1、良い天気だなぁ!
嗚呼、空は蒼く良い天気だなぁ~……。
誰かが挨拶をしているのを遠くに聞きながら、膝を抱えてしゃがみ込んでいる私は現実逃避をする様に晴れた蒼い空を見上げていた。様に、というか完全に現実逃避ですがね!
すでに始まっている入学式に遅刻し、漫画みたいにドジっ子天然ヒロインの如く「遅刻しちゃいました!ごめんなさ~い!」と堂々と入っていく勇気はありません。ついさっき、それで入って行った勇者がいたけどな!
ここが……この世界が乙女ゲームの世界であっても恥ずかしい!
そう!ここは乙女ゲームの世界なんだよ。信じられる?
『君色に染まる日常』……略して“キミデイ”!
黄王地学園という大きな学園の高等部に外部入学した主人公が攻略対象の将来有望なイケメン達と出逢い恋愛をするゲームだ。
私は『手助 小補子』。
残念ながら主人公ではない。
だからといって背景でもない。
強いていうなら、愛玩物だろうか。
……うん、ごめん、違うね。
マスコット風サポートキャラクターだった。
145㎝と小柄で、目が大きくクリクリした人懐っこい小動物系美少女。主人公の親友となり攻略対象の情報を教えてくれたり、時に攻略対象と進展する様にお膳立てをしてくれて、他学園生活の助けにもなってくれる有難い存在。通称『サポ子』ちゃんだ。
好きなゲームのキャラクターに転生!可愛い女の子になれたぞ!ひゃっほー!!!
……なんて気持ちは無い。
好きなゲームの世界に転生は嬉しいし、生きて動いて喋る推しは尊いとは思うの。
それは間違いない。
間違いないが、だ。
サポートキャラクターだぞ。
ゲームの中と同じ流れで進んだ時に主人公が現れて、推しの攻略の手伝い頼まれたらどうよ。ゲームとして考えるなら同担拒否はしないが、現実で推しと可能性がある今快く手伝い出来るかと言われたら否!
しかも、ゲーム内では主人公の次に推しと仲良くしているサポートキャラクターだが、流石マスコット!女として見られることが無いのですよ。攻略対象の台詞の中にあるんだわ。主人公が如何に女性として魅力的か、ちんちくりんなサポ子と比較する様な台詞があるの!酷くない!?
まだモブの方が女として見てくれそうじゃない?そっちの方が明らかにスタイル良いし!
前世もおっぱい無かったけど、転生したら前世の細やかな膨らみが更に無くなったんだけど酷いよね?次また転生する様なことがあれば、確実に抉れるよね??
ということで、推しと接点持つことも迷う訳ですよ。直に「女として見れない」なんて言われたら登校拒否ものだわ。サポ子を改めて引きこもりのヒキ子になる。
今朝目を覚ました時に所謂前世……この世界をゲームとしてプレイしていた頃の記憶を思い出して、放心しました。
そうしている内に遅刻しました。
サポートキャラクター失格である。
本当なら、クラス発表の掲示板の場所が分からなくて困っているヒロインに声を掛けて連れて行ってあげる大役があったのに。
同じクラスだから逢えるけど、それをしていないから友達にもならないかも……?
初っぱなからしくじったので、モブに転身しようか。そうしよう。
ゲームの世界って言っているけど、ここで生きているのだから、もう現実。
その通りに生きないといけないことはないだろう。
よく言われる強制力がなければの話だけど……。
と入学式に堂々と入る勇気はない私は、外で待ちながら色々考えています。今!
式が終わった後、教室に行くのも鬱。
帰っても良いだろうか?
……嗚呼、空は蒼く良い天気だなぁ~。
【サポートキャラだって恋したい!】