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化け狸とオーディション-3

「ぶっはぁっ! ペッペッ!」


全くえらい目にあったもんじゃあ。

そりゃあ串刺しで二目と見られぬ姿になることは避けたが、これはこれで窒息するかと思ったわい。


「オーイ! ひめよー、生きとるかー」


綿の海の中に呼びかけるとすぐそばの綿がもこもこと動いて、綿まみれのひめが顔を出した。


「うぇー、口の中まで綿はいっちゃったー。もっとキレーにたすけてよー!」


「口が減らんなあ。まずは礼を言うのが筋じゃないかよ?」


「ヒメたすけてなんて言ってないもーん。ヒメは強いからあんなのじゃ死なないしー」


……。

もう流石に慣れたわ。


「「生き残ったみなさん。第一選考突破おめでとうございます」」


再び深鏡の声が響いてくる。

姿を現さんとこを見ると、どっかで我らを監視しとるんじゃろうなあ。

千里眼持ちの奴らはこれだから困る。


「こらァ! 他人を蹴落とすな、とか言っといて自分は容赦ないんじゃのォ!!」


「「審査員として泣く泣くの判断でした。私としては集まったみなさん全員を採用したいのですが、これもスポンサーの意向でしてね。私も辛いのです。ご理解ください」」


しれっと言い放ちやがるが、絶対そんなこと思ってないじゃろお。


「それになんじゃあ! 思いっくそ暴力的じゃのォ!」


「「まあ、この程度の自衛ができない妖怪は流石にお話にならないです。こちらもあまり時間をかけたくないのですよ。合理的な判断と言っていただきたい」」


「……本音はそれかい」


周囲の綿を大変化で霧に変えて吹き飛ばす。

綿に塗れとった我やひめ以外にも、明らかに肉体派なやつらに、半分体が透けているような半透明なやつら、あとは我みたいに術に自信があるやつかの。

それらが吊り天井の難を逃れたようじゃ。


「「それでは第二選考を始めます。もう不意打ちのような真似はしませんのでご安心を。ここは瓦礫が多いですから少し片付けましょう」」


パチン、という指を弾いたような音と共に瓦礫が消え失せる。

パッと見た感じ残ってるのは百体程度か。かなり減ったのお……。


先程から気になっとるんじゃが、雲外鏡も名がしれた大妖怪とは言えここまで大きな力を振るえるものか?

やっぱり背後にいる東西の魔王が関わってきとるんじゃろおか。


「「第二選考は題して『羞花閉月』。花や月さえも自らを恥じてしまうほどの美しさを私に見せてください。勿論、妖術使用で構いません。ですが、ベースは人間の女性に限定します。本来なら人間にはついておりませんが、獣の耳や角、その他容姿にプラスになるであろう衣裳やオプションは許可します。制限時間は30分。30分を過ぎた時点の容姿で判断し、雲外フォンに第二選考の合否を通知します。私は何処からでも見ていますからね」」


「オイ待てよ! 俺は男だぞ! どうしろってんだ!」


筋骨隆々の赤鬼が手持ちの金棒を振り回しながら抗議の声を上げた。

そりゃそうじゃよなあ。

あまりにも一部の者には酷な条件じゃ。吊り天井の比ではないくらいに。


「「妖術の使用を許可しているんです。あなたが思う美しさを表現してくださればそれでいいのです。それとも辞退しますか。それでも私は構いませんが。この程度で諦める意思薄弱者など、この先もやっていけないでしょうから」」


「ぅぐッ……!」


それを出されると辛いよなあ。

化け術なんぞ妖怪の基礎技能じゃしなあ。

だがそれでも得意不得意はある。

我なんかは種族特性上化け術の研鑽は怠ってこなかった。

鬼は……暴れ回ってるだけのやつが多いからのう。

じゃが、一条戻橋のあの鬼は絶世の美女に化けたとも言うから無理ではないんじゃろう。


「「これ以上の問答は不要です。それでは、第二選考を開始します」」


ブツン、と言う音を最後に深鏡の声が途絶えた。


先程の鬼は頭を抱えているところを見ると、化け術苦手みたいじゃなあ。


さてと、30分というと四半刻程度か。

我もようちゅーぶで現代の時間の感覚は覚えとるからな!


しかし、ウーム……。

美しさを見せろか……。

流石に婆アの姿に人化したところで無駄じゃろうなあ。

ようちゅーぶ配信での屈辱は忘れておらん。

深鏡が何を求めているのか、を明確にするのが必勝への近道じゃろ。


「のうのう、ひめよう。ひめはどんな風に化けるつもりじゃ?」


我がそう問いかけると、ひめはにししと悪餓鬼のような含み笑いをして答えた。


「ヒメはー何もしないよー。だってヒメは何もしなくてもカワイイんだもん。ハッキリ言って、ラクショーだよねー」


ひめはその場でくるりと着物の裾を翻して回る。

確かにクソガキな言動は多少鼻につくが、見かけは良いものなあ。


おかっぱ気味に切り揃えられたぬばたまの黒髪に、扁桃型のぱちりとした意志の強そうな瞳。つうっと真っ直ぐに通った鼻筋に、白い肌にわずかに朱を差したふっくらとした頬は子供らしい生命力を感じさせる。

それにクソガキな言動も、かなり良く表現すれば天真爛漫と言えなくもない。


「それにー姉さまにもらったお着物もあるからねー。これを着てるヒメはサイキョーなんだよー」


「なんじゃ、ひめには姉がおるのか」


「うん! 姉さまはすごくカワイイんだあ! ヒメなんて比べ物にならないくらいー。ちょっとヒッキー気味だけど」


自分に自信のあるヒメがそこまで言うのか。

身内贔屓もあるじゃろうが、一度お目にかかってみたいもんじゃな。

ってえ、そんなことよりも時間がないんじゃった。


「のう、ひめ。だったら暇じゃろ? ちょいと我に協力してもらえんか」


「んー、いいよぉ。結果的にさっきはたすけられちゃったしー。何をすればいいのー?」


「我が化けるから、美しい?か教えてほしいんじゃ。山に篭ってたせいで最近の流行なんぞはちっとも分からなくての」


「うん、わかったぁ!」


うむ、良い返事じゃ。

ではゆくぞ。

これが綿狸の考える絶世の美女じゃあ!


ぼぅんと白煙に包まれた姿が徐々に顕になる。


「どうじゃ、ひめ!」


自信満々に胸をはる。

この姿は我が今までの長い狸生の中で見た一番の美女の模作じゃあ。

とある村の娘でのう。

20代は半ばくらいなんじゃが、長い黒髪とたおやかな容姿で村の男どもからは「まるで天女だ」と持て囃されておった。

人間の感覚はよくわからんが、天女に例えられるほどの逸材じゃ。

悪くはないじゃろ、これを基盤にちょいちょい現代風に弄れば第二選考も突破じゃのお!


「うわ、だっさーい……」


じゃが、その自信はひめの落胆の一言で打ち崩された。


「エェッ!? なんでじゃあ! 美しいじゃろおっ!?」


「たしかにーお顔は整ってるけどぉ、しょーじきそこまででもないかなぁ。服もナニソレ? ベージュ、っていうか布そのまま織りましたってカンジー。素材の味って言って、野菜そのままだされたみたいなー?」


「……」


思ったより辛辣デスネ?


「たぶんそれじゃ、おばあちゃんとはここでバイバイじゃないかなぁ?」


「……じゃあ、一体どうすればいいんじゃあ?」


不満げに口を尖らせる我に、ひめは満面の笑みでこう告げるのであった。


「ヒメにぜーんぶまかせてぇ。誰でもカワイイとしか言えない姿にしてあげるぅ」


うん。ここが全ての転換点じゃわ。

ここで安易に「任せた」なんて言ったから、我の新たな狸生が始まっちゃったのじゃなあ。

ちょっと妖怪を齧ったことがある方ならヒメがなんの妖怪なのかはもう気づいてるかも。

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なんでもしますから(なんでもするとは言ってない)。

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