化け狸とオーディション-4
「もっとにっこり笑うの! カワイイ女の子はそんなおばさんくさい笑い方しないのーっ!」
「はいっ、先生!」
「はいそこでダブルピース! うんうんカワイイよー!」
「はい!」
「よーし! こんなところでいいでしょー! ヒメちゃんのカワイイ講座でした! ご清聴ありがとーございましたぁ!」
「ありがとうございましたぁっ!」
ひめによる綿狸カワイイ化計画。
計画の初めは外見の矯正じゃった。
ひめ曰く、将来性を見られるのであれば若いに越したことはないとのことで、見た目の設定は12〜13歳ほどに落ち着いた。
なんでもこれぐらいの歳が少女から大人になる過程の、可愛さの黄金期間なんじゃと。
あくまでひめの意見ではあるが。
黒髪のままで年齢だけいじったから、ひめと並ぶと丁度歳の近い姉の様な形だ。
大体身長は四尺半くらいか。
ひめより拳ひとつ分くらい高い感じじゃのう。
顔は多少いじった方がいいとのこと。
折角狸なのだから狸要素を取り入れたほうがキャラが立つ、との主張で目は大きく少し垂れ目気味にして、眉は楕円気味の麻呂眉に決定じゃあ。
髪型はどうするか、との我の問いには、断固「ミディアムぐらいで毛先はふわふわにしよう!」じゃと。
髪は肩口にかかるくらいで……?
毛先はふわふわに……?
試行錯誤の末、なんとかひめの納得できる程度まで調整できた。
歩くとほよほよ跳ねてなんだか面白いのう。
髪色は……今の我の毛の色に近い明るめの茶色じゃ。
「キャラがかぶるから!」とひめに黒髪への駄目出しを食らったためじゃ。
我としては元に近い方が違和感なく過ごせるから大歓迎じゃなあ。
服は和装で行こうという共通認識のもと小袖袴に決定。
生成りの小袖に綿花の模様を入れ、袴は髪色に合わせた色にしたぞ。
我の希望で首元にはもふもふの白毛で出来た襟巻きを追加した。
ここは譲れんからのお。
そこからは何を付け加えるかという話じゃ。
耳と尻尾は出してもいいんじゃと。
なんでも今の人間たちの中にはけもなあ?と呼ばれる者たちがいるらしく。こういう獣な部分が受けが良いらしいぞ、知っとったか?
とにかく窮屈じゃなくてよろしい。
声色は矯正されたのう。
綿菓子みたいなふわふわ甘ったるくて高い声になり、ちと恥ずかしいが、なんと話し方はこのままで良いそうじゃ。
ぎゃっぷだとか、ろりばばあだとか、おかしなことを言っとったが受けが良くて楽なのであれば勿論了承するさあ。
「よしよし。ここまでやればもう大丈夫じゃろお」
「だめだよー、カワイイ道の入り口に立ったに過ぎないんだからねーっ!」
外見が完成したところで、ひめによるカワイイ講座とやらが始まった。
身振り手振りを交えながら、鬼軍曹の如き熱血さでひめの指導は制限時間一杯まで続いた。
お陰で古臭い婆ア狸の姿ではなく、ひめの横に並んでも遜色ないようなふんわりとしたお嬢さんが出来上がった。
まあ、中身は婆アのままだから見かけ詐欺も甚だしいんじゃがなあ。
「うん! ここまでやればヒメもまんぞくだぁ! でも、もうおばあちゃんって呼べないね! ねね、お名前教えてよ?」
「そういやあ教えてなかったの。我は綿狸と呼ばれておる。本当の名前は別じゃがな」
「ふーん、そうなんだー。……じゃー、ワタちゃんって呼ぶね?」
「好きにせい」
「えへへっ、ワータちゃん!」
ひめは我の腕に自分の腕を絡めてぐいーっと体を擦り寄せてきた。
なんじゃい、猫みたいなやつだのう。
ひめの頭をぐりぐり撫でているとプァーと気の抜けるような音が会場に響き渡る。
どうやら終了の合図らしいのう。
皆がしばらく動きを止め、やがて懐のユーフォンがぶるると振動する。
ひめや皆も同様で、懐からユーフォンを取り出しておった。
自分のユーフォンの画面を見ると一通のメールが届いておる。
これが合否通知じゃろうなあ。
正直言って自信はある。
しかし他人に判断を委ねるということは存外緊張するものだ。
傾国の美女であろうとも深鏡の好みでなければ否を突きつけられることだって考えられるんじゃからな。
年甲斐もなくドキドキしてきよった。
隣にいるひめは余裕そうな表情でこちらに笑いかけてきた。
……そうじゃな、怖気付いてちゃおれんよなあ!
意を決してメールのアイコンをタップする。
雲外フォン事務局から一通のメールが届いておるな。
さあ、審判の刻じゃあ!!
***
件名:第二選考合否判定
綿狸様
いつもご利用ありがとうございます。
雲外フォン事務局でございます。
この度の二次選考の結果でございますが、厳正なる審査の結果
【合格】
とさせていただきます。
引き続きの三次選考でも活躍を期待しております。
深鏡創士
***
「ごっ、合格じゃあああああああああああ!!」
ほう、と気が抜ける。
ひめの協力を無駄にすることがなくて良かったあ!
「ひ、ひめっ、通った! 合格じゃぞお! ……ひめ?」
ひめの顔を覗き込むと何やら様子がおかしい。
顔を見せない様に俯き、肩を震わせて我の腕をぎゅうと強く握りしめておる。
「……ひめ」
そうか。
ひめは不合格じゃったのか。
厳しい様じゃが、これも時の運。
我はひめの想いも背負ってこれから頑張っていかねばならぬ。
とはいえ童女が泣いておるのを無視はできんよ。
ここは、年長者らしく慰めてやらねばなあ。
「……ひめ、落ち込むことはないぞ。今回は運が悪かっただけじゃあ。ひめはまだ若いのだからここで腐らずに……ん?」
おい。
肩の震えが激しくなってんじゃけど。
これ泣いてなくないかあ?
「あーっはははは! ワタちゃん騙されちゃってるーっ!」
ひめがパッと顔をあげ、こっちを指差しながら大笑いしよった。
「ヒメちゃんが落ちるわけないでしょー! まったくぅ、わかってないんだからあワタちゃんはぁ〜っ!」
そのまま指差していた指で我のほっぺたをツンツンつついてきよる。
ほぉ、非常に不快じゃのお……ッ!
心配してやったのにこの仕打ちとは!
可愛いやつかと少しは見直しておったが、こやつはやっぱりクソガキじゃあ!
ようやくロリババア化できました。
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