたから。
ん?本当に良かったのか?
飲み込んでから、更にまた一口「あ~ん」して……モグモグ。
このまま、食べ終わるまで食べさせられ続ける気がしなくもない。
ええー、こういう時どうしたら良いの??
ふー……お腹いっぱい、御馳走様でした。
たっぷり時間を掛けて、節くんに食べさせてもらいました。
一応、言ったんだよ?
私にばかり食べさせていたら冷めちゃうから食べて下さい、って。後は自分で食べます、って。
そうしたら……一口ずつ交互に私の口に入れては自分の口に入れる様になった。
スプーン奪い取れば良かった?
私には無理だった。
自分で作った普通のカレーだけど、普通に美味しいけど、それが更に美味しく感じましたよ。
推しパワーだね。
節くんは私のカレー美味しいって言ってくれたけど、節くんが手にした時点で何かもっと美味しくしてくれる魔法のスパイスが掛けられたんだ。間違いない。
まだ少し残っていたカレーも節くんが食べ切ってくれて、大満足!
幸せに浸りながら二人で片付けをして、八時半。
他のシェアメイトさん達はまだ帰っては来ず、食後のお茶をソファーの方に並んで座ってまったりすることに。
真横に推しがいるのに気持ちまったり出来る訳ないけどね!
よし!聞きたいことを聞こう!今こそその時だ!!
「あ、あの!お、お話が……」
と見上げたら、ニコリと目映い笑顔が向けられていた。
うわああぁぁぁっ!
推しの笑顔だぞ、何度見ても慣れん!!
こうして間近で見る度にしているかもしれない。あまりの目映さに目をぎゅっと閉じて、顔をくしゃっとする。
それでも、そのぶっちゃいくな表情には言及せずに「どうかした?」と聞いてくれた。
ええと、まず何を聞くんだったか。
き、キスされたこと?
ずっと「さほちゃん」と呼んでくれているけど……私のことを知っているの?とか。新入生より先にハウス入りした先輩達には名前だけ知らされていたりするのかもしれないし……それは、良いのか?
他はシェアハウスのこと……ルールとかあるだろうし。
いやいや、ちょっと待て?
名前を知ってもらっていたとしても、まだ自己紹介もしていないぞ。人としてのマナーだ。
今更なことばかりでごめんなさい!
「黄王地セ……」
改めて向き直って、ご挨拶をと口を開いたら節くんの指が……人差し指が私の唇に触れた。
え、何?
「もう『節くん』って呼んでくれないの?」
え?
いつ呼んだっけ……。
心の中では呼んでいたけど…………って!昨日か!?てっきり夢だと思っていたあの時か!??
今でも夢じゃないかと思っている、あの時!!
待って待って待って!
入学仕立ての外部生がいきなりあんな馴れ馴れしく呼んだら非常識じゃない?あのひなちゃん並みにやってしまっているじゃん!?
節くんは……怒っても引いてもいないみたいだけど。
むしろ、正した今の方が残念そう?
節くんの言葉からして、「節くん」と呼んだ方が良いのか?
こうして本人を目の前に意識して呼ぶのは少し……いや、かなり勇気がいる。
ゲームの中じゃ、下の名前で呼ぶのはヒロインの特権みたいに攻略対象と幾ら仲が良くてもサポ子は名字で呼んでいたし。
心の中と、実際本人に対して呼び掛けるのとでは違い過ぎる。私なんかが呼んでも良いのか?と。
でも、呼んでも良いなら……呼びたい、かな。
勇気を出せ!せっかくの機会だぞ!
私は、ただサポートするだけのゲームの登場人物じゃない!
ここは現実で、私も節くんもみんな生きている!
「よ、呼んで……良いんですか?その……『節くん』と」
恐る恐るにはなる。
嫌われたくないもん!
「もちろん!」と笑ってくれるから、私も釣られて「ありがとうございます、節くん」と笑った。
けど、推しの終わらなかった。
「そんな畏まらなくて良いよ。両想いなんだから、もう恋人同士でしょ?」
引き寄せられて、膝に乗せられたかと思えば……キスされる。唇に軽く、ちゅっ、と。
ひぃん……!!!!
【サポートキャラだって恋したい!】




